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アマジャと言う男3

 数十年が過ぎた。

私は特別な力を手にし、同時に視界から幾つかの色を失なった。生きる上では特に問題は無かった。


 そして戦争が起きた。かつて無い大きな戦争だ。これ迄も、いざこざは有った。大なり小なり、割と頻繁に戦闘に巻き込まれもした。おかげさまで、若かりし頃の武術訓練が、多いに役に立った。


 世間の思う深淵と、実際の深淵には大きな誤解、開きがある。


 私を始め、人工的に目を与えられた人間は、予め学んでいる。深淵は本来、この世界に存在しない。何故ならこの世界の裏側に相当するから。それは存在してはいるが見えず、触れられない世界。

 自然発生する一定の条件や、極大魔法【呪】によって発生する次元の割れ目で、初めて確認出来るとされる。

 こちらからは決して触れる事が出来ない暗黒。


 しかし生まれながらに、特異点を視る事が出来る者が居る。異能者とか云われる連中だ。ある日、彼らはそれを偶然視る。

 そしてどうやっても触れる事が出来ない謎の現象に困惑し、それがとてつもない力を持ち、手に入れ、独占したいと思う。


 深淵は強く人を引きつける。


 そんな場所で我々は出会ってしまう。あちらが情報を得ようとする場合、悲しいかな必ず戦闘が起こる。特異点を独自に調べる彼らが、実は我々の知らない事を掴んでいる事も稀にあるからだ。



 ある男に会った。男は獣人の傭兵上がりだった。

 彼は深淵の力で、人が蘇生出来ると信じていた。


 深淵とはこちら世界の裏側、死人でなければそこには絶対入れず、

 入ったら最後、あちらの世界に送られ、二度とこちらには帰れない。

 かつて我々の機関が、仮死状態の人間で色々実験し、そう結論付けた。


 そして特異点は本当の意味で深淵では無い。あくまでも深淵の欠片、極、一部分だ。それ自体には何の力も無いと言われている。


 しかし、彼は見たと言う。

 死に掛け意識も無い仲間に、特異点が現れた。仲間の腹のすぐ上に、乗っかるように。


 そのせいなのか、仲間は急に立ち上がり、再び戦い出したと。


 恐らくそれは偶然だろう。

 深淵はこちらから触れる事が出来ない、そこで発生した特異点が、傷なり心臓なりを圧迫したとか、そう言う事ではまず無く、立ち上がったのは、


 …たまたまの偶然だろう。


 しかし彼は強く信じてる。

 多分、そういった連中は他にも多いのだろう。

 そして、そういった連中は、我々の存在を知っている。そして特別な力を、深淵を狙っている。手に入れ、独占する為に。


 組織の人間は、情報を得るため殺され、徐々に数を減らしていく。


 それにこの戦争だ。 


 我々は疲弊していた。

 私も疲れていた。


 だが、突然、私の目が見つけた。【深淵の目】が、大空に出来た大きな無数のひび割れを…





 そうだ、遂にその時が来たのだ。そう確信した。



 私の【深淵の目】に、空に多くの亀裂が走るのが見えている。

 それは激しく歪み、そして現れては消える、数多くの特異点が見えた。


 何処かで【呪】が発動したんだ…

 

戦争が起き、多くの人が死んで、多くの血が流れた。

 神が、遂に降臨する条件が揃いつつ有る、


 神の眠りし場所で…


 その時はもうすぐそこなのだと、そう強く思った。


 ゆっくりとしてなどいられない。

 兎に角、急がなければ…


 大きなひび割れを辿った。無我夢中で、必死で走った。


 先日、大きな戦闘のあった隣国の山間部で、無数の特異点が集まり、

 深淵が正に発生する…その瞬間に、遂に立ち会った。



 それは散々聞かされた言い伝えの通りだった。


 身体が震えた。

 信じていなかった訳では無いが、何処か夢物語だと、1000年前のおとぎ話だと思っていた、それが、


 ほんの僅か先の…


 やや向こうの丘の中腹、木々の切れ間に、


 大きな音と共に現れたのだ。


 大きな暗闇の亀裂が出来、それを更に大きく破る様に、


 黒い光の玉が現れたのだ。


 その瞬間、世界が大きな悲鳴を上げた。耳が千切れそうな、大きな断末魔の叫びが聴こえた。私は耐えきれず両耳を塞いだ。



 浮かんでいるそれは漆黒、黒い玉なのに、何故か光って見えた。その周りに、黒き炎の様な闇を纏って。

 やがてそれは人型になった。


 近くに大きな魔物が現れた。凄い勢いで近づいてくる…


 あれは恐らくキメラ種、不味いな…



 私は動けなかった。只、見ているだけしか出来なかった。あれに近付けば、確実に死ぬ。



 色々な感情が溢れ、何も出来ずに固まってしまった。


 この時の為に、国が、一族が、仲間が…


 どうすれば…良いんだ…


 思案していると、気付けばなんとキメラ種は消えていた。

 一瞬の、ほんの僅かな時間の筈だが…



「よし」耳を塞いだ手を離し、そのまま両の頬を強く叩いた。

 

 行かなければ…



 意を決して、私は歩き出した。



 遥か昔、我らの先祖が約束したと言う、神の元に。


 もう恐怖も不安も無かった。


 私は進む…


 国の為、家族の為、そして仲間の為、未来の為…




 人生を捧げた、運命、




 その使命を、果たす為に。






 

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