呪われし恐怖の海賊船 1
ようやく俺達の船に、あちらの小型船が追いつき、すぐ横に張り付いたあと…
鈎爪のついたロープを複数投げて来て、
さあ、いよいよ?お客様が甲板に上がって来るって段階まで来た。
めちゃドキドキである。
遂に始まるぞ?恐怖の宴が…
最悪の悪夢の劇場が、遂にその幕を開けるのだ…
その鈎爪のすぐ前に、俺はゼリー状の海賊を直ぐ様移動させたのは…
初手から若造の心を、ボキッと折ってやろうと思ったからだ。
位置には拘って、細かくその位置と、向こうから見える角度を調整した。
「来た!」
俺は右手を上げて、作戦開始の合図を全員に送って【深淵】に避難した。
作戦開始早々、こちらの予定どうり…過ぎた。
上がってきて早々に、最初の若造は短い悲鳴を上げて、そこに尻もちをついた。
そう…見てしまったのだ…
更に…誰もいない甲板では、見えない何かに脚を取られ…
ふわふわと、何故か落ちもせず不気味なボロ布が浮かんでいる。
そして目に飛び込んでくるのがゼリー状の海賊…だったもの。
マジでヤバい…
夜だと見えないけど…明るい今なら、これが何かって、痛いほどくっきりハッキリ判ってしまうよね?
ガチで本物だからな…
最後に上がってきた、リーダー的な奴も、この異様な状況には、完全にフリーズしていた。
打ち合わせ通り、おれは手を上げて、皆に次の合図を送った。
物陰から、ゆっくりゆっくりと音を立て…
ヨミとシレンさんが、ズルっ、ズルっと…苦しそうなうめき声を上げて…
まるでバケモノが這いずるように、不気味に動き出した。
直ぐ様、それに気がついた途端…
奴らは、ぎゃああああ、っとかうわあああ、って、それは大きな悲鳴を上げ、飛んで逃げるように次々と走り出した。
だがしかし…粘着糸で脚が止まる…
ニヤリ…追い打ちだ。
俺は…急に肩を掴んだり、
足首を掴んだりしたった。
そしてついでに…膝カックンもしたった。
恐らく何かが居る、
見えない何かが…
すっかり血の気の引いた若造どもは、次から次へと、乗ってきた小型船に逃げるように戻っていった。
…?
クククッ…
うくくくく…あは、あは…
ちょ、ちょっとちょっと?しーって…まだ早いよ…
うあっはっはっはっは…
おいおい…シレンさん、もう大爆笑じゃん?早いってば、下に聞こえるよ?笑いすぎだよ?
って…ヨミ、お前もかよ?
二人は甲板の上で、文字通り、腹を抱えて笑い転げていた。
…っていうかさ?
こんなに笑い転げる神って…どうなんよ?ほんまにええんか、それ?
どうも二人はかなり綿密に、いきなり動いた場合とか、ゆっくり動いた場合とかの、
色々なシチュエーションを、随分としっかり話し合っていたそうだ。
ちっ、こいつら真面目にふざけやがって…
それが上手くハマって、二人は随分と嬉しそうだが…
それを見た俺は逆に、少し冷静になれた。
そうそう、忘れんうちに、最後の追撃…仕上げだな。
この素敵な思い出に花を添える。奴らの船に、コソーリと、とっても素敵なお土産を積んでおこう。
俺は特製の?…そう名付けて?
海賊親分のキモヘビゼリー包、潮風とヘビの香りにのせて
…を、お土産に用意したった。
イイね。素敵なメニューみたいに聞こえるが…あのキモヘビである。
だが…君達、残り食材も少ないみたいだしさ
…
どうぞ、みんなで召し上がれ。食えるかどうか知らんけど…いや、絶対無理だろうけども…
で、一応?
乗り込んで来た海賊達は、脱兎のごとく逃げていった。そして多分…二度とこの船にちょっかい掛けるとか、考えないだろうな。
なにせ、見ちゃったからな、トラウマ級の悪夢を…
俺はお勤目を終えたゼリー状の死体を、もう一度【深淵】に回収して…
試しに…これは食材じゃ無いんですけどねえ…って、【深淵】内部で大声で叫んで見た。
シーン…
うん…
まあ…そりゃ誰も居ないよな?だが…こんなモンをいつまでも所有する程、俺の心は強く無い…
いや…この仏には申し訳ない無いのだが…超絶にキモいのだよ。
何とかならんのかと、色々やってみたが、
俺の意識を…取り敢えずもっともっと深く…このゼリー状をもっと深い場所にぐっと押し込むイメージを頭に描いた瞬間?
ゼリー状は突如、光の粒となって、【深淵】の奥へと消えていった。
なんと…出来ちゃったな、分解…
へえ、そっか…出来るんだ。
どうやら、そもそもの俺の考え方が重要の様だな。
その後…キモヘビ島の海賊全部の遺体も、キモヘビの頭も無事回収し…【深淵】で分解して、
まあ…次に生まれ変わったら、今度はちゃんとした真人間になれよなと、
手を合わせ、可哀想だったので、線香も一本、供えてやった。
え?お前が言うなって?アハハ…
で…キモヘビだが、胴体の真ん中に、前にミューが死んだ時みたいな、小さい綺麗な石が残って…
それの分解が始まる前に、何故だか思わず回収してしまった。
いや…別に意味は無く…条件反射?
どっかに埋めたら、まともに生まれ変わって…
そんな願いも、ちょっと有ったしな。
だが…今回、アイツらのお陰で俺は、新たなる学びも得た。
一応…感謝もしてやろう…死ねば仏だ。
よし…じゃ、俺もアジトであの、うちから逃げたあの若造らの報告を、向こうの親分と一緒に、是非聞きたいよな。
俺はもう一度、海賊らに合掌してから、ここを静かに移動した。
…
……
その頃、海賊のアジトに、あの…若造達が帰還した。
その顔面は蒼白で、息も随分と荒かった。
ずっと、ヤバい…アレは絶対に幽霊船に間違い無い…
ただひたすら、怯えたように、狂ったように必死に仲間達に訴えたが…
おいおい、テメーは勝手に飛び出しといて、何を、つまらん寝言ほざいてんだよ?っと、まるで相手にされない。
それでも、とにかく必死に訴え続けていたらば、
突然、別の仲間達が大きく騒ぎ始めた。
マハナをはじめ、急いで港に行くと、若造の船の後ろには、
ドロドロに溶けかけた、マハナの宿敵、エーリアーズのおぞましい死体が転がっていた。
当然、辺りは大騒ぎだった…
…ちっ、
「…だから俺は言っただろ?…辞めとけって?こんな不吉な日に、ノコノコ海に出るなと…」
マハナは、自らロープを掛け、その溶けかけた遺体を船から引きずり降ろし、
油を撒いて、火をかけた。
「クソが…これって呪いとか、大丈夫なんだろうな?…クソが…」
海賊団のメンツは勿論だが…実はたまたま近くにいた付近の漁師らも、そのおぞましい何か…を見てしまったのだ…
無惨な…エーリアーズの遺体が焼かれるのを…
その日以降、この近海では一つの噂話が一気に広がったそうだ。
…
ある日、忽然と消えてしまった蒼海蛇海賊団は…
奴らは…決して触れてはいけない、禁忌 に触れてしまったのだと…
調子に乗って好き勝手に暴れていた、そのツケが遂に回って来たのだと…
奴らはたちまち全員が呪いに掛かり、その身体が溶けて腐っていったのだと…
しかも…実際にその溶けて腐った身体を、別に多くの者が見ていて…
更に…
これがただの作り話では無いのだと…
海を漂う、無人の海賊船…
それは…決して触れてはならない、恐ろしい呪いに染まってしまった、
呪われし海賊船…なのだと…
それに触れるものは、絶対に呪われる…
必ず死ぬのだと…
そんな呪いの海賊船の…その話が、それこそ爆発的に世間に広まるのには、大した時間など必要無かった…
そしてそれ以降、マハナが全ての部下に強く命じた。
あの海賊船には決して近寄るな、関わるなと…
そしてその頃、
こっちの船上では、ちょっとした祝勝会を開いていた。
いえーい、大成功♪…って。
今後…命知らずの小物は別だが…
最大の脅威である、あの大手海賊団が、
この船には関わるなっていうお触れを出した、
それはある意味、究極の通行手形を手に入れた様なもんだなと。
勝ったなと。
特にヨミとシレンの小芝居担当組が上機嫌に、
次にくる相手に対しての、脅かし方の作戦を練っていた。
親戚さんも、つぎは私もそっち側で…って、強く懇願されたりして…
なんなら?ちびっ子達も、音を立てたり、急に悲鳴をあげたりする役を…何故か懇願されたり?
自分達の船を、自分達でも守りたいって…実に健気な…いい子達だわ。
でもさ…うちの大人達にこれって…
ちょっとしたお楽しみの、アトラクション的な感じ?に、なってしまった様なのだが?
いやいや、ちょっと待って?良いのかな?こんなふざけてて?
うーん…どうなん?
これで…良いのかな?
まあ…ええか。
ええよな?知らんけど…




