海賊達の矜持 1
俺の名はエーリアーズ。そして俺が率いるこの、 蒼海蛇海賊団 が、…この俺の全てだ。
俺達が、この辺りの海を縄張りにしてからもう、随分と長い時間が経った。
多くの同業者と争い、沈め、俺達はここ迄大きくなった。
但し、奴だけは違う。
お互い何度も何度も争い、結局未だに勝負がつかないままの、唯一にして最悪の同業者、マハナが率いる、白鯨海賊団…
奴らは小賢しく、常に待ち伏せや奇襲を仕掛けてきやがる上に、正面からぶつかっても、実はそれなりに強い相当に面倒な連中だ。
ある時…奴らの奇襲で、長らく俺の一番の大切な部下だった男が…
奴らによって大怪我を負い、その後…母なる海へと還っっていった…
その凶行を…絶対に許すまじかと俺は、圧倒的な戦闘力を誇るセーオリッツと手を組むつもりで、ヤツらの組織に接触した。
本来なら、奴らもある意味同業者では有るのだが、奴ら海神族は夜にしか活動しない…
つまり、基本的には出会う事がほぼ無かったので、今迄然程も奴らを脅威と感じた事が無かったのだ。
奴らは、俺達人間族では無く、無理矢理神人族の血を取り込んだ獣人だ。
残忍な上に残虐、しかも、人間が寝静まった時間に襲ってくるのだから始末に負えん…
だが…奴ら自身も気づいては居ない、実は最大の弱点が有るのだ。
まあ、それを知っててもわざわざ教える必要は無かったし、それが俺達にとって有利に働く以上、その秘密を明かす事は無い。
ちなみに…それは奴らの長所である筈の、目と耳なのだが…
夜行性のくせに実は夜は、奴らも殆ど目が効かないのだ。その代わりに、その耳が異様に発達してる。
そもそも、ヤツらが夜にしか活動しない以上、こっちが昼間に強力な罠でも仕掛けときゃ、耳だけが頼りの、なにも視えてない奴らは…
簡単だ、その耳を、別の音で誤魔化せばそれでいいのだ。
もはや勝手に罠に掛かって、次々と自滅せざるを得ないんだが、
そこで提案した…
俺達の罠の場所を事前に知らせるし、マハナが仕掛けた罠も、俺達が回収してやろうと…
その代わり、俺達がマハナを潰すのを手伝えと、そう持ちかけた。
セーオリッツ側も、罠を脅威に思っていた上に、夜だけでなく昼間にも自分達の力を示す良い機会だと、意外や意外…俺達の意見を素直に受け入れた。
正直予想外過ぎて、逆にこっちが罠でも仕掛けられたかと、多少不安にもなったが…
結局、俺達とセーオリッツとの同盟が結ばれた。
ある時、セーオリッツから、切り札として魔獣を自由に操れる秘術…針魔蟲の卵を譲り受けた。
俺達だけではなく、この海に生きるものが全て信仰していた海竜ヤートを…
これで操り、そしてマハナにぶつければ良いと…
海竜は簡単には死なんし、仮に…マハナが海竜を殺そうものなら、ヤツはこの付近一帯全員の敵だと言う事になる。それがセーオリッツの立てた作戦だった。
多少…信仰の対象を道具の様に使う事に…そう、多少の引っ掛かりはあるのだが…
そもそも我が友の敵討ちなのだから、俺はそこに対してなんの躊躇いも無かった。
直ぐ様、ヤートの眠る神殿に潜り込み、大きな餌に針魔蟲の卵を仕掛けて、遂にヤートに針魔蟲を飲み込ませた。
そこから、より確実にヤートを操る為だと、セーオリッツから更に、弱い【呪】を仕込んだ餌を渡され、
それをヤートに食わせ続けた。
ほんの数カ月で、ヤートは海竜から、見るからに不気味なバケモノへと変貌し…
ヤートの鱗を持たない船は、暴れるヤートによって片っ端から海に沈められた。
予定通り…では有ったが、時折ヤートが予想外に暴れ、俺達がそれに巻き込まれるなんて事も、屡々起こった。
俺達の、本来の予想以上にヤートが狂ったのには、実は別に原因が有ったのだ。
まさか…マハナ側も同じくヤートを利用して、ヤートを俺達にぶつけるつもりだったのだ。
既に針魔蟲と、大量の【呪】を取り込んだヤートに、マハナはそこから更に毒を食わせ続けたらしい。
ヤートの異変を知って…
はじめはセーオリッツが裏切ったのだとばかり思ったが、
どうやらマハナは俺達を嗅ぎ廻って、神殿に通う俺の部下を追跡し、一部始終を見られていたようだった。
マハナ側も、大量の鱗を集め、無駄に襲われないように対策してしまい、
結果として、ヤートはマハナだけでは無く、この海域に生きる者全体の脅威になってしまった。
そして…マハナ達は勿論、俺達も常にヤートに警戒しなければ、おいそれと海に出ることも出来無くなった上に、本来俺達が襲い、奪うはずの船が、
むざむざと、狂ったヤートによって沈められた。
恐らく、マハナ達も同様に仕事に影響が出てる事が…
それだけがこの作戦の、俺達の唯一の成果だったのが、余りにも無様で皮肉だった。
そのヤートに更に異変が起こった。
数日前から急に、まるで怯えた小動物のように常に周囲を警戒し、
巣穴から出たり入ったり、常に落ち着かない様子だった。
あのバケモノが怯えるとか…
一体、何だというのか…
この海に…想像を超える何かが、起きようとでもしているのか…




