アザーエルの仕事1
アマリ・リャジャエルド・リースシャルバンタン。長いので、ラジャエリと呼んでくれて構わない。
稀に、ジャーエーと呼ぶ者が居るが、それはかなり近い身内か弟だけだ。
そうそう、神様からは、弟さんと呼ばれたな。
我が一族に伝わる、かつての王国の言葉で、ちゃんと意味が在る。
いずれ機会があれば話そう、 …なにせ、名前よりも遥かに長い話だからな。
私には兄と弟がいる。
但し、兄と会ったのは私が14の時、それもどうやら意図的にそうされた様だ。
兄は初めて会って直ぐに、兄弟だと分かった。髭が無いだけで、顔も声も、仕草までも父とそっくりだったからだ。
そもそも、十数年会ってもいない人を急に、それも兄と呼ぶのは、いささか抵抗があった…
それでも、兄が【深淵の目】だと聞かされ、考えは変わった。
その目を与えられるのは、特別な日の特別な時間に生まれた男子のみ。運命の御子と呼ばれる。我々を導く、偉大なる神の元へ…
それは、救国の英雄たち…
かつて神と直接約定を交わせし、【リジャ】族の系譜、
その血を受け継いだ者の中から、僅かに数年に一度、生を成すと言う。
まさか自分の兄が…
誇らしい、そして何と羨ましい事か…、神に仕える仕事の中でも、本当に特別。
私は、神官さまに強くお願いした。
「私も国の為、そして兄の為により多く働きたいです。」
神官さまにも、実は身近に【深淵の目】が居たそうだ。
その方は最近、遠い異国で命を落とされたそうだが、彼には思う所が有るようだった。
彼は暫くの間思案し、言った。
君の気持ちはよく判った。そうだな、勤勉で信仰も厚く、何より血筋も問題無い。
暫く時間をくれるかね?きっと良い返事が出来ると思うよ。
それから数カ月後、国で一番古い、とても小さな神殿に、数人の神官と共に案内された。
500年以上前の、色褪せた彫刻や壁に刻まれた外壁の紋様が、静かにその歴史を語っていた。
他のどの神殿ともその造りが違っていた。
そもそも、建物の外壁は高く、外から中は見え無い、そして入れる人間も決められていた。何度も外の壁は見ていたが、私も中は初めてだった。
腰の高さ迄掘られた、半地下の、細長い廊下状の床、幅は人が二人で両手を広げた位…
その両横に、均等に柱が数本並んでいる。
そこに壁は無く、屋根だけが有った。
突き当たりには小さなテーブルが有り、黒い石の玉と、顔が映る程磨かれた、小さな金属の板が置かれていた。
厳重に管理されている割には、
驚いた事に、中はたったそれだけ…だった。
拍子抜けした様だね、っと、小さく笑いながら、あの、私がお願いをした神官さまが言った。
まあ…皆、大体そんな感じなんだよね…フフフフ…
「ようこそ、アザエル祈祷所へ」
では、先ずは神に誓いを捧げましょう。
さあ、私の真似をして下さい。
半地下の階段の手前に、大きな水桶が有った。手と足を清めます。
靴を脱ぎ、素足で桶に入った。
手と足を軽く洗って桶から出た。
濡れたまま、その反対にある見たこもないような大きな葉っぱを
、よく磨かれた小さな刃物で切り取り、
草履のような簡易的な履き物を作り、それを神官さまは私に渡された。
それを履き、そして一輪の花を渡された。白い百合の花だ。
ゆっくりと廊下を進んだ。神官さまが右で、私が左。
並んで ゆっくり進んだ。
祭壇の前で、神官さまが言った。
「私に続いて同じ事を」
先ずは膝を突き、頭を下げる。突き出した両手で花を、捧げるように、そうそう、それで良い。
「我が神よ」 「我が神よ」
「貴方様を」「貴方様を」
「探すべく 「探すべく」
「新たなる」「新たなる」
「耳を」 「耳を」
「捧げます」「捧げます」
そこまで言うと、ゆっくりと神官さまが立ち上がり、百合の花を供えた。横目で見ていた私も慌てて立ち上がり、同じ様に供えた。
奥の柱の横から、同行していた別の神官さまが、大く汚れた古い剣を差しだした。
神官さまは剣を受け取り、「動かないで」と、私に言われた。
そして、もう一度片膝を突くように指示があり、
古い剣を私の肩…いや首に、3度、角度を変え、当てた。
「この者は刃にも屈せぬ強き心を持っております。そして今、貴方様の為、使命の為、その命を捧げる事を誓います」
…そう言って私を見た。
おっと、そうか、「誓います」
もう一人いた神官さまが
「もう少しそのままで」と言い、
持っている銀の容器に指を着け、黒い灰の様な物で、私の顔に数本、線を引いた。
私はそのさまを、祭壇の上の金属片に映る自分の顔を、ただ見ていた。
遠くで、鳥の声が聴こえた。
この日より、
この儀式をもって、私の世界も生活も、
全く別のものへと、大きく変わった。




