表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/31

第31話  実は断末魔をメモしてるんだよね 

「ヤマギシって、正しくは俺の名前じゃないんだよね。じっちゃんの名前なんだ。あれ……言わなかったっけ?」

 

 聞いてませんよ、と少し頬を膨らますフェルン。

 頬をツンっとしようとしたら、続きを話してくださいと怒られた。


「じゃあ、最初から話すか。俺はね、魔王の息子なんだ」


 フェルンは目を見開いていた。ぱちぱちと何度も。

 ん、どうしたんだ?


「おーい、聞こえてる?」

「き、聞こえてますよ!? ど、どういうことですか!? 魔王の息子!?」

「正しくはらしい(・・・)、なんだけどね。一度も会った事ないから本当か嘘かわかんないけど」

「え、ええと!? 理解がちょっと追いつかないというか……」

「物心つく頃、三歳か五歳ぐらいかな。俺にはお世話係がいたんだ。魔族じゃなくて、人間の女の人。優しい人だったよ。ご飯の食べ方とか、俺の境遇を教えてくれた。俺が、魔王と人間の女性の元に生まれたハーフ魔族だってことも。住んでた場所は小さい小屋みたいな感じだったな。そこが俺の最初の記憶」

「その女性の方とずっと二人で暮らしていたってことですか?」

「いや、定期的に魔王の部下ってやつが様子を見に来るんだ。うまく育てられてるのか、俺の魔力がどのくらいだとか。んで、八歳ぐらいだったかな。人間との戦争があるから、お前も参加しろって言われて連れて行かれた」

「……ヤマギシさんは、どうしたんですか?」

「もちろん戦ったよ。いっぱい人間も殺した。人間は悪で、俺たちの敵だって言われてたからね。それが何度もあった。でも、帰るたびにお世話係の人はいつも泣いてたな。そんときはよくわからなかったけど、今はわかるよ。俺が人間を殺すのが嫌だったんだろうね」


 フェルンは驚きながらも悲し気だった。俺も口にしてわかった。

 お世話係の人の涙は、あんまり嬉しくなかった。

 だからこの記憶を無意識に避けていたのかも。


「それから多分、フェルンも知ってると思うけど魔王は消えた。どこに行ったのかは俺も知らない。そのタイミングで、俺はお世話係の人と小屋から離れたんだ。いや、逃げたって感じか。一応、監視されてたからね」

「その人は……どうなったんですか?」


 フェルンの疑問に、俺は過去の記憶を思い出す。

 少しだけ、心が揺れた。


「殺された。魔族が追ってきて、俺を引き戻そうとしたところを守ってくれたんだよね。俺も仕返しに魔族を殺した。それからは一人で生きてたんだけど、途中でじっちゃんと出会ったんだよね」

「そのお方が、ヤマギシさんだった、ということですか?」

「そ。面白い人だったよ。もちろん人間ね。んで、厳しかった。人から物は奪わない、傷つけない、殺さないって、口酸っぱく言われたな」

「……とても良いお人だったんですね」

「そうだね。相棒(巨剣)も好きだったもんな」

「iaakdofkwgw////」


 巨剣が喜びでぴょんぴょん。

 フェルンが尋ねてくる。


「巨剣さんとは、いつから一緒にいるんですか?」

「生まれたときからだよ。魔族はみんな、一つだけ武器を持って生まれるんだ。俺は純粋な魔じゃないけど、例外じゃなかったみたい。巨剣も最初は小さかったけど、今はこんな立派に」

「gah8whigwagw////」

「お、おい刃で頬が切れるだろ」


 そうだったんですね、とフェルンが頷き、また顔を上げた。


「ヤマギシさんはどうしてトラバにいたんでしょうか。そのおじいさまが住んでらっしゃるのですか?」

「いや、じっちゃんは殺された。出会ったのは随分と前だし、遠いとこだよ」

「……もしかして魔族に、でしょうか?」

「いや、人間だよ。若い奴らだったな。金欲しさに殺したらしい。それからよくわからなくなった。魔族も人間も、どっちも悪いし、何も変わんねえって。それから転々として、トラバ軍の募集を見つけて入った」

「……じゃあそれからずっと一人だったんですね」


 フェルンは悲しそうだった。昔はよくわからなかったけど、今はわかる。

 俺の境遇を理解してくれたんだろう。


「そんな悲しい顔しないで。俺はずっと楽しく生きてるよ。フェルンと出会えてから、何が良くて悪いのかもわかってきたしな」


 にへへっと笑うと、フェルンが少しだけ微笑んでくれた。

 それから、私の話をしていいですか? と言った。


「私の父と母は、奴隷商人に殺されました。若い兄は連れて行かれ、私はなんとか逃げることができましたが、ずっと一人で生きてきました。安息の地を求めて移動していましたが、どこもハーフエルフは迫害され、その途中でトラバ軍に連れ去られたんです。そして、ヤマギシさんに助けられました」

「そうだったんだ。お兄ちゃん、生きてるのかな?」

「難しいと思います。奴隷商人は、残虐非道な人たちで有名でしたから。それにもう、随分前の話ですよ」


 俺は、ゆっくりとフェルンに近づき、頬に流れた涙を拭いた。


「泣かないで」

「……はい。ヤマギシさんは離れないでくださいね」

「おう。フェルンは一緒にいてくれなきゃ困るよ。俺、悪いことしそうだもん」

「ふふ、それは全力で止めてあげます」

「hifjaofwfwa////」


 それからフェルンは首を傾げる。


「となると、ヤマギシさんの本当の名前はなんていうのですか?」

「お世話係の人には、あなた(・・・)って呼ばれてたし、名前がそもそもなかったんだよなあ」

「そう、なのですか……お母様のことは、何も知らないのですか?」

「何もわかんないんだよね。訊ねたことはあるけど、お世話係の人も知らなかった。もう死んでるのかも」

「そうですか……」

「でも、フェルンのお兄ちゃんは生きてるといいな。あ、だったら一緒に探さない?」

「探すって、私の兄をですか?」

「そそ、もし生きてたら嬉しいじゃん?」

「……そうですね。じゃあ、ヤマギシさんのお母さんも探したいですね」

「生きてるのかなあ。うーん、でも手掛かりないし……そうだ。魔王とか魔族を探せば見つかるかもしれないな。――じゃあ俺は母親を探す。フェルンは兄貴を探す、どう?」


 フェルンはちょっとだけ複雑そうだったが、それでもいつもの表情に戻る。


「そうですね。それいいですね。ただ……ヤマギシさんの手前申し訳ないですが、魔王が生きていたとしたら、大変なことになりますよ」

「そのときは母親のこと聞いてからぶっ殺すから大丈夫」


 フェルンがふふっと笑う。

 

 そのとき、コンコンコンと扉が叩かれた。


 今いるのは、ベルディの騎士団庁舎の一室だ。

 扉を開き、現れたのはアルネとコーハイだ。

 でもなんか、アルネがムスッとする。


「……何でそんな近い」

「もしかしてお邪魔さんでした?」


 フェルンが、慌てて離れる。

 なんでだろ。


「え、いや、なんでも!? ねえ、ヤマギシさん!?」

「ちょっと頬に触れてただけだよ」


 なぜかフェルンにおしりを少し叩かれ、アルネが項垂れる。

 なんか悲しいことあったのかな?

 それより――。


「二人ともかっこいい服だな。でもなんで名前が違うの?」


 アルネたちはベルディ騎士の制服を着ていた。

 白を基調としたパリッとした襟付きで、かっこいい。トラバよりいいな。

 でも名札に違う名前が書いてある。

 コーハイもだ。ちなみに偽名らしい。本名は教えてもらえなかった。


「これが正装だ。そもそも私たちは秘匿部隊。裏と表の顔を使い分けてるんだ」

「ヤマギシさん、もっとせんぱいを褒めてあげてくださいよー。今日ずっと髪の毛をいじってお洒落にしてたんですよー。あと服とかもスカートの丈もちょっと短くして――いたっ!? なんでお尻叩くんですかあ!?」

「お前は一言多いんだよ……。――ヤマギシ、そしてフェルン、ランド騎士団長がお呼びだ」


 それから俺たちは、ランド騎士団長の部屋まで移動した。

 入る前に少しだけ緊張してしまう。

 焦がれる、焦がれない、みたいなことずっと叫ぶんだもんなあの人……。


 部屋に入ると、エリーナ、ボーリー、メガネクンがいた。

 ランド騎士団長は奥の椅子に座っていた。わざわざ立ち上がり、強面の表情を少し和ませる。


「昨日の今日で悪いな」

「大丈夫です。どうしたの?」

「――ヤマギシさん、言葉」

「どうしたんだい?」


 はあと溜息をつかれてしまう。

 間違えた。どうしたのですか、だった。


「まずは報告をしたくてな。トラバ軍は一時的に解体されることになった。それからトラバの第二皇子が国王に就任する。国民からの信頼も厚く、私も知っているが実にいい青年だ。これから虐殺蜘蛛(デスクリーチャー)のような出来事が起きることはないだろう」

「おお、良かったです」

「そうだな。しかし不穏な話もある。それは、この出来事の裏だ」

「裏、ですか?」

「おそらくだが、魔族が関与している」


 すると、その場の空気が少し変わった。


「魔族、ですか」


 フェルンが、ゆっくりと尋ねる。

 少しだけ、魔力が高まったのを感じた。


「勘違いはしないでほしい。私たちは決してヤマギシ殿を責めるつもりはない。ただ事実を述べただけだ。もう少し詳しく調べなければならないが、今回の禁忌魔法は魔族特有のもの。バルドラ国王だけで扱えるわけがないとの結論が出ている。もし何か知っていれば聞かせてもらえばと思ってな」

「あー、悪いけど俺は全然わからないよ。魔族だけど、何も知らねえから」


 それから俺は、フェルンに話したことを伝えた。

 ただ、魔王の息子ってところだけは言わなくていいと小声で言われた。

 人間と、魔族のハーフのことだけ伝えればいいと。


 フェルンはずっと警戒しているみたいだった。それに気づいたのか、エリーナが声を掛ける。


「フェルちゃん、安心してください。私たちはヤマギシさんを傷つけるつもりも、この事を誰かに話すこともありませんから」

「……はい」

「それに推しカプの抱き合いシーンは、私の中で感動ベスト1になりました。最高でしたよ。正直、今思い出しても悶絶してしまいそうです。――あぁっ、あのシーンが、また、みたい、見たい……」


 突然、エリーナが脚をがくがくさせて悶えだす。どうしたんだ……?

 そこで、ボーリーさんが声を上げた。


 あ、髪の毛三本になってる。ピロピロピロー。


「ちなみに二人とも、冒険者認定でA+になっとのことだ。オレはもうやめたが、元試験官として伝えておく。そして、ありがとう。髪も感謝している」


 へえ、信仰深い人なんだな。

 なんとなく、髪の毛が三本こっちを見ている気がした。


 そしてランド騎士団長が、食事会の続きをしようと誘ってくれた。

 フェルンのサンドイッチは明日の朝にお預けとなったが、楽しみがあるってのはいいな。


 廊下に出ると、ベルディの騎士がいっぱいいて案内してくれた。


「ヤマギシさん、もし魔族が関与していたら……ちょっと複雑ですね」

「そう? 悪いことしてるならぶっ殺せばいいんじゃない?」


 目をキョトンとさせるフェルン。猫みたいだな。


「ヤマギシさんらしいです」

「そうかな。――あ、そうやマンビキがいないな?」


 と、思っていたら後ろから声をかけてきた。


「さっきからいるよ。なんでわからないんだ」

「え、なんでその服着てるの?」

「勧誘されたんだ。ベルディで働かないかってな。給与もいいし、行くところもないし、二つ返事だ」

「えー、俺と一緒に視えない斬撃しまくろうよー」

「もうあんな危険な目はこりごりだ。勘弁してくれよ」

「残念だ……兵士になるってこと?」

「いや、まだ詳しくは聞かされてないんだが、アルネたちの部隊に所属してほしいって話だ。――ここだけの話だが、隊員のほとんどが女性らしい。そう危険な部隊でもないだろうし、楽しみだ」

「そうなんだ。いいなあ」

「だろ? 羨ましいだろ」


 ははっと笑うマンビキ。

 そういえばゲルマン中尉がなんか言ってなかったっけ。

 あいつらって、虐殺部隊(ジェノサイド)とかじゃなかったか? まあいいか。


「そいやマンビキが本名なの?」

「いや……ま、トラバの名前は捨てるよ。贖罪の意味も兼ねて、マンビキで生きていくよ」


 そういえば犯罪者なんだっけ。

 こんないいやつなのに何したんだろう。でもま、過去のことはいいか。


 そういえば俺もアルネに誘われてたけど、どうしようかな。

 でもここにずっといたら、フェルンの兄貴探せないしな。


 すると隣、フェルンが猫みたいに微笑んでいた。


「どうしたんだ、フェルン」

「いえ、落ち着いた時間を過ごせていることが、嬉しくて」

「また忙しくなるよ。フェルンの兄貴を探さないとな」

「……ありがとうございます。でも、ヤマギシさんのお母様もですよ」

「そうだな。でも会ったとしてなに話そうかな。そうだ、俺が今まで殺した人たちの話をしようかな。実は断末魔をメモしてるんだよね。上から順番にランキング形式で紹介するの、どう?」

「それは絶対に言わないでいいです。後そのメモ、後で焼却しますね」


 するとフェルンが真顔で言った。恐ろしく冷たい目だ。


「はい」

「はい」


 あ、イマジナリーフェルンにも睨まれた。

 次から気を付けよう。

 いかがでしたでしょうか。

 文字数は12万字に届かないくらい、ちょうど一巻分ぐらいです。

 何度かあとがきでもお伝えしている通り、映画を一本見たような読後感を味わっていただけているのならば、私の映画隙の情熱が読者様に届けられたなと思います。

 マンビキについては、思っていた以上に活躍してくれました。

 その後についてはお察しかもしれませんが、多分凄く大変な事になると思います。

 でもたぶん、マンビキならなんとかしてくれるでしょう。


 第二章は、忽然と消えた魔王や魔族、フェルンの兄、ヤマギシの母がメインになってくると思います。

 申し訳ありませんが、更新がいつになるのかわかりませんので、これにて一度完結にしておきます。


 良ければ評価、感想、レビューなどもらえると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ