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第十三話 二本松の再会

 慶応四年(一八六八年)七月二十九日夕刻、克之丞は二本松の地に足を踏み入れ、目にした光景に言葉を失った。

「こんな子供まで……」

 克之丞の目の前には、壮年の二本松藩士のほか、老人、さらには少年たちの亡骸が横たわっていた。その亡骸のいくつかは、まだ血の気が残っているようにも見え、戦の凄惨さを物語っていた。二本松少年隊である。

 二本松藩はこの時、極度に疲弊していた。数日前、郡山に駐屯していた二本松藩兵は、新政府軍による二本松攻撃の兆しを受け、急ぎ帰城を果たした。藩士たちは、既に多くが新政府軍の東北進攻に従い転戦しており、体力も限界に近かった。戦力の低下を補うため、老人や農民に加え、少年たちを戦場に駆り出していたのであった。

 前日二十八日、二本松の南約二里半(約一〇㎞)の本宮に宿陣していた黒羽兵に下された。

  「黒羽兵と館林兵は本宮に残り、郡山と須賀川の賊に備えよ」

 白河城で数千の奥州同盟軍に包囲されていた新政府軍は、度重なる攻撃を跳ね返し、七月中旬、援軍とともに会津へ向けて北への進軍を開始。棚倉、守山、三春の藩が次々と帰順する中で、二本松藩を攻略することが決定された

 のである。

 黒羽隊の中での動揺が広がったが、三左衛門はその場に集まった藩士たちを前にこう宣言した。

「我らも腹を決めねばならぬ。南にいる仙台兵は二〇〇〇を超える。それに比べて我らは、館林の兵を加えても四〇〇に満たない。明日、お味方が二本松を取れば良し。攻城に手間取っている間に仙台兵が押し寄せてきたら、二本松を攻めるお味方を含め、我らは窮地に陥る」

 その言葉に、空気がピンと張り詰めた。三左衛門が言葉に力を込めて続けた。

「されど、戦略上二本松の確保は必須。ここを取れば、会津攻略もより容易となろう。ここを守り切れるか否か。会津攻めを左右する大事となるだろう。今こそ黒羽の力を見せるときぞ」

 その言葉を聞きながら、克之丞は頭の中であの日のことを思い返していた。

(黒羽を出て二ヶ月。那美や彦助に挨拶じまいだった……)

 克之丞の口元がわずかに緩んだ。

 軍議が終わり、藩士たちはそれぞれの宿所へと戻り始めた。ある者は決意を胸に、またある者は心中の疑念や不安を抱えていた。克之丞もその一人であった。宿所に戻る途中、ふと耳に入った藩士たちの会話に、克之丞の足が止まった。

「薩摩や土佐の奴らはいい気なもんだ! 二本松にはほとんど兵がいないって聞いたぜ! あいつら、自分たちの得意なところだけ持っていって、俺達には死ねってことか? あの殿が徳川の要職にいたから、今でも信用されてないんだろうな」

「ならば、仙台と組んで二本松に向かった連中を背後から狙ってやろうぜ! 一網打尽にしてやる!」

 会話を聞いて危機感を抱いた克之丞は、三左衛門に報告すべく来た道を戻ろうと振り向いた。いざ足を進めようとしたときだった。克之丞は那美の言葉を思い出した。立ち止まり、しばらくうつむく克之丞。再び歩き出した克之丞の足は、来た道を戻ることなく宿所へと向いていた。


 夜が明けた。薩摩・土佐主体の新政府軍は二本松に向けて北へ進軍を開始した。一方、黒羽兵は街道上に陣を敷き、南から迫る新政府軍に対して警戒を強めた。黒羽、館林の両兵が緊張の面持ちで街道の先を眺めていると、北の方向からかすかに砲声が響く。

 しばらくの間、遠くに響く砲声を耳にしながら、克之丞は微妙な違和感を感じ取った。本宮から北の二本松は約三里(一二㎞)、南の郡山は約三里半(一四㎞)でその差は半里(二㎞)。本宮を発した部隊が二本松で戦闘を開始してから四半刻(三〇分)経つ。であれば、郡山の仙台兵が本宮に到着する時間は十分にあるはずだ。

「斥候を放て!」

 三左衛門も同じだったのだろう。そばに控える藩士に指示を出した。まさにその時だった。新政府軍から使者が到着し、息を呑む報告を伝えた。

「仙台兵は郡山から西進し、仙台領に向けて退却しています!」

 その言葉に、ようやく本宮の部隊が安堵の息をついた。背後を衝かれる心配がなくなり、彼らは戦線を反転させ、二本松に向けて再び進軍を開始した。

 その後、二本松城は、本宮からの攻撃部隊と平潟港(現在の茨城県北茨城市)からの新政府軍の援軍によって二方向から攻め込まれた。二本松藩の抵抗は壮絶であったが、ついに城は落城し、戦闘の中で少年隊を含む多くの命が散った。二本松の戦いは、戦争の非情さを物語るものとなった。


 克之丞は、少年の亡骸のそばに近づき、腰を下ろした。

「戦力が足りないからと言って、こんな子供たちまで……」

 つぶやいた克之丞は、目を瞑り、両手を合わせた。明日ある少年たちの命を犠牲にすることの意味を考えながら、その死を悼んでいた。

「これで分かったか?」

 突然、聞きなれた声が克之丞の耳に響いた。高鳴る鼓動を押さえながら咄嗟に立ち上がり、振り向いた克之丞は、視線の先に立つ男に目を見張った。

「お前……こんなところに……」

 顔や衣服は血とほこりで汚れ、頬や腕に擦り傷を負った辰之輔がそこに立っていた。その姿を見た克之丞は、見慣れたはずの顔にも関わらず、どこか恐怖を感じて言葉を失った。


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