第25話 お前は、誰だ?
ベルディを出国し、俺たちは森の中を突き進んでいた。
走りながら、フェルンが地図を確認してくれている。
「フェルン、この先で合ってるよね?」
「そうですね。ヤマギシさん、地図も見ていないのによく覚えてますね」
「この前行ったとこだし。木々とか枝の感じでなんとなく」
「前世はお猿さんだったとかですか?」
「ウッキィ!」
「うう……終わりだ……こんなほのぼのした二人を連れて行ったら……俺は……」
マンビキは俺がおんぶしている。なんか知らないけれどすげえ疲れてるみたいだ。
責任感が強そうな人。俺もちょっとは見習いたいな。
今から向かう村は、前に魔物がゴブリンが近くで住み着いて困っている、と塩漬け依頼を受けたところだ。
虐殺蜘蛛がまさかここまでくるとは驚いたな。
あいつら、砂漠のとこから動かなかったのに何でなんだろう?
「マンビキー、そろそろ自分で走る?」
「……そうしたいのはやまやまだが、二人とも早すぎて絶対置いてかれる……悪いがこのままで頼む」
「はーい。アルネともう一人が村を守ってるんだよね?」
「……ああ、すまんが俺は戦力にならん。魔力を使いすぎたせいで透明になれるのも後数十分くらいだ」
「マジか。視えない斬撃攻撃するのには心もとないな」
「ヤマギシさん、空気を」
「はい」
「はい」
そしてまたマンビキはため息をつく。幸せが逃げるぞ!
「そんな落ち込むなって、俺たちがいるじゃん。そういえば聞きたいんだけど、なんで軍は俺を探しにきたの?」
「……俺はマッスルってやつに引っ張られたから詳しく聞かされてないが、ヤマギシを連れてこいとの命令だった。悪いがそれ以上は知らない。つか、トラバ軍にいたんだろ? 心当たりはないのか?」
「うーん、前線で真面目に仕事してたら濡れ衣を着せられて、逃げて、フェルンと出会って、冒険者になって、襲撃犯を殺して、騎士の人たちと食事してただけなんだけどな」
「何がどうなったら脱走兵から敵国の騎士団長たちと会食することになるんだよ……」
「詳しく話すともう少し色々あるけど、合ってるよなあ、フェルン」
「嘘ではありませんが、事実を羅列すると信じられないのも無理はないですね」
マンビキは頭がいっぱいなので、また後で教えてほしいとのことだった。
そんな信じられないもんか、難しいな。対話ってのは。
しかし背中をトントンと叩かれた。
「ちょ、ちょっと止まってくれ」
「トイレは後のほうがいいんじゃない? その間に誰か死ぬかもだし」
「違う。頼む」
「はーい」
マンビキの言う通りに止まる。
地面に降り立ち、突然、砂に触れはじめた。遊びたいのかな。
「確かにサラサラだし触り心地も良さそうだけど、今じゃないんじゃない?」
「ヤマギシさん、冗談を言わない」
本気なんだけどな。
にしても、何してんだ……?
「さっきまで虐殺蜘蛛の足跡があったが、これは……なんだ」
よく見ると、何かが引きずられたような跡がある。
なにこれ。
「フェルン、何だと思う?」
「……わかりませんね。何か、大きな物体でしょうか?」
「そうか……これは巨剣だ。狂乱のバーサーカーが持っていたあれが、ここまできたんだ」
その言葉に、俺はフェルンと顔を見合わせた。
「え、今なんて?」
「巨剣だ。アルネがトラバから奪ったものだ。それが突然動き出し、虐殺蜘蛛を操っていたといっていた」
「……ヤマギシさん」
フェルンが、ずんずんと近づいてくる。
「ラッキーだなフェルン! いちいち戻る手間が省けたぜ!」
「省けたぜ! じゃないですよ!? ヤマギシさん前に言ってたじゃないですか、なんか呪いをまき散らすかもしれないけど大丈夫だって、全然大丈夫じゃなかったってことですよね!? そもそもそ虐殺蜘蛛を操るってなんですか!?」
「そ、それは俺に言われても……だ、だってえ、アルネが持てるとは思わなくて……あれ結構重いし……」
「ちょ、ちょっと、お前ら一体何の話してんだ!?」
「とにかく急ぎましょう。これで村が全滅したらヤマギシさんが極悪人として指名手配されますよ」
「マジかよ……マンビキ、背中に乗っ――」
「乗った。よくわかんねえけど、お前たちの言葉を咀嚼してる暇がなさそうだ……」
「おっけーじゃあ急ぐぜ」
でもなんで巨剣、村に向かったんだ?
うーん、よくわからないな。
とにかく大急ぎで向かうと、ついに森を抜けた。
その先、村も見つける。
しかし、そこで足を止めた。フェルンも気づいたらしい。
「ヤマギシさん、あれ……」
「おお、なんかの儀式みたいだな」
虐殺蜘蛛が村を囲っている。
30体くらいだろうか。凄い威圧の仕方だな。
巨剣とアルネたちの姿は……ないな。
っと、真面目に真面目に。
「フェルン、氷剣よろしく。外だし、あの連携は使えなさそうだな」
「はい。後ろから魔法で援護しますね」
「あいよ。よろしく」
「先に俺が“透明”でバレないようにする。ただ注意してほしいんだが、接触したり、されると強制で解除されるんだ。斬った瞬間、相手からは姿が見えると思ってくれ。けど、本当に……大丈夫なんだよな?」
「任せとけって。じゃ、視えない斬撃しようぜ! いひひ、楽しみ。マンビキ、しっかり掴んでおけよ!」
「お、おう……! 不安しかねえ……」
村はまだ襲われていないみたいだ。良かったー、俺のせいにされるとこだった。いや、俺のせいか?
深く考えるのはやめよう。
さあて、殺戮タイムだ。
ふっと浅い呼吸をして、駆ける。
身体が透明で覆われたのがわかった。ハッ、おもしろい。
フェルンは後方で待機している。俺が透明になってるので待ってくれてるのだろう。
さあ、ヤマギシ飛び出てジャジャジャジャーンだ!
一体目の虐殺蜘蛛に狙いを定め、真っ二つにしようと剣を振りかぶる。
「――さよならだ――ん?」
――と思っていたら、村の中で驚いたものを見つける。
さらに虐殺蜘蛛でも気づいたことがあった。
「……お、おいどうした“透明”中だぞ。なんで止まるんだ!?」
足を止め、虐殺蜘蛛のすぐ傍まで歩み寄る。
大きさは3メートルくらい。脚の先端に魔力が漲っている。
って、そうじゃない。こいつら敵意がないな。
ただ座ってるだけだ。
「マンビキ、透明化を解除してくれ」
「ど、どうすんだよ!? いい的になるぞ!?」
「いいから、大丈夫」
「……ああもう!」
透明が解除される瞬間、俺は右手を上げて声を上げた。
すると、その先で不協和音というか、何とも言えない声が聞こえる。
「ugiafjjawofwakfawko/////」
視線の先、村の中、地面に突き刺さっていた巨剣が禍々しい魔力をあふれ出しながら、俺に向かって――飛んできた。
「ちょ、お、おい!? な、なんじゃこりゃああ!?」
「大丈夫、大丈夫――」
そのまま突き刺され――そうになる瞬間、巨剣は縦になって抱き着いてきた。
「ごめんごめん。置いていったんじゃないんだよね。見つからなくてさ」
「faj9waoofjawfw!!!」
マンビキがすげえ引いている気がする。そこに、フェルンがやってきた。
「ヤマギシさん、どういうことですかこれ……」
「いやなんというか、可愛い犬みたいだろ?」
ちなみに外装はドロドロで返り血を浴びているみたいな感じで真っ赤だ。
後、どす黒い魔力も出てるか。
頭をこすりつけるかのように、ぐいぐい押し込んでくる。
「犬みたいではありますけど……生きてるんですか?」
「一応、そうじゃない?」
「ga9wwaithg////」
「ほら、喜んでるし」
「何が一体、どうなってんだよ……」
マンビキが頭を抱えてしゃがみ込む。なんか苦労人感あるな。
そのとき、見たこともない金髪の女性が近づいてきた。胸が大きい。
その隣には、ショートカットの青髪。この人は細身だな。
「マンビキ、無事だったか」
「アルネ! これは一体どういうことだ?」
「わからない。私たちが着いたときには、既に巨剣が村の真ん中に突き刺さってた。虐殺蜘蛛は沈黙して、動く様子もない。むしろ魔物から守ってくれたと村人が言っていた」
巨剣が俺の胸にぐいぐい、褒めて、褒めてといわんばかりだ。守ってたのか。
いっぱい撫でると少し落ち着いた。
あーそういうことか。
もしかして巨剣、俺の匂いを辿ってきたのか。
だからこの村にいたんだな。
「ヤマギシさん、とりあえず大丈夫そうですね」
「ああ、そうだな――」
その瞬間、アルネが剣を構えた。
「ヤマギシだと? ……お前が?」
「あ、そうそう。久しぶり、覚えてる? アルネだよね?」
しかしアルネはまったく表情を崩さなかった。
青髪も同じように警戒している。
それを見て、マンビキが慌てて声を上げた。
「お、おい!? 喧嘩はダメだぞ!? ヤマギシは色々あってトラバ軍を抜け、今はベルディで冒険者をしてるんだって! 俺の話を聞いて助けにきてくれたんだよ。ほら、巨剣もよくわからんが懐いてるし!?」
それでも、アルネは動かなかった。むしろ、魔力を漲らせる。
隣の青髪も同じだ。
「せんぱい、私も同じ意見です」
「……確かにその特級呪物が懐いてるのは間違いない。それでも、こいつは私の知ってるヤマギシじゃない。ましてや狂乱のバーサーカーでもな。魔力には色がある。それはどれだけ鍛えても、月日が経過しても変わらない。私たちは命を賭けて戦った。決して、間違えるわけがない。――お前は、誰だ?」
現在進行形の出来事。
*ヤマギシとフェルン、マンビキが村にたどり着く。
*巨剣が犬だった。
*アルネ、後輩が魔力を漲らせる。
*――お前は、誰だ?
*トラバが攻めてきている。
*ランド騎士団、エリーナ、ボーリー、デュアロスが交戦中?
これからも、ちょっと変なヤマギシとフェルンをよろしくお願いいたします。




