海賊達の矜持 3
ついさっき、うちの若い奴からヤートが大暴れしているって報告が有ったばかりなのに…
何故か恐ろしい位に、急に海が静まり返っていた。
こっちはもう、何十年とこの海を見ちゃあいるが…何だよこりゃ、気味が悪いぜ…
不気味なんてモンじゃ無え、こりゃまるで、嵐の前の…ってやつだ。
海は波も…水面も、馬鹿みたいに穏やかなのに…
空は違う…空は、大気は…こっちは馬鹿みたいに張り詰めてやがる…
何だ?
妙に重苦しい…胸を締め付ける、この苦しい感じ圧迫感は一体何だ?
怖い?…
恐れている?
何を…?
俺は、震えているのか…?まさかこの俺がか…?
この、目に見えぬ威圧的な何かに…だとでも?よく判らんが…とにかく不気味だ。
こういう時は、絶対に海に出るのはご法度だ。
上手くは言えないが、これはどうにも不味い、どうにも嫌な胸騒ぎがしやがる…
「た、大変だっ、お頭、あれは…間違い無い…青蛇の船、ありゃ多分…フージの方だ!!」
はあ?何を馬鹿な?って、おいおい…
確かにありゃ、フージじゃねえかよ?…何やってるんだよ、あのボケは?ヤート以上に、ホントにとち狂いやがったのか?
だが…
確かにアイツは馬鹿野郎だが…今の…
この異様な気配が読めないような、そこまでの馬鹿じゃ無えだろ…なのに何でだ?
しかも…ありゃ何だよ?帆も張ってねえのに、何であの速さで船が動いてんだよ?
「お頭、アレ…どうすんですか?…追いますか?」
「護衛もいない様だし、今なら簡単にヤれそうですが…」
「ここいらはうちの縄張りですぜ?舐められますよ?」
いや…お前等、良いからちょっと待て…こりゃおかしいぞ…
あれは…どう見てもおかしいだろ、絶対に?
…罠だろ?罠を疑うべきだろうがよ?
あれで、俺等をおびき寄せて、それこそヤートでもぶつけるつもりじゃ無えのか?
いや、そもそもあれは…本当に奴らなのか?
こんな場所に、ノコノコと?
アイツが例え、救い様の無い馬鹿だとしてもだ、わざわざ一隻で来るもんか?
いや、来ねえな。自殺したいってんなら別だが、それによく見ろ…誰も甲板に居ねえじゃねえか?
それこそ、幽霊船じゃ有るまいし…そんなもん、おかしいだろうが絶対によ?
…
……
「ところで主…あの、少し先に見える島、あれがもう片っぽの、荒くれ海賊のアジトがある島なんだけど…」
え?
何ヨミ、ああ島?…あれか?へー。
そうすっとアレだな?矢でも撃たれたら面倒だよな…
すいませんアマジャさん、ちびっ子らを船の中に連れて行って貰えますか。
「御意!」
ここは、俺とヨミで…「え?何で、我が?」…何とかするんで。
おいおい、固いこと言うなよお前、神だろうが?困ってる俺を、むざむざ見捨てると言うのかよ?
「いや…君はさあ、そもそも矢くらいじゃ、一切どうも無いでしょ?」
まーまー、そうツレ無い事を言うもんじゃねえよ。だって俺ら…友達だろ?
え?あれ…待って、そもそも…友達だっけ?
ん?はてさて…
「酷いな…我に働かせるつもりなら、何だよその言い草は?」
まーまー、とにかくさ、お前は船を操縦さえしてくれてりゃ良いから、
あとは俺が…もし襲われたら撃退するし、ヨミさんには、指一本触れさせんと誓おうじゃ無いか…知らんけど…
「最後の、知らんけど…の一言は…全く余計だけど…まあ良いさ、取り敢えず、軽く気配は隠蔽するとしようか…」
じゃ…取り敢えず、奴らの全部の船の底に、軽く小さな穴でも開けとこかな?…
ミューとジョンは、マーオちゃんとちびっ子達の護衛を頼むわ。
九郎は…【深淵】で休憩でもしとこうか。病み上がりだし、なんか有るまでは待機しててくれ。
ところで…コイツらと前の奴らって…どっちがセーオなんちゃらの味方なんかな?
まあ…どうせ揉めるんなら、どっちでも一緒かな?
おっと、一応コイツらのアジトにも、人質が居ないか、先に急いで見てこようっと。
…
……
うーん…
一応、あちこち探しては見たが…
なんなら、一人バカっぽい海賊とっ捕まえて、
ちょっと…シバい…違う、お願いしてお話してみたけど…
どうやらこっちは、ちびっ子も含め、奴隷の類は一切居なかったな。
まあ…その点だけは、一応評価しておこうかな。なんの評価かは知らんけど…
あと…向こうよりアジトも随分と小さいよな。
でも探すよ?金銀財宝を…
俺の、老後の糧をな…
えーっと…さてさて金目のもんは…っと。
ん?…あんま無えな…
二大海賊団って割には、なんか…妙に質素ですけど?
おっと…こっちは相当貧乏なんか?
ん?…何だよ、在庫の食い物もかなり減ってんだが何だよ…
寧ろ、コイツら自身、この先大丈夫なのか?知らんけど…
なんかちょっと、可哀想だから…取り敢えず、この食料をパクるのは、流石に勘弁してやるか…
まあ…これ以上は探しても無駄っぽいし、もう帰ろっと…。
…っと、云う訳で?「いや…一体、何がどういう訳でだい?」
いやヨミ君、聞いてよ聞いてよ。
なんかさあ…コイツらちょっと変だぞ?有名海賊団のくせに、人質も居ないし、お宝も殆ど無いんだよ。
なんかさ、違和感しか無いんだが?…
挙句さあ、アジトの食料も尽きかけてる感じなんだけど…
ひょっとして?
こっちは酷い落ち目なんかな?
「そんな噂も、特には聞かないけどね~?」
そうなの?
「まあでも…弱ってるなら、こちらは好都合だけどね」
そう言って不気味にニヤつくヨミ…
うわあ…
やっぱコイツってさ…
悪党スマイルが、マジで良く似合うわ…
知らんけど…




