アマジャと言う男2
神殿の中に、色々な魔石や石の彫刻のような者が多く運び込まれた。
それらは綺麗に並べられ、石の床には金属の棒で、呪文が書き込まれた。
私は只、それをぼーっと眺めていた。
その時も、それらは全て、まるで他人事だった。
準備が終わったらしく、リハーサルが行われた。
皆はそれぞれ所定の位置に付き、私も遂に声が掛けられ、神の椅子に座れと言われた。
驚いた。
そんな事は…それだけは出来ません、無理です。
私は大神官様に向かって声を荒らげてしまった。
大神官様は言う。
「今日はね、特別だよ」
この日の為に、君は辛い修行の毎日を送ってきたんだよ。
君がこの世界に生まれた意味を、これから見せてあげられるんだよ。
さあ、お願いだから座っておくれ。私たちだけじゃない、きっと神様もお待ちかねだよ。
このジジイ、まさか狂ってるのか?自分達の信じる神の、
神だけの、
神の為の椅子に、
…座れだと?
何を言って言るのか、正気なのか?そうか、私が椅子に座ったら皆で殴って殺す気なんだ…
椅子は絶対イヤだ。
神だけが座れるんだ、私は神じゃあ有りません、勘弁して下さい。
私は泣き出し、必死で弁明した。
今日死ぬんだと思った。殺されるんだと強く思った。
怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、
嗚呼、神様、どうか、どうかお助けください。
生まれて初めて、見えない何か…信じても無い神に縋った。
大神官様は困った顔をしながら言った。
「君の神への深い信仰心。素晴らしいよ、見上げたものだ!」
益々我らの悲願が近づくよ。そうか、我々が君に危害を加えると恐れているんだね。大丈夫だよ。
これから君は、神と繋がるんだよ。
神を見ることが出来る目を得てね。
その為に、神様の近くに居なきゃ駄目なんだよ、判るかい?。
大神官様は私を抱きしめた。
大丈夫、大丈夫、何も心配要らないよ。
そうだ、これが終わったら、欲しいものを言ってごらん。ご褒美に、君にあげようじゃないか!
あの手この手、というやつなのだろう。
子供ながらに、大神官様って大変だと思った。
恐怖は消えなかったが、必死の大神官様に申し訳無くて、
私は小さく頷いた。
小さく嗚咽を漏らしながらも、私は手を引かれ、その椅子に、神の椅子に座った。
もっと深く座っておくれ。
そしてここをしっかり握っていておくれ。大神官様は笑顔で私の手を握りしめ、声を掛け続けた。
では始めようか。その一言で儀式が始まった。
途端に、身体に何かが、凄い勢いで流れ込んできた。
それと同時に、体中の魔石に光が灯り、聞いたことの無い大きな音が頭の中に鳴り響いた。
やがて何も見えなくなった。音も消え、私は意識を失った。
目が覚めると、私はまだ神の椅子に座って居た。ゆっくり目を開けると、何だか景色が赤く視えた。
おお、目が覚めたかね?大神官様だった。
「何が起こったんですか?」私は恐る恐る聞いた。
どの位の時間が経ったかは、分からなかったが、
確か…日は高かった筈だが、
もう、外は暗く成りかけているようだ。
「安心したまえ、成功したよ」
「あの…私は何も、何も変わってませんが?」
はっはっは、大神官様は笑った。
さあ、では移動するよ。
又、手を引かれた。
建物奥の一際大きな扉の前で、大神官様は止まり、そして言った。
今こらここに入ってもらうよ。
この中で、何が見えるか、後で私に教えておくれ。
扉が開かれ、私が入るとすぐに、扉は閉められた。
大神官様に代わり、私より少し若い少年が一緒だった。
目が暗闇に慣れてきた時、部屋の中央に異変があった。暗闇の中なのに、それよりも暗い場所、小さな穴?があった。
それは暗闇の中の暗闇。本来見える筈なんか無い。少し考えれば馬鹿でも分かる…
でも、それは有った。確かに有った。
ハッキリと分かった。
それが、周りより更に暗いので、部屋の暗闇さえも明るく見える…いや、
そんな馬鹿な?一体コレは何だ?
私にはサッパリですが、貴方には見えるのですね。少年が言った。
あ、はい…何か特別黒い、いや、暗い場所が見えます。
その中は暗すぎて、何も見えません。
ただ、その先に、こことは違う何か?が、有る様な気がします…
少年は言った。
それは、大神官様にお伝えください。
私は比較のために入った者で、貴方達のような、【深淵の目】は持ち合わせておりません。
少年が合図をすると、扉が開き、二人で外へ出た。
大神官様は私の肩を掴み聞いてきた。
「どうだった?」
さっき見たものを報告した。
大神官様は満面の笑顔だった。
それはね、特異点、いや、まあ、深淵、と言うんだよ。
この世とあの世の真ん中、それが深淵だと言われているんだ。
我々はね、そこに居られる神様を探しているんだ。
1000年以上前、そこから神様が現れて、混沌の世界を一部を除き、全て破壊した。だが我々の先祖は生かされたんだ。お前達は穢れていないから、と。
で、
その後に、神様が世界を、本来の有るべき姿に戻されたと言うんだよ。
その時、我々の先祖は神様と約束したんだ。
又、いつか愚かな者が過ちを犯す時も、もし我々は清く正しく生きていたならば、
神様、貴方はまた、我々を救って下さいますか?っと。
神は頷き、言った。
それが随分先の話なら、ひょっとして我は忘れているかもしれんな。
なれば探せ。何処かに呼び出されるであろう我を探し、
其方らとの約束が有ると伝えよ、と。
そして神様は静かにお眠りになり、長い、長い年月の末、
大きな黒い岩になったんだよ。
それから国も民も、
いつも綺麗な花で飾り、いつ神様が目を覚ましても大丈夫なように、
いつも食事と飲み物と、
そして、ゆっくりとこの国に居られるように、
あの、立派な椅子を置いたんだよ。
残念ながら、千年の間にこの国は、
責められ滅んだり、奪われたり、奪い返したり、
ずっと大切に御守りしていた神様の岩は、
いつしか、その場所が分からなくなってしまったんだ。
この国はね、それからずっと、ずっと、それを探し続けたんだよ。
大切な約束だからね。
残念ながら、君と同じ様な、選ばれた者でしか、深淵は見えないんだ。
だから、君のような深淵が見える者達で、
何処かに有る深淵を…
神様のお眠りになった場所を、ずっと探しているんだよ。
そんなおとぎ話を信じて、一体いい大人達が、何をやってるんだ?
…正直、そう思った。
この部屋の中の深淵は、特異点と言ってね、
深淵が現れる前兆として現れるらしい。
普通、同じ場所にそれは常に現れないのだが、ここのはどうも特別らしい。
特異点…それが多く集まる何処かの場所、
そこに神が、救いの神が顕現されるんだ。
我々は誰よりも早くそこに行かなければならないんだよ。
それがこの国の民の救済、そして、世界の中の正しき者の使命で有り、来たるべき、大破壊後の未来の礎に成るんだよ。
今もこの地上の何処かには見えないだけで、
神はいるんだよ、
そして今日、
この瞬間から、君はこの国の最高秘密調査機関 【アザーエル】の一員だ。
君がこの国の全ての人々を導くんだ。その【深淵の目】を使ってね。
あの日から数年経った。
私は国を跨ぎ、アチコチに足を運んだ。
深淵を、神様を探す、そう言う名目で、何をしても自由だった。
壁の中と違い、許可なく何をしても良かった。
金も自由に使えた。あの辛いだけの日々の代償がこれだった。
弟にも会えた。
あの日、私と一緒に特異点を見た少年が弟だった。
初めまして、お兄さんと言われた時、涙が止まらなかった。
約束通り、何か褒美をやると言われてたが、
弟だけじゃなく親にも会えたので、もう充分ですと、辞退した。
我々、深淵の目は、神の椅子に座ることを許された、唯一の人間だった。
今はそれが誇らしかった。
施設で私を殴っていた連中は今も施設で燻っている。
所用で施設に行くと、遠くから私を見ている。
それは悔しげに…
一矢、報いた気分だった。
深淵の神様とやらは…
少なくとも、
どうやら私にとっては…素晴らしいものの様だった。
そうだ…神は居たのだ。




