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第24話 走れマンビキ

 トラバ砂漠を抜けたアルネ、後輩、マンビキはついに国境を越えて、ベルディ森林を突っ切っていた。


「ここまできたらもうすぐだー。帰ったらお風呂入ってー、ネイルしてー、お菓子食べて―、美味しい飲み物飲んで―、爆睡だー」

「休みのはいいが、まず特級呪物(巨剣)のことの報告だ。それ次第では戻る可能性もあるぞ」

「わかってますよお、ほら願望は言葉にしたほうがいいって言うじゃないですかあ」

「……いつも前向きなのはお前のいいところだな」

「えへへ、めずらしく褒められた―」


 アルネと後輩が横並びで歩く中、一歩引いて追従しているのはマンビキだ。

 というか、二人が早すぎるだけだった。


「ねえーマンビキだいじょうぶー? 顔、死んでるよー」

「だ、大丈夫だ! いや大丈夫じゃないか……も」

「またおんぶするー?」


 それもそのはず、マンビキは数年牢獄生活を強いられていた。

 運動は狭い房の中だけで、歩くのなんて久しぶり。

 にもかかわらずここまでの運動量は常軌を逸している。

 さらにいえば、アルネと後輩の歩みは、Aランク冒険者ですら付いていくのが大変なほど速かった。

 それに気づいていたのは、アルネ。


「……少し休憩だ。ここを抜ければ能力(高速起動)を使い、一気に帰るぞ」

「やったー! ついに許可が出たー! マンビキ、ついにお家だよ! やったねー!」

「え、いやまあ……俺にとっては家じゃないけどな」

「あ、そうだった。心配しなくても大丈夫! 良くて牢獄、悪くて死刑、さらに悪くてトリニガ谷に置き去りってとこだろうし!」

「死刑よりヤバイトリニガ谷ってどこだよ」


 ははっ、と苦笑いを浮かべた後、さわやかな顔で空を見上げる。

 それを見たアルネが声を掛けた。


「その割にはやけにスッキリしてるじゃないか。怖いのか?」

「……そりゃ怖いよ。でも、俺は悪いことをした人間だ。後は神に任せる。いるのかどうかは知らねえけどな」

「心配するな。お前がベルディで罪に問われることはない」


 アルネの言葉に、後輩が微笑んだ。


「だってさー、よかったねえ」

「お前もわかってただろうが。意地悪を言うな」

「えー、だってマンビキ可愛いんですものお」


 それに対し、覚悟を決めていたマンビキは目をキョトンとさせた。


「本当に……俺は罪に問われないのか? 犯罪者なんだぞ」

「当たり前でしょー。そもそもトラバの法律とベルディは関係ないし、外に出た時点でこっちは拘束する義務もないよー。トラバ軍でもないなら、あなたはただの一般人。むしろ私たちを助けた上に、その能力(ギフテッド)なら引く手あまたじゃない?」

「……そうか、確かに関係ないか……いや、俺の能力(ギフテッド)なんて大したことないだろ」


 マンビキははっと笑いながら言うも、アルネが言葉を被せる。


「生きている上で必要かと言われると大したことはない。それこそ犯罪に使うか、冒険者になって魔物を倒すとかは別だがな。だが対人においては圧倒的な才能だ。それこそ、巨万の富を築けるほどの」

「……そうか。そうだと嬉しいな」

「ハッ、金が欲しかったのか」

「そうだ。俺は悪いことをした。罪を償いたいんだ。金さえあれば、恵まれない子供に菓子をいっぱい買ってやれるだろ。……俺の能力ならそれができるか」

「ねえあなたー、トラバで何したの?」


 そこで後輩が尋ねる。アルネは興味ないふりをしながら、聞き耳を立てた。

 耳がピクピク。けれども視線は反対方向に。


「自慢げに話すことはしたくない。それだけの罪を犯したからな」

「えー、そうなの?」


 アルネは、耳をぴくぴく。小声で「……余計に気になるだろ」と呟いた。


「でもさ、でもさー、後からどうせ聞かれるよー? なら、今言っても一緒じゃないー?」


 後輩の追従に、アルネは「いいぞ。よく言った」と呟いた。

 耳がさらにピクピクする。


「そうかな」

「そうだよー! ね、聞きたいなー」


 アルネの耳がピクピク。後輩が言っちゃえーと右手を上げた。

 マンビキが、そうかあと悩む。


「……聞いてくれるのか?」

「もちのろんろんだよー。なんでもきくよー」

「……………」


 マンビキは少し沈黙した後、ゆっくり口を開いた。


「……俺は、菓子を――」

「でも無理して言わなくてもいいからねえ」

「いいのか?」

「うんうん」


 マンビキが「じゃあ、やめて」と言ったところで、アルネは我慢ができなくなって立ち上がった。


「そこまで言ったら止めるな! マンビキ、何したんだ。言え」

「え、ど、どうしたんだいきなり!?」

「どうしたんだ、じゃないだろ。ここまで道中歩いてきて、水を得る知識やからトカゲやら、ほんで有能すぎる能力(ギフテッド)やら、それにそのなんだ優しい性格は? おかしいだろうが! なんでトラバで捕まってたのか気になるのは当たり前だろうが!」


 あまりの形相にマンビキは目をぱちくり。

 アルネは肩で息をしている。


「す、すいません!?」

「あはは、おもしろーい。せんぱいもやっぱり気になってたんだー」


 それからマンビキは覚悟を決め、母さんに菓子を……と口を開いた。

 しかしそのとき、断続的な何かの足音が聞こえる。


「――待て」


 アルネと後輩は顔を見合わせると、樹の上を駆け上がる。

 それから、音のする方向へ視線を向けた。


 そこで目を見開く。なぜなら虐殺蜘蛛(デスクリーチャー)が群れをなして走っていたからだ。


「……どういうことだ。なぜここまで来ている」

「なんでですかねえ。それにあれ……ベルディ村(・・・・・)の方向じゃないですかあ」

「……くそ」


 アルネは悩んだ後、後輩と共に下に降りる。

 訳の分からないマンビキがあわてふためく。


「ど、どうしたんだよ!?」

虐殺蜘蛛(デスクリーチャー)の存在を確認した。三十体ほどだ」

「お、俺たちを追ってきたってことか!?」

「いや違うだろう。もし追いかけてくるなら後ろから来ていたはずだ。……ベルディを狙ってるきているのか。でもなぜ村方向に……」

「食料ですかねえ、先輩。あそこには畑が沢山がありますから」

「何らかの魔法、能力で虐殺蜘蛛(デスクリーチャー)を使役し、高速移動させているとしたら凄まじい運動量だ。攻め入る前に……補給をする可能性は考えられるな」

「どうしますか。急いでベルディに戻って騎士団長に報告します?」


 少しの時間悩んだ後、アルネはマンビキに顔を向けた。


「マンビキ、お前に頼みがある」

「何だ? よくわからないが、何でも言ってくれ」

「ベルディ国に入り、南へ向かうと騎士団庁舎がある。そこにランド騎士団長という人物がいる。無骨で厳格な白髪交じりの男だ。決して笑わなそうな顔だからすぐわかるだろう。彼に「虐殺蜘蛛(デスクリーチャー)が来ている。私たちは村を守る」と伝えてくれ。アルネからといえばいい」

「せんぱい、さすがにそれは信じてもらえなかったら――」

「わかってる。――マンビキ、お前が信用される可能性は限りなく少ない。もしかしたら投獄される可能性もあるし、下手すれば……殺される。でも、お前だけが頼りなん――」

「わかった。ランド騎士団長だな。任せてくれ」


 するとマンビキはすぐに頷いた。

 アルネと後輩がほんの少しだけ笑みを浮かべる。


「頼んだぞ。――よし、行くぞ。村へ先回りする」

「はーい。――マンビキ、あんたいいやつだから死なないでね。やばかったら透明で逃げてね」


 マンビキが駆けようとすると、二人が魔法を付与した。


「ちょっとだけ足早くなれるよ。ごめんね、魔力あんま使えないから」

「……頼んだぞ、マンビキ」


 それから二人は村の方向へ走った。


 残されたマンビキは深呼吸したあと、ベルディに向かって走った。

 

 森を抜け、魔物と出くわしたときには透明になった。


 虐殺蜘蛛(デスクリーチャー)の強さは、トラバに住んでいたものならば誰でも知っている。

 それが群れで。あの二人なら逃げることはできるが、村人を守るとなると話が変わってくるはず。

 急がないと、急がないと。


「……はあはああ……くそお」


 心臓が破れそうなほどマンビキは走った。

 犬を蹴とばさず、小川を飛び越え、まだ沈まない太陽の、十倍も早く走った。


 ついにベルディ国が見えたマンビキは迷わず突き進み、透明化で入国すると、ただひたすらに南へ向かった。

 騎士団庁舎を見つけて中に入ると、幸運なことにランド騎士団長様への食事の提供という声が聞こえた。


 向かった先で扉を開けると、そこにいたのは恐ろしいほどの威圧感だった。

 そのとき、マンビキは気づく。


 透明を解除すると、自分はボロボロだ。

 さらに囚人用のズボンを履いている。

 道中で代わりのものを用意してもらえる予定だったが、その前に襲撃されたからだ。


 戦闘能力はないに等しい。下手すれば一撃で殺される。


 しかしそれでもマンビキは――透明を解除した。


「――頼む、アルネたちを助けてくれ!」


 説明をする前に、まずは端的に伝えようとした。

 直後、もの凄く力を持つ男――ヤマギシに胸ぐらをつかまれる。


「なに、俺を追ってきたの?」

「な、何の話だ。違う――」


 言葉を返そうとするも、ランド騎士団長が声を上げた。


「貴様今、アルネと言ったな。――何処でその名を知った? 返答によっては一撃で首をはね落とすぞ」


 とてつもない威圧感を持つだしていることが、マンビキにもわかった。

 ランド騎士団長が静かに剣を取り出す。


 その横では、桃色の髪の女性、エリーナがレイピアを取り出し、その横のメガネクン、デュアロスがメガネをクイっとした。

 ボーリーも腰の剣に手を触れる。


 マンビキは適切な言葉を持ち合わせていなかった。それでも、必死にに叫ぶ。


「俺はどうなってもいい。けど、アルネたちを助けてくれ!」


 言い訳もせず、ただ心を込めた。

 それに対し、ランド騎士団長が静かに近づいてくる。


「――助けろとは、どこにだ」

「……ベルディ村が虐殺蜘蛛(デスクリーチャー)に狙われてるんだ。二人は、それを助けに……」

「……ふん」


 ランド騎士団長は鋭い魔力を漲らせる。

 そして――。


「貴様が何者かは知らんが、嘘はついてない声をしているな」

「あ、ああ! だ、だったらいますぐ――」

「だがすぐに騎士を向かわせることはできない。それこそ愚の骨頂だ。まずは斥候を送り、話を詳しく聞かせてもらおう」

「そ、それじゃあ間に合わない――」


 マンビキが再度説得を試みようとすると、騎士が扉を強く開けた。


「伝令伝令! 前線に送っていた騎士から連絡があり、トラバ国の軍がこちらへ足を運んでいるみたいです。その数、数万!」

「何だと? ――エリーナ、デュアロス、ボーリー、今いる騎士を編成しすぐに出発するぞ」

「「「ハッ」」」

 

 その後、ランド騎士団長はすぐにマンビキに顔を戻した。

 騎士の人数を減らすための罠だったのかと疑ったからだ。

 しかし、どこにもその姿はない。


 マンビキは消えていた。ランド騎士団長が周りを見渡す。

 そこに、エリーナが近づいた。


「村へ向かわなくてもよいのでしょうか。真実であれば、アルネさんたちが大変なことに」

「……死を覚悟した部隊だ。命を憂う必要などない。村については手練れの騎士候補生を向かわせる。いいかエリーナ、物事には順序がある。いずれは私を継ぐのだ。それ忘れるな」

「……承知しました」

「それに村が襲われていたとしても問題ない」

「……どういう意味ですか?」

「“最強”が手助けにいったみたいだ」


 



 騎士団庁舎から離れた場所、ヤマギシはマンビキをかかえて、フェルンと走っていた。


「すげえ、俺も透明になれるんだ。かっけえ……欲しい、この能力欲しい、フェルン、欲しい。お願い」

「おもちゃを欲しがる子供みたいに言わないでください。それより、なんで私たちも一緒に逃げるんですか」

「だってあのままだとこの人拘束されてたかもしれないし。ランド騎士団長も信用はしてたみたいだけど、あの報告を受けたら騎士は動かせないでしょ。だったら動ける俺たちで村を助けにいったほうがよくない?」

「……ヤマギシさんってたまに頭の回転すごくはやいですよね……」

「そう? それにアルネってやつ、多分ちょっとした知り合いなんだよね。もしかしたら、俺たちの就職先見つかるかも。嫁も」

「え? ど、どういうことですか? 嫁!?」


 フェルンが続けて質問しようとしたとき、マンビキは頭を抱えていた。


「ああ……アルネが……村が……は、はやく引き返してくれ」

「え? だから、一緒に助けに行こうよ」

「……村を襲おうとしていたのは虐殺蜘蛛(デスクリーチャー)の群れだ。騎士が……何百人も必要なんだ」

「さっきトラバが攻めてきたっていってたし、そんな人数割けないんじゃない?」

「だとしても、連れてきたのが二人だなんて……ああ……俺は、せっかく信用してもらったのに……」

「大丈夫ですよ。この人なら多分、ドラゴン十体いても勝てる気がしますから」


 フェルンの慰めに、マンビキは更に頭を抱えた。


「終わった……終わりだ……すまねえ……俺の責任だ……アルネ……」

「ねえねえ、一緒に視えない斬撃! みたいな攻撃しない? どう? 俺が抱えておくからさ」

「……終わりだ……もう終わりだ……」

「ねえねえ、しようよ」

「空気読んであげてください。絶対今言うことじゃないですから」


 現在進行形の出来事。


 *ヤマギシとフェルン、多分お洒落な恰好で向かってる。

 *マンビキ、頑張った頑張った。

 *トラバが攻めてきている。


 *アルネ、後輩、村がピンチ?


 これからも、ちょっと変なヤマギシとフェルンをよろしくお願いいたします。

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