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第4話 それぐらい考えてるよな……?

「ひ、ひゃぁああああああ。こいつば、化け物だあああああ」

「ひ、ひ、っひ……ひいい……」

「な、なんだこいつ。何なんだよおお!?」


「いや、ただの人だけど……てか、やっぱりこの剣、見直したほうがいいぞ」


 ゲルマン中尉は右腕を失った後、地面に倒れこみ泣き叫んでいる。

 襲いかかってきた軍兵にも同じように斬り付けた。


 血が空中に舞うと、光がキラキラと反射して綺麗だ。

 まるで星空を見ているような気分になる。

 

 ――っと、あんまり興奮しないようにしねえと。


「で、俺の巨剣はどこだ?」


 この軍に滞在する理由はもうない。

 けど相棒だけは必要だ。


 軍兵は戦意喪失していて答えられないらしい。

 老兵たちは震えながら腰を抜かしている。


 俺はゲルマン中尉の元まで歩き、剣先を頬に触れさせた。


「ひ、ひっ、ひっ」

「俺の巨剣はどこですか中尉」

「や、やめてくれええええっ」


 ついさっきまでニタニタと笑いながら俺の頭を勝ち割ろうとしていたくせに命乞いか。


 ――あァ? なめてんのかァ?


「左耳」


 俺は、中尉の左耳を宣言通り切り取ってやった。

 空中に耳が浮かぶ。まるで鳥みたいにパタパタした。


「ひ、ひぎゃぁっああああああああああああ」

「聞こえない耳ならいらないですよね。もう一度聞きます。俺の巨剣(相棒)はどこにあるんですか?」


 答えない。震えて怯えて、泣き叫ぶだけ。


 はあ。俺が戦っていた敵国の連中のほうが立派だった。


 腕を切り落とされても喚くこともなく、切り付けられても歯を食いしばっていた。


 それと比べて中尉は……。


「右耳――」

「どうしたぁっ!? な、なにがあったぁっ!?」


 そのとき、後ろの扉が大きく開いた。


 ザッと見る限り軍兵士が20人ほど。


 施設の大きさから考えると、ほかにも100人くらいはいるだろう。


 ――ああ、ったく。


「こ、こいつを殺せえええええええええええ! ひぎゃぁっあああああ」


 ゲルマン中尉の右耳にお別れを言って、俺は扉へ走って部屋を飛び出した。

 

 奴らは俺を犯人に仕立て上げようとしていた。

 巨剣を証拠として保管している可能性は高い。


 通路を走り、向かってきた軍兵士の剣を叩き落として探し続ける。


 だが、一向に見つからなかった。

 これ以上時間をかけるともっと大勢が集まってくるだろう。


 もしかしたらと地下に戻ってみた。

 見張りはいない。おそらく俺を探し回っているのだろう。


 しかし檻の近くにも巨剣(相棒)の姿はない。諦めかけたそのとき、階段上から叫び声が聞こえた。


「この地下に逃げたぞ! まだ行くな! 道を封鎖しろ!」


 向かってきてくれたらよかったものの、頭のいいやつもいるみたいだ。

 

 どうしよっかなー。


「――ん?」


 檻の中、壁に手錠を付けられている女性がいた。

 白髪、白い肌、耳の大きさが違う。

 右耳が小さく、左耳がピンと立っている。


 確か……ハーフエルフ。


 俺と目が合い、声をあげた。


「な、何してるんですか。それにその顔……」

「顔? ああ、ただの返り血だよ」

「……脱走兵なのですか」

「あーいやそうだけどいや……違うな。濡れ衣を着せられたんで逃げるところだ。それより俺の巨剣知らないか?」


 ハーフエルフは眉をひそめていた。知るわけがないか。

 そろそろ出なきゃならない。


「……連れていってください」

「ん? 何を?」

「私も、一緒に連れていってください。お願いします」

「……なんで? てかなにしたんだ?」

「何もしていません。あいつらが、勝手に変な罪を擦り付けてきたんです」


 そんなことありえ――いや、ありえるか。

 俺にも無茶苦茶な罪をかぶせてきたもんな。

 人を助けるためにここに来たわけじゃないが、ここで見捨てるのもばつが悪い。

 

「お願い、私を信じてください! 鍵は、どこかの壁にあるはず――」

「わかった」


 そして俺は鉄格子を切り刻んだ。

 だがそこで剣の限界が来たのだろう。


 刃毀れしすぎて人を斬るのはもうきついな。


 ハーフエルフはなぜか呆けていた。


「どうした? 出ないのか?」

「……この檻、鉄ですけど……」

「それぐらい知ってるよ」


 それから俺はエルフの手錠を斬ってやった。

 同時に剣が完全に折れる。ほんとなまくらだな。


「さて、後は知らないからな」

「……ありがとうございます。私なんかを、助けてくれて……」


 突然、目に涙を貯めながらうるんできた。

 こうしてみると随分と美形だな。私なんか? 


 いや、それより――。


「そろそろ出るぞ。面倒はみないからな」


 一人で脱出するのは簡単だが、二人だと話が変わってくる。 

 いくら俺でも大勢は疲れる。そもそも武器がなあ。

 

 うーん、さてどうしよう。

 

 ゲルマン中尉のときみたいに奪って突破するか。


「行くぞ。付いてこいよ」


 ハーフエルフはこくりとうなずき、俺が先導して階段を駆け上がっていく。

 まだ集まっていないらしい。兵士が四人。それぞれ武器を構えているが、隙だらけだ。


「この流れ者(下民)が! 死ね――」 

「お前もかよ」


 振りかぶられた剣を回避。隙だらけの右腕を蹴り上げると骨の折れる音がした。

 剣を奪い、続いて隣の兵士の右腕を切り落とす。


 あーやっぱ、血って綺麗だよなー。


「ひ、ひぎゃぁっああああっ!!」


 とどめを刺すのは面倒だ。

 次々と斬りつけ前に進んでいく。敵がいなくなったところで剣を見てまた溜息をつく。


「あ、あの」

「ん、どうした? おんぶはしないぞ」

「もしかして、剣が欲しいのですか?」

「そうだ。どこにもないんだよなあ。名刀ってわけじゃないけど、丈夫で気に入ってたんだよ」

「……じゃあ、私が、作ります」

「作る?」


 そのとき、敵兵士の声がした。

 最新型の魔道兵器を持っている。確か、空気中の魔力を集約させ、光魔法を放つやつだ。


「撃ち殺せ!!!」

 

 敵が俺に照準を定めた瞬間、右隣にいたハーフエルフから冷気を感じた。


「な、なんだ――」


 兵士が騒ぎ、俺も思わず右手に目を向けた。


「――剣よ、精霊の名のもとに、存在を示せ――。」

 

 剣が、俺の右手に蒼くて透明な剣が形作られていく。

 まるで水晶みたいに美しい。やがて初めからあったかのように俺の手元に収まった。


 はっすげえ、作るってそういうことか。


「撃て!!!! ……は?」

「おおすげえ、刃こぼれしないのか」


 俺は、ハーフエルフが作ってくれた剣で、兵士の撃った魔法を叩き切った。


「な、なんだと……」

「――軽いし、使い勝手がいいな」


 なんだか手に馴染む。そのまま五人ほど斬り倒して、外に飛び出した。

 ここまでくればもう大丈夫だろう。


 驚いたのは、俺の後をぴったりハーフエルフが付いて来ていたことだ。

 足、結構速いんだな。


「――剣、ありがとな」

「……とんでもないです。私はフェルンといいます。あなたは――」

「ヤマギシだ。魔法ってやっぱりかっこいいな。俺もいつか使ってみたい」

「え、さっきのあなた身体強化(ストレングス)魔法じゃないんですか?」

「? 魔法なんて使えないぞ」

「じゃあ今の攻防まさか……生身の力でってことですか?」

「そうだけど」

「魔法を叩き切ったのは……? どうやってあんな速いのを!?」

「見えるじゃん」

「……あなた、何者なんですか?」

「ヤマギシ二等兵――いや、ただヤマギシだ。もうすぐ冒険者ヤマギシになるかも」

「……よくわからないけど、おもしろい人ですね」


 そして俺とフェルンは逃げ出した。


 せっかくの衣食住もこれでパァか。


 てか……ずっと俺が守ってきた前線には今誰がいるんだ?


 誰もいないことないよな? ……さすがに。


 結構ひっきりなしに敵が来てたんだけどな。


 まあ、いいか。それぐらいさすがに軍も考えているだろう。


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