海賊達の矜持 4
一方その頃、マナハのアジトでは…
『本当に良いんですか、お頭?…このままアレが通ってくのを黙って見てるんですか?
アンタ、ビビってんじゃ無えんですか?
俺はもう、我慢ならねえ…』
そう言って、血の気の多い若い衆…ジャンゴが手下を引き連れ、アジトを飛び出して行った。
「良いんですか頭?若いのに勝手な真似をさせて…」
ああ、ありゃ…どうせどれだけ止めたって、勝手に行くだろうさ、それより…もっとあの船を詳しく調べろ、なんなら先回りして詳しく様子を伺うんだ…
あれはダメだ…妙に不吉過ぎる…
…
……
なあヨミ君。なんか…ちっこい船がこっちに接近中だが?
「ああ…見えてるよ。で…主、君はどうするつもりなんだい?」
え?…そうね…どうしよっか?
沈める?それとも…沈める?
「それはもう…問いかけでさえ無いんだが?」
でもまあ単騎だし、きっと、取り敢えず偵察だよね?
ん?…なんか結構速いな。小型船ってあんな速かったっけ?
「そうだね…彼らは風と海流の扱いに、かなり長けてる様だね…」
そっか…じゃ俺、先にちょっとアイツら偵察してくるわ。
で、小型船に【深淵】で並走して、その様子を伺う。
あらあらまあまあ、いかにも血の気の多そうな、若い跳ねっ返り共って感じだわ…
ズバリ、見たまんまやけど?
ぷぷぷ…ウヘヘ、ちょっとだけ、イタズラしてやろうっと。
えーい!!
俺は【深淵】を正面に出して、小型船の進路を急に塞いだった。
ドカンって、結構大きな音と衝撃が有って、小型船は前につんのめって…乗員は全員、海に叩き落された様だ。
…
あ、ヤベ、ちょっとやり過ぎたか?
乗っていたのは全部で五人…獣人三の人間二…
泳いで船に戻ろうとする様子を見て…
船にたどり着くその瞬間に…ちょっと船をずらしたった。
俺はそっと、もうちょっとっていうタイミングで、そっと船を引き離し…
それを数回繰り返したった。
え…悪趣味ですか?
ちょっと…ほんのちょっと楽しかっただけなんですけど?
「ハアハア…クソ、何なんだよこれは一体?」
うんうん…狐につままれたみたいな?
クックック…まあ、その気持ちは分かるよ。いや、知らんけど…
「何だよ…幽霊船とか言ってたの、ホントなのか?」
おっと?…ほおほお、幽霊船とな?…へーそりゃ面白いな。良い事聞いちゃったな…
まあ…そうだな。帆も張って無いし、勝手に動いてるし…そうか、外から見ると、幽霊船って感じなんだ。
へー、そりゃ面白いわ。
つまり…これは幽霊船ですよって事に、仕立てあげちゃうって…アリだな。
俺は急いで船に戻り、ヨミに、そしてアマジャさん達にも伝えて、急遽仕掛けを施してお出迎えしてやろうと考えた。
名付けて、「海上大お化け屋敷大会…いや、作戦」である。
じっくりと準備したいところでは有るが、余り時間は無い。こっちの船の速度を若干上げて、時間を稼ぐ。
そうだ、こいつは今日この瞬間、異世界のフライングダッジマン号になったのだよ。知らんけど…
先ずは甲板にミューの見えない粘着糸を適当に緩く張り巡らし、
マストからもミューの糸で、小さめのボロ布をヒラヒラさせーの、
頭からボロ布を被ったおばけ役の、ヨミとシレンさんが荷物に隠れて待機し…
九郎にはあらかじめ【深淵】内部で奴らの声をサンプリングして貰い、要所要所の良いタイミングで、
悲鳴だの、助けを求める声だのを掛けて貰うとする。
クックック…良いね~、ワクワクすっぞ?
俺は急いで、キモヘビ島の横の…海賊のアジトに急行し、
奴らの親玉だけこっちに運ぼうと画策した。
海賊の親玉は魔法で固めときゃ、それを見た向こうは勝手に?
やれ、これは呪いだとか何とか、無駄に誤解してくれるだろうと、
まあ…軽く考えてた。
ですが…そんな呑気な俺が?その直後に、恐怖のどん底に叩き落されたのだった。
いや、マジでビビった。
全く持って、完全に予想外の…驚きの光景に直面しました…
俺が閉じ込めたった海賊達ですが…
閉じ込めたあとに、ぶった切ったキモヘビの頭をポイって、そこに入れといたんだけどね…
それはね、海賊どもの反省を促す為の時間に、多少食うものも要るだろうという…
俺の…ほんの嫌がら…違う違う、優しさ…だったのだが…?
そこは…想像以上に地獄?
それは最早、悪夢の様な光景だった。
正直、トラウマレベルなんですけど…
あの…キモヘビの頭が溶けて、ドロドロのぐっちゃグチャになってて…
そのひたすらキモい…ゼリー状の何かが…
海賊どもを包み込んでんでいた。
その中に閉じ込められた海賊なんだが?…
なんか…みんな身体中が半透明みたいになってて…
もう内臓とか血管とかうっすらと透けて見えててさあ、
しかも…ものすげー苦しんで死んだなって、そんな顔ばっかだった。
え…何よ?地獄じゃんここ?
えーっと…こんな風になるって、俺は一切聞いてないんですけど?
誰ですか…責任者の方は?やめてよね?
こんなのさあ、マジで困るんですけど?
俺はそれを目にした一瞬どころか…暫くの間、大口開けて固まってしまったくらいの…
まさに凄惨な事件現場、そんな惨状だった。
ま、まあ、あれだよ?こ、コイツらには、お仕置きはしようと、お、思ってたからさ?
べ、べべべ…別に、い、良いんだけどさ…
だ、だけど…これは…ちょっと、エグいな?
我ながらちょっと…流石に気の毒に思ってしまった。
可哀想に…って?
え?…おまえがいうなって…?いやいや、聞いてないもの、こんなのさあ…事前に通達とか連絡貰わないと?
ほう、れん、そう、って、大事だよね?
おっといかん、呆けてる時間は俺には無かった。
急いで海賊の煮凍り?の中から、半透明な団長を回収した…うへえ、これはキモいわ…後で水浴びしなきゃ…
あと、見た目のエグいのも数体、一緒に
【深淵】に入れてみた。
正直、解せないのだが…詳細な理由は不明だが、まさかこのゼリー状は、【深淵】から食材認定を受けた様なのだが?
…全然、消えないのよ何故か…
一体誰が判定してんだよ?いや、これは無理でしょ?誰が食うんだよ、こんなモン?
…
でもまあ…逆に?良い方に考えると…
こんなモンが甲板に転がってたら、客は絶対ビビるよな?
つまり…悪事を重ねた極悪非道な海賊とキモヘビが、
その人生の最後の最後に、人様の…いや、俺達のお役に立てるのだ。
それはきっと、人生最後の良い事に違い無いよね?いや、既にガッツリ死んでるけど…
甲板上に、いかにもって感じに…俺はゼリー状の海賊を、適当に配置してみた。
その見た目も、そもそもトカゲだしねえ?
…もう、ぶっちゃけ俺には作り物か、特撮の特殊メイクにしか思えない…
更にこのゼリー状のお陰で、俺は死体で遊んでる感が一切無いのが救いだが…判ってる。良くない。
これは本当良くない。絶対にダメだな…悪党の末路とは言えだ。あんまり感心しないよな…じいちゃんがここに居たら、絶対に鉄拳制裁だわ…
だから?
この仕事の貢献に対してお前等全員、後でちゃんと【深淵】であの世に送ってやると約束してやろう。
でもまあ、コイツらに関しては、そもそも自業自得って事で…
どうか宜しくお願いしたい。
まさかな…俺の、情の優しさが?
まさか…こんなゼリー状ってさあ…ちょっと酷ない?予想外にも、程が無いですか?
神ってさ…やっぱ厳しいんよね?
そう、だから…文句は全部、ヨミさんに言ってください。
俺は、多分関係無いんです…
俺は…俺はきっと、誰か悪い奴に騙されたんですよ…知らんけど…
うん、日頃の行いって大事だよね。俺もマジで充分に気を付けようと思う。
とにかくだ…いつ死んでもいい様に、地道に得を積んどくに限るよな…知らんけど…
そして…そう、感謝の気持ちを忘れちゃダメだな…
そうだ、一応…一応ヨミにも、多少は…感謝してやろうかな?
俺の、困った時のスケープゴートだしな…
知らんけど…




