呪われし恐怖の海賊船 3
私達は総監督さんの指示を受け、毎日毎日…とても厳しい練習を繰り返しました。
「良いか、練習は決してお前を裏切らない。だからもっともっと真剣に取り組むんだ…知らんけど…いや違っ、そうだ、来たるべきその時の為に、もっともっと練習有るのみだっ!」
そして…練習を重ねながら、私達は待ちました。
随分と待ちました。本当に本当に、私達は待ち続けました。
いつか来るであろう、大切なお客様を…
ようこそ、私達の幽霊船へ…
そう…ただ一言、私達はお客様にそう言いたかっただけなのです。知らんけど…
あっと、いけません。つい神様…いえ、総監督さんの真似をしてしまいました…
準備を初めてはや数日…色々な仕掛けが用意され、我々は念入りにシュミレーションを何度も何度も行い、
その都度、問題点の洗い出しや、その改善に努めました。
お客様の入場から、流れるような連携でのサービス展開…そして、
神様曰く…
最高の、音と光のファンタジーをと…
…正直その意味は全く判りませんが…
でも、お客様に心からご堪能頂く為に、我々は精一杯努力を重ねました。
幾つものパターンとサービスの組み合わせを考案し、実際に何度も本番を見据え、実際に施行し確かめました。
納得行くサービスの、その手応えを感じ始めた矢先…
遂に、遂にその時がやって来たのです。
私達は皆、歓喜しました。
本当に…ようやく私達の努力が、遂に世に出る時がやって来たのです、日の目を見るその時が、遂に来たのです。
皆は速やかに、それぞれの配置に着きました。
私も速やかに、マストの裏側に密かに設置された、専用の隠れ部屋に待機します。のぞき穴から、私に合図が来るのを待ちましょう。
【深淵】の中で待機されている神様が、手だけを出して私達に、開 始 の合図、
そのハンドサインを出しました。
合図によるとどうやら、お客様は右舷からお越しの様です。
そこから更に、合図が複数回収有りました。
お客様は全部で四人…皆様、全員獣人の様ですね。獣人は気配に敏感ですから、こちらの動きを悟られないように、充分気を引き締めないと…
更に神様から、今、お客様達は乗艦した…の合図が来ました。
遂に、遂に、皆様ご入場の様です。本番の幕が上がりました。
ドキドキします…
あれだけ沢山練習して来たと言うのに、もの凄く緊張してきました…
最初の仕掛け…粘着床が、お客様の脚の動きを阻害していますね。
見えないそれに、皆様さぞ困惑するでしょうね…しかも、そのすぐ近くには、あの邪神竜の粘液が散乱しています。
あれは中々、心をざわつかせますよね。ちょっと臭いし…
おっと、また次の合図です。
床下組の少年たちが、甲板上の小物を動かして、突然ガタンッ、ガタンッと、大きな音を鳴らしています。
更に…抜群のタイミングで、突如真上にお水の入ったバケツが飛び上がりました。
ミューさんの仕業…いえ、お仕事ですね。タイミングも素晴らしかったです。
入って来たお客様は全員、大きく口を開けて、しかも…尻もちまでついて居られますね?
ウフフ、あらあら大変だわ、もうお顔が大分引きつってますよ?
でも、まだまだ皆様頑張って下さいね。だって私の持ち場は、まだ少し先なのですから…
お客様の頭上から、必死で笑いを堪える神様が、水を含んだ布から水滴をポタリ、ポタリと落とされています…
首筋に水が当たった獣人のお客様は大きな悲鳴を上げられました。
神様の受け持ちパートも大成功のようですね、とっても羨ましいです。
私も負けない様に頑張らないと。
『く、く…るしい…助けて…くれ…』
「ううううう…」
突然、辺りに響き渡る、不気味な亡者の声…つぎは九郎さんの番ですね。
何かを…爪で引っ掻くような不気味な音や、扉も無いのに、強風で扉が開いたり閉まったりする音も、見事に再現されていますね。凄いです。
あ、下から聞こえるこの、床を掻きむしる音は、きっとジョンさんですね。ちょっと九郎さんと被っちゃいましたが、まあ合格でしょうか?
そして…いよいよ私の持ち場へと、お客様が近づいて来ました…
緊張します、凄く緊張して来ました…
いけませんね…落ち着いて…
ここで慌ててしまっては、皆の苦労の日々が、全て台無しになってしまう。
落ち着いて…落ち着いて…我慢するのよ、私っ…深呼吸して…
神様が私に…待て、まだだと、繰り返し合図しています。
何度も止められました。
まだ早いと…
まだだ…
まだ…
…まだ?
もう少し…
あと…もう少し、
神様のお顔が一層厳しくなって…来たっ!
今だ!合図だ。
「きゃああああああああああああああああ…」
私は声を振り絞り、大きな大きな悲鳴を上げました。
その瞬間…ご来場のお客様達は、狂ったように叫びだし、慌ててご自分達の船に向け、
次々と海へと、飛び込み始めました。
やったわ、決まった、これは完璧だわ。
さすが総監督さん、合図のタイミングも良かった。
これは、声を出したタイミングも声量も、
かなり良い出来の悲鳴だったと思う。もう、自画自賛したくなる程に…
私は自分に与えられたお仕事を、見事に完遂致しました。とても確かな手応えを感じながら…
「オッケーだ、みんなもう出てきて、動いていいぞおー…」
ふー…まだちょっとドキドキします、
「はい、いやー良かっよ!本当に良かった。大成功だよ。みんなお疲れ様でした、特にエッタさん、アンタ最高かよ?」
神様から、大きな称賛のお言葉と…久々に酸っぱい飴を二つも頂きました。
ああ、本当に頑張って良かったわ。あの全ての苦労が報われました。
最初はバカバカしいって思った、そんな自分を恥じたい思いです。
努力は裏切らないって…まさに神様が言った通りだった。
凄い…なんでしょうかこの、達成感と充実感。
こんなの生まれて初めてかもしれない…
でも…
私のパートの後の…小芝居班のリーダー、ヨミさんは完全に空振りに終わり…もの凄〜く、不満げな様子ですね。
さっきから、こっちを羨ましげにジトーっと見てきます。
シレンさん、ガックリと肩を落とされていますね…新しい踊りも考えていたようで…ちょっと気の毒です。
エギラさんに至っては…完全に両手と膝を地面についてしまっていますが…
相当、練習頑張っていたからなあ…大丈夫かしら、心が折れなきゃ良いけど…
でも…これはこれで良いのです。
総監督さんも、そう言ってますし。
我々は一切戦わずに、無傷で外敵からこの身を、船を護れたのだから。
総監督さんの思惑通りに、この作戦は大成功のようですね。
こうなると、次のお客様が本当に本当に待ち遠しいですね。
つぎはもっともっと、強く感情をのせて、
もっと上手に叫んでみせるわ。もっと練習しなきゃ…
私はこの与えられし使命に、仕事にすべてを掛けるわ…
その夜、ヨミさんとシレンさん、そして親戚さんの…泣きのお願い土下座が盛大に行われ…
結果、次回の本番での順番が、私のパートと入れ替わりましたとさ…
まあ…良いでしょう、知らんけど…
おっと、いけないわ、気をつけないと…これは自分も口癖になりそうですね…
…うふふ、知らんけど…
あ…




