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第8話 出来損ないのハーフエルフ(フェルン視点)

 ――ハーフエルフとは、まがい物、出来損ないである。


 人間とエルフの間に生まれ、魔法も、姿かたちも、すべてが中途半端な存在。


 そう言われてきた。


 そう、思っていた。


「ふうん、変わった耳だな。でも、可愛いじゃん」


 なのに私を檻から助け出してくれた人は違った。

 純粋な目で、ほのかに笑みを浮かべながら、私の汚れた手を掴んでくれた。


「ついてこいよ。ここから逃げ出したいんだろ?」


 訳が分からなかった。確かに助けてほしいと頼んだ。

 でもまさか本当にお願いを聞いてくれるなんて。

 さらに驚いたのは彼が、私が見てきた人の中で、一番強かったことだ。


「あァ、血ってほんと綺麗だよなァ。――このままだと逃げられちまうぜ? かかってこいよ。」


 勢いよく向かってきた相手を、遊戯で遊ぶ子供のような笑みを浮かべ、なぎ倒していく。


 その姿に心と身体が震えた。


「ふう、ごめんな。怖かったか?」

「……そんなことないです」


 これは本音だった。なぜか恐ろしいとは思えなかったのだ。

 むしろ、逆。私にはなぜか彼が悲しげに見えた。


「俺の名前はヤマギシ。そっちは?」

「フェルンです。その……私は、ハーフエルフなんです」

「へえ、そうなんだ。だから片方だけ耳が違うんだ」

「……はい」


 あえて自分から種族を名乗るのは怖いからだ。

 優しかった相手が突然に切り替わる、そんなことが何度もあった。

 それが、恐ろしくてたまらない。


 でも――。


「ひゃっっあぁ、な、なにするんですか!? なんで耳触るんですかぁっ!?」

「いや、可愛いなと思って。それにぷにぷにだ」

「やぁっ、やめてください!? ぁっああん!?」

「あ、ごめんごめん。でもいいな。俺もそんな耳が良かったな。かっこいい」


 彼は褒めてくれた。

 初めてだった。忌み嫌われ、気持ち悪いと言われていた耳が、かっこいいだなんて。


 国を出て森へ入り、彼と行動を共にした。付いていくのは大変だったけれど、時折後ろを振り返り、様子を見てくれていた。

 どうして彼はこんなにも優しいのだろう。


「ここで一息つこう。明日は朝から出る。フェルンは行くところあるのか?」

「……ええと、その……」

「ま、言いたくなかったらいいよ。さて、寝ようぜ」


 彼は命を助けたからといって何かを強請ることもなかった。

 私の身体に触れることもしない。


 今までの人とは違う。まるで、私を対等のように扱ってくれている。

 頼りがいのある背中。

 

 まるで、お兄ちゃんみたい――。


「……んむにゃむにゃ、もっと血が、血がみたいよぉ」


 目を覚ました後、私は言葉が出なかった。

 今まで誰かの横でこんなに安心できたことなんてない。


 寝込みを襲われ、ハーフエルフだからという理由で殺されそうになったこともあるのに、ついさっき出会った人の横でぐっすり眠るだなんて。


 でも、ヤマギシさんの寝顔はとても可愛かった。

 寝言は怖いけど。


 それから果物を手渡すと、子供のように喜んでくれた。


 ハーフエルフの触れたものなんて汚らわしいと言われることもあるのに。


 そんな彼は冒険者になりたいという。


「ヒャッハー! 身ぐるみはいでやるぜえ!」


 そのとき、悪い奴らが現れた。

 また、まただ。


 私が幸せを感じるといつも起こる。


 幸せが、奪われる。


 いやだ。いやだ。ヤマギシさんは私を認めてくれた。


 忌み嫌われた耳をかっこいいといってくれた。


 そんな彼が傷つく姿を見たくない。


 ヤマギシさんは、何百人もの兵士を相手していた。

 心配させないようにしてくれているけれど、きっと疲れているに違いない。


 彼だけは、傷つけさせない。


「ヤマギシさん、下がってください! 私が!」

「なんで? 大丈夫だよ」


 でもそれは杞憂だった。


 彼はまるで、朝の散歩みたいに敵を倒していく。


 遊戯で遊ぶ子供みたいに。


 強い、強すぎる。


 なんで、こんなに。


「終わりっと。ありがとなフェルン! さて、戦利品回収の時間だ!」


 ヤマギシさんは怪我を負わせられるどころか触れさせることもなかった。


 私は、彼に武器を作ってあげることしかできなかったというのに。


「……ごめんなさい。私は何もできませんでした」

「そんなことないよ。助かった。なあフェルン、俺と一緒に冒険者やらないか?」

「え、私とですか?」

「そうだよ?」


 冒険者はパーティを組むと聞いたことがある。


 でもそれは命を預け合う行為だ。

 戦場で背中を守りあえるだけの信頼がなければできない。


 私は、私なんかじゃ……。


「ダメじゃないですけど、私でいいんでしょうか。私は……ハーフエルフですよ」

「俺はヤマギシだぞ」

「……本当にヤマギシさんは面白い人ですね」

「そうか?」

「……私でよければよろしくお願いいたします」

「やった! それにフェルンはかなり強いと思うよ」

「私が? それは買いぶりですよ。まともに戦った事なんてないですから」

「そうなの? でも強いやつは、なんかわかるんだよな」


 本当に不思議な人だ。


 まるで、お兄ちゃんみたい。


 そのとき、思い出す。


『フェルン、ハーフエルフは出来損ないなんかじゃない。誰も知らない、わかっていないだけだ。本当の僕たちは、誰よりも強い』


 私も強くなれるのだろうか。


 ヤマギシさんみたいに、心も、身体も。


 だったら、頑張ってみたい。


 自分を、私の命を助けてくれたヤマギシさんが困った時、助けてあげられるような力がほしい。


 お兄ちゃんを失ったときのような後悔はしたくない。


 私は誓う。ヤマギシさんの命を狙う輩がいたら決して容赦はしないと。


 私を認めてくれた彼を、何があっても守り抜く。


「行こうぜフェルン。通行許可証もゲットしたしな!」

「はい!」


 そして気づいたことがある。


 これは、言っていいのだろうか。


 いや、やめておこう。


 知らないほうがいいこともある。



 ――彼も何かと混ざっている(・・・・・・)ことなんて。

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