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イサクは見た1

 わしの名はイサクだ。


 元々は、ここよりもずっとずっと山側の…


 更にもっともっと深い山奥の、

 有るのか無いのか判らん様な、小さな小さなドワーフだけの村で生まれ、そこで育った。



 ある日そこに、他所から流れてきたドワーフが住み着いた。

 

 普通、よそ者は排除されるのが当たり前だったが、

 そのドワーフの父親が、どうやらここの出身だったので、その流れ者は滞在を許されたのだ。



 で、

 このオルオールと言う名のドワーフが、この小さな小さな村に、ちょっとした革命をもたらした。



 このオルオールと言う男、手先がかなり器用で、


 村の中に炉を造り、自分で採ってきた鉱石を火に焚べて、遂に鉄の道具を造ったのだ。



 当時、村は完全に自給自足で、野菜や小麦をごく少量栽培し、

 大半は狩猟で糧を得て、日々生活していた。


 弓矢や刃物、農具全般、

 そう言った生活に必要な道具は、山で獲った獲物や鉱石を街まで運び、

 それらと交換するのが普通だった。


 興味を持った子供には、オルオールは丁寧に鍛冶を教えてくれた。



 ドワーフとは本来、神族の鍛冶を行う存在であり、

 鍛冶は別に悪い事では無いからと、村では特に反対するものも居らず、



 それから僅か十数年で、それなりに仕事の出来る鍛冶師が数人、村にも誕生して、


 決して大した物では無かったが、

 農具も剣も、安い割にはそれなりに出来が良かったので、割と評判で、そこそこ売れた。


 職人が生まれて、何も無い小さな村に、ほぼ唯一の商売が、そして外貨獲得の手段が出来た。


 斯く言うわしも、その一人だった。




 ある時、村で急に病が広がった。

 どうやらこの村に鉄製品を買いに来た商売人によって、その流行り病が運ばれた様だった。


 しかし、

 この小さな村には医者は勿論、回復魔法を使える者もそもそも居るはずもなく…


 やがて年寄から順々に、ついには僅か数カ月の間に、なんと殆どが死んでしまった。


 全部で二十七人居た村人は、わしと、あと二人の子供を除きあっけなく全滅だった。



 結論から言うと、


 そいつはこの村を滅ぼした原因の商売人だったが、

 残された子供が頼れる唯一の存在もまた、この商売人だけだったのだ。


 

 そしてわしら三人の子は、街の鍛冶屋に奴隷として売られた。



 悪意は無かったとは言え、村を滅ぼされた挙句に、

 まさか売り飛ばされる等とは思いもしなかったが…


 そこでそのまま飢えて死ぬか、

 或いはそこで盗賊や魔獣に殺されていても、絶対に誰にも気付かれもしない、山奥の村で…



 今思えば、死んで無いだけまだマシだったと、そう割り切るしか無い。



 幸い、村で鍛冶を学んでいたので、既に鍛冶師の基本を知って居たお陰も有って、


 仕事さえきちんとやれば、そこ迄非道な扱いを受ける事も無かったし、

 それなりに仕事をこなして、そのうちある程度は仕事の上で信頼もされた。


 鍛冶屋の主人は人間だったので、ここへ来てほんの四十年もしないある日、ぽっくり死んだ。


 死の間際には、遺言として、

 わしの奴隷の身分を撤回し、この後はもう、わしの好きに生きろと言ってくれ、


 そんな主人の言葉が、心から嬉しかったので、

 主人の名を冠したその鍛冶屋の看板を、わしはそのまま継いだ。


 幸い、ドワーフは長寿だった。

 ただ毎日仕事をしていれば、ふと気付けばそこで一番の経験者になっていた。


 決して大きな店では無かったが、なにせ長寿なドワーフのわし故に、


 その歴史だけは他所の何処にも負けてない、この街一番の老舗の鍛冶屋になっていた。


 それなりに馴染みの客も付き、時々大きな仕事も受注して、それなりに順風満帆だった。



 だったのだが…




 あの、悪魔の様なアーマ軍が進行して来るその時迄は。


 

 そもそもアーマには、海軍や海軍に相当する部門は無く、

 せいぜい、ある程度ここいらの物資を奪えば、

 さっさとここから去っていくだろうと、

 皆、割と楽観的だったが、

 蓋を開ければそうでは無かった。



 物資は勿論、まさか船も何隻も奪われ、

 更には、残りをズク族に渡さない為だとか何とかと言って、

 街も船も、徹底的に破壊された。


 わしの店も、それはもう酷い有様だった。


 商品は尽く奪われ、店舗も倉庫も殆どやられた。


 わしに唯一残ったのは、町外れの小さな倉庫代わりの、半壊した小屋だけだった。


 

 自分に運命が有るのなら、そりゃ本当にクソみてえなもんだなと、


 正直…もはや笑う以外には何も出来ることは無かった。



 だが兎に角だ、


 わしはまだ死んで無い、生きている。

 まだまだこの寿命が尽きるまでにはたっぷり時間が有る。


 ならば心機一転、ここを出て何処か…


 生まれ育った場所とここ以外の場所に行ってみたいと思うようになった。

 なにせ、わしはその二つ…そこしか知らんのだから。


 

 しかし、移動するにも、恐らく陸上だとまた、奴ら軍隊や盗賊辺りに、いい様にやられてしまうだろう。


 鍛冶仕事以外は、からっきしだからな。



 幸い、この小屋は海の目の前で、

 しかも、小さいが荷物を運ぶ為の運河も有る。



 これをうまく使って、あの目の前に有る、うちの取引客の壊された船をなんとか修理して、

 そいつで何処かへ移動するか、

 或いはそれを売っぱらって金を作り、その金で何処かへ行こうと考えた。


 船の本当の持ち主の客は逆らったせいでアーマによって、無残に殺されて…


 なにせまだ、わしに対しての商品代金の支払いが終わって無いからな、その証文だって有るし、


 コイツはもう、合法的にわしのモンじゃ。



 しかし…船など、生まれてこの方造った事も無い。

 ただ、空いた穴を塞ぐだけで良いのかどうかも分からんし、

 治ったとして、これを動かす術を知らん。


 しかも、直す為の材料の調達さえままならない。なにせ、残っている木材やら釘やらを皆が奪い合ってる状況だ。


 皆が気付く前に、新品の調達は早々と諦め、壊された住居や倉庫を回って密かに使えそうな材料を確保していった。




 そんなある日…

 船を買いたいと言う商人がわしの小屋に来た。


 その商人も、アーマ軍が進行したせいで、ここに足止めされたそうだ。

 

 そして交渉が始まった。


 その中に二人、変わった人間が居た。

 一人は若様などと呼ばれていたこの男達の頭目と、


 もう一人、昔この港を造ったっていう、ズク族のやつだった。


 見た目は若いが、軽く五百歳はくだらないだろう…

 驚いた事になにせ、わしの店の先代を知っていた。

 しかも…かなりの恩人の様だった。


 男の話す内容、その話を、

 確かに昔、親方本人の口から直接聞いたことが有った。恩人なのはどうやら間違い無い…



 先代には、深い感謝と恩が有る、

 つまり、この男をまた、無下には出来ないのだ…



 上手く丸め込まれた気もしないでも無かったが、

 こちらの条件も、あらかた呑んでくれたので、一応、わしも納得だった。



 だが、商人だと言った割に、コイツらは少し…



 いや、随分変わった連中だった。



 一番驚いたのが、もう一人の男…


 若様って呼ばれる野郎だった。




 とにかく、コイツは何処か他とは違う人種だった。



 何処か浮世離れしたって言うのか…


 まるで、人間じゃ無いような、

 ふと、そんな気がした。


 


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