第6話 ヤマギシとフェルン
数日、時系列戻ってます宜しくお願いします。
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「ヤマギシさん、おはようございます、ヤマギシさん、起きてください」
「ん……むにゃむにゃもう戦えないよお……」
「ヤマギシさん、朝ですよ。朝です」
ゆさゆさと身体を揺らされて目を覚ます。
ふかふかの木の葉のベッドはとても寝心地が良かった。
前線は泥が付着してなかなか寝付けなかったけど、腰が痛くないだけでほんと快適だなあ。
軍に入れば食いっぱぐれがないと思っていたが、まさかこんなことになるとは。
そういえば給与ってまとめてもらえる予定じゃなかったっけ?
いつか、取りに帰るか。
「よし、行くかあ!」
そこで白髪が目に入る。肌が真っ白、服は少し薄いベージュ色。布切れというほどではないが、質素な装いをしている。
目は青くてクリクリ、左右で大きさの違う耳、呆けた顔はまるで猫みたいに可愛い。
なんか、申し訳なさそうにしている?
「おはよう、フェルナンデス」
「そんなかっこいい名前じゃありません。私はフェルンです」
「ああ、ごめんごめん。早起きなんだな、フェルンは」
「いえ、そのすみません……」
笑わせようとしたものの、冷静なツッコミが返ってくる。
昨晩、彼女はずっと俺に抱き着いていた。というか、震えていた。
よく考えたらずっと檻の中に閉じ込められていたからか。
俺は快適に感じてたけど、フェルンはそうじゃないよな。
それでようやく一息つけたのが昨日。
そりゃそうなるか。
「………私、凄く抱き着いて寝てましたよね?」
「そうだな。おかげで寝がえりがうてなかった」
「す、すみません!? 安心したら凄く眠たくなって、それで……」
「別にいいよ。あったかかったしな。それより、お兄ちゃんて?」
「え? ……私、もしかして寝ながら何か言ってましたか?」
「ああ、お兄ちゃんって」
「……すみません。気にしないでください」
お兄ちゃんと何かあったのだろうか。
欲しいおもちゃの取り合いとか、そんなのを思い出したのかな。
家族っていいな。いいないいな!
さて、晴天だ。清々しい。
冒険者日和だろう。どうやってなれるのかはわからんが。
――ぐう。
……お腹が空いた。
この辺って食べものあるかな。
「ヤマギシさん、少ないですけど」
「ん、フルーツ?」
「はい。この木の上に実ってました」
フェルンは、ピンク色でぷりぷりの美味しそうな桃を持っていた。
「くれるのか? フェルンのは?」
「私のもありますよ。――落ちて」
するとフェルンは木に手を触れた。
ぼおっと光って、ぽんっと上から桃が落ちてくる。
「すげえ、フルーツを生み出す魔法か?」
「違いますよ。木にお願いして落としてもらったんです」
「へえ、魔法はなんでもできるんだな。――ん、美味しいなこの桃」
果肉が甘くて美味しい。喉も潤せて一石二鳥だ。
やっぱり魔法っていいなー。剣と違って何でもできるし。
俺もビュンビュンって攻撃してみたい。
でも難点は攻撃速度が遅いことだな。
虐殺部隊みたいな高速魔法を使ってみたい。
びゅんって動きたいっ!
「さて、ご馳走様。じゃあ、ここでお別れかな?」
「え? ど、どこいくんですか?」
「敵国」
「……え?」
「昨日話しただろ。前線を一人で守ってたって。そこの国の奴に……勧誘? いや……なんだろうな。とりあえず行く当てもないし、トラバと敵対してる国のほうが出くわすこともなさそうだし」
「で、でも、入国できるんですか?」
「さあ? まあ、それは後で考えるよ」
「そうですか……」
「フェルンは兄貴の元へ行くんだろ? 近いのか?」
「……わからないです」
「わからない?」
フェルンが最後に笑ったのは脱出のときだけだ。
それと、耳に触れていたときだけ。
まだ怖いのかな。
「私はどこに――ひゃぁっあ!? な、なんで耳触るんですかあっっ!? ぁぁっんっ!」
「いや、笑ってもらおうと思って。しかしやっぱり、ぷにぷで気持ちいいな」
「んっ、ひゃっ、や、やめてくださぁっいっ」
「ごめんごめん。でも、そっちのがいい。笑ってると、何でも楽しくなって来るから」
「……そうですかね」
「もう一度耳触っていい?」
「だ、ダメです!?」
赤面しながら耳をさっと隠すフェルン。
気持ちいいのかと思ったんだけどなあ。
まあ嫌ならやめておこう。
「とりあえず森を抜けるまでは一緒に行くか。魔物、結構いるみたいだし」
「はい。え、そ、そうなんですか!?」
「昨日の夜も何度か襲いかかろうとしてきてたよ。ついでに今朝も」
「いつですか?」
「うーん、結構あったな」
「でも、襲われてないですよね?」
「それは俺が来るなって警告したから」
「はい? どうやってですか?」
「説明しづらいな……。オラァッ! みたいな感じを、気で」
「気で?」
「気で」
「はい」
「はい」
全然伝わっていないらしい。でもなんか言い回しが難しいんだよな。
チョエエエ! って感じか? いや、これも伝わらなさそう。
とりあえず行こうと声を掛ける。するとフェルンが、少しだけ待ってくださいと言った。
お化粧直し? と思っていたら、木の下で目をつむる。
「――精霊様、居場所をお貸しくださり、ありがとうございました」
「何してるんだ?」
「感謝を伝えています。私は、精霊様のお力を頂いているので」
「へえ。そうなんだ」
「すみません。普通の人が見たら、訳がわからないですよね。え、ヤマギシさん?」
「精霊は見たことないけど、俺もお礼を伝えておくよ。――ありがとうございました」
俺は、フェルンの横で手を合わせた。確かに寝ている間、この木からは優しい魔力があふれていた。
おかげで魔物の気配が察知しやすかったが、そういうことだったんだな。
「さて、行こうか。どうした、行かないのか」
「……行きます」
なぜか彼女は驚いている。どうした?
そのまま森を歩きはじめ、そして突然、フェルンが声をかけてきた。
「ヤマギシさんは本当にいい人なんですね」
「俺が? どうして」
「……普通の人は、というのもあれですが、精霊様を大事にしているところを馬鹿にされたことがあるんです。でも、ヤマギシさんは一緒に祈ってくれました。とても嬉しかったです」
「別にいい人じゃないよ。フェルンの真似をしただけだ」
「……それでも、嬉しいです」
フェルンは微笑んでいた。
俺はいい人じゃない。むしろその逆だ。
でも、そういわれるのは嬉しかった。
それから数時間ほど森を走って抜けた。
フェルンは小柄だが体力はあるみたいだ。
胸ポケットから地図を取り出す。
前線を守っていたときに何度も見返していた地図。
フェルンが「私も見ていいですか?」と覗き込んでくる。
地図には俺たちが抜けてきた森が描いてある。
この先がベルディ国。
そこが、敵国。俺が半年間、戦っていた相手だ。
で、俺が目指しているところだと再度伝えた。
「ヤマギシさんはベルディ国で何をされるんですか?」
「知り合いに会えたらいいけど、それまで働けるところを探そうかなって。金もないし、服もないし、寝るところもないし。後、冒険者ってのになれればいいんだけど、聞いた事ある?」
「あります。といっても、詳しくは知りませんが。確か任務を受領し、成功すれば対価を頂けると」
「そうそう。ただそれより問題は入れるかどうかだな。なんだっけあの、入り口で見せるやつ」
「入国許可証、でしょうか?」
「それ。今はどこも戦争状態だから厳しそうだなって。でも、もしかしたら手に入るかも」
「え?」
少し前から殺気を感じていた。
魔物のものではなく、人間特有のものだ。
人数は十五人ほどだろうか。布の擦れる音、金属の音が聞こえる。
位置的に考えるとベルディ国側だし、追っ手ではないかな。
森を抜けて満身創痍になったやつの追いはぎ狙いだろうか。
できれば凄く悪いやつがいいな。極悪非道だとありがたい。
そのほうがわざわざ手加減しないで済むし。
賞金首だとなおよし。
さあて、朝の運動運動。