海は広いぜ大きいぜ 1
俺達は港を少し外れた、人気の無い場所に移動して、
俺達の船を【深淵】の中から海の上に、
取り敢えず出して、浮かべてみた。
勿論ミューを疑う訳では無いが、乗り込む全員の命が掛かっているのだ、
ゆえに一応、きちんと確認はすべきだとの判断からだ。
まあ…当然っちゃ、当然だが、
糸と魔法で普通の船より頑丈に補強までされてる上に、
更にミューが何やら、強力な魔除けの魔法を施した様で、全くもって問題無しどころか、
もはや、不沈戦艦の様相である。知らんけど…
俺達には見えないのだが、この船体の両舷には、無数のミューの糸が垂れ下がっていて、
海に居る魔獣の類は、それにビビって近づいてさえ来ないだろうと… ヨミが言ってた。
ほらな?うちのミュー先生に任しときゃ、何も問題無しって…うん、知ってた。
そして…出航に備え、
お世話をしたった、例のチンピラの皆さんに、食料やら水やら、
他にもなんか必要そうな物を…お前らで適当に選んですぐにここまで持ってこいや、
ダッシュな?…っと、
お願いして手配し、ここ迄運ばせたった…いや、運んで貰ったのだ。
勿論、金もちゃんと出したよ、
だって俺は…奴らにたかる、極悪非道なダニじゃ無いからな、
今のところは…
今後は、知らんけどな…
チンピラ連中は、まさか、ミュー以外にもグリフォンがいた事に凄まじく驚愕していた。
伝説の神獣が二頭で、まさか…子守をしている…
その、謎の光景に…
お頭って呼ばれてるシャダが、
急に俺の事を大親分とか呼び出して、ちょっと焦った。
でもさ待てよ、大親分はちょっと…ダサくね?
そうだなあ…
折角商会を立ち上げたんだし、
俺の事はそうだな、CEOと呼んでくれたまえ。
え?意味?…説明…?
えーっと…中央執行委員長…、なんだけど…
え?その意味?
確かに、たかが小さなテキ屋風情が、
そもそも、中央も何も、しかも委員長ってなんだよ?
って、話だよな?
うーんダメだ、色々と…
そもそも会社のシステムを、チンピラに一から十まで説明しなきゃいけねえ…
その全ての説明が、途方も無く難解すぎる。
何より、スーパー面倒くさい…
ダメだ、もっと素敵で簡単なやつじゃなきゃ…
うーんダメだ、
ピンと来る、良いのが一切浮かばない…
じゃあ、仕方が無い、この際、もう妥協案で、
商会だけに…会長って事に、しとこうかな?
いや待て…
普段、俺は居ないんだから、
表向き、会長はシャダで良いよな…
で、俺は裏のボス…いや真の会長か?
あ、真の会長って、何か、秦の怪鳥…みたいじゃね?
あの、最強の六大将軍みたいで、
なんか、メッチャかっちょいいよな、コっコッコッコ…!?
知らんけど…
そして、
大勢のチンピラに見送られ、
強引なメリー号は、遂に大海原へと出航した。
俺が上空に放出した、空の王者、ミューの糸で繋がったジョン君に引っ張られて…
あ!?…いかん、
おっとっと、いかんいかん、そう言えばすっかり忘れもんだわ、
え?!
ええ?!
か、会長???
…今、貴方、た、確かに、あの船に乗ってましたよね?
ん?ああ、細かい事は気にすんな。ハゲるぞ?
これだよ、忘れもんだよ。
ほれ、数日分の食材だ。
お前等絶対がさつだし…保存が心配だったからな、
ミューに頼んでかけて貰った魔法で、
このイカは数日は凍ったままだからな?
必要な分を叩き割るか、お湯かけて溶かしながら使え。
あと追加で、これはヘビだ。
このイカよりは、ちょっと小さいが、これもまあまあデケえんだよ。
まあ…イカもヘビも両方いっぺんに販売は無理だろうから、
これは、取り敢えずお前達が食え、食っていいから。
どうせ、まともなもんも、食ってねえんだろ?
腹が減っては戦はできぬって言うだろ?
勿論ただ、食うだけじゃダメだぞ?
ちゃんと料理の練習を兼ねてコイツを調理しろ。
教えた通り、焼きと素揚げで売り出せ。
売るなら味と場所を変えて、なるべくイカと喧嘩させんなよ。
あと、干しイカな。
一夜干しだ。今日からいっぱい干せ、干して干して、干しまくれ。
きっと携帯食としては完璧だぞ、ポケットにもそのまま入れれるしな。軽く炙って食うんだ。
多分ポケットは…後でちょっと…くさいとは思うけど…
まあそりゃ、こっちの知ったこっちゃねえしな、
あと、説明したワカメと昆布な、アレで出汁をとってイカスープだ。勿論、他の具材も入れてな?
それこそ、あれらはタダなんだ、
どんどん取ってきて、しっかり有効利用しろ。
そうそう、あとついでに言っとくけどな、
ヘビはメッチャ高級食材だからな?
あんま調子こいて、食いすぎんなよ?イカだけだと、やがては飽きられるからな…
まあ…取り敢えずこんなもんか…
じゃあな、また数日後に来てやる…
ちゃんと商売に励めよ?
もし…
しょっぱい売り上げだったら…
テメエら全員、罰だかんな。
そこんとこ、よーく、覚えとけ?
は、はい、分かりました会長…
よし、しっかり励めよ。
じゃあな、アディオス!
…
き、消えた…
急に現れたり、消えたり…
なんだよ…ありゃ絶対間違い無く、
やっぱり大悪魔かなんかなんだろ…絶対だ、
まあ…いいさ、悪魔の手先でもなんでも…
やってやって、やりまくってやる…
それで、あの悪魔の言う通りに、
この商売で、いつかここいらを牛耳ってやるぞ…ん?
…おい?
「ヒッ…?!」
か、会長???なんで…
誰が悪魔じゃ、このボケ、喰らえ、罰!
「ガツン」
ぎゃあああ…痛えええええっ…
いやいや、会長さんよ?…
アンタの…
その、今の所業が、完全に悪魔でしょうよ?
俺は、地獄の痛みにのたうち周りながら、そう思った…口には決して出せないのだが…
その、激しい痛みの中でシャダは悟ったのだ…
しかし、あの悪魔め、簡単に帰ったなんて、
もう二度と思わないぞ…と、
そう、決して油断するまいと、
シャダは今日、強く心に誓ったのだった。




