第23話 敵か、味方か、透明化。
騎士団庁舎の特別室で食事会が始まると、美味しい食べ物を次々に用意してくれた。
宿泊は王城の客室の一室を貸してくれるらしいし、まさに至れり尽くせりだ。
横のフェルンも満足気だ。一つ何かを口にするたびに猫みたいに頬が緩んでいく。
それにホワイトドレスが良く似合っている。俺もなんか色々お洒落にしますねと言われたけど、これ何か変わってんのか?
髪上げるだけでよく見えるのかな。
俺は知らないことばっかりだ。でも、隣にフェルンがいてくれるおかげで失敗せずにすんでいる。
これからもこんな幸せが続くといいな。
「フェルン、この肉うまいぜ」
「ありがとうございます。――ヤマギシさん、お口にソース付いてますよ」
フェルンはそっと顔を近づけると、ナプキンで俺の口元を拭いてくれた。
よく気が付くし、ほんと優しいよな。
あれ? そいや嫁って、フェルンみたいな子だったらずっとうまくやっていけるんじゃね?
なんかお母さんっぽいとこあるしな。
まあでも、俺なんかじゃ無理か。
「ヤマギシさん、さっきから聞かれてますよ」
「ん?」
骨付き肉にむしゃぶりついていると、フェルンが指で足をツンツンとしてきた。
ふと前を向く。ランド騎士団長が俺を見ていた。相変わらずかっこいいおぢ。
でもこの人、口を開けば「焦がりたい! 焦がらせてもらえないか!」とかいうから返答に困るんだよな。
「ヤマギシ殿、聞かせてくれ。どうやってその強さを手に入れた?」
「……俺って強いんですか?」
その場がなぜかシーンとなる。
あれ、やっぱ弱いから!?
そこでエリーナがナプキンをフキフキしてから、こっちを見る。
「強い、なんてものではないです。自慢ではないですが、私の縮地を軽々しく回避するなんて人間技じゃないです。私も知りたいです。ヤマギシさんは、どうやってそこまでの域に達することができたのでしょうか? ランド騎士団長と同じく、ただただ純粋な気持ちなので教えて頂けると幸いです。もちろん、推しとしても尊敬しています」
最後はよくわからなかったが、強いかどうかなんて考えたこともない。
いつもならフェルンの助け舟が来るが、なぜか来ない。
チラりと隣を見る。
フェルンが純粋そうな目で俺を見つめていた。どうやらも俺の返答を待っているみたいだ。
でも別に答えようがないんだよな。
俺は、ただ無我夢中で――。
――ドンッッッッ。
そのとき、突如扉が開いた。
その場にいた全員が、扉に視線を向ける。
周りの騎士候補生たちがどこからともなく剣を取り出し、魔力を漲らせた。
扉の近くにいた人たちは目を見開き、あたりをきょろきょろしている。
なぜなら扉が開いたにもかかわらず、誰もいなかったからだ。
「風か?」
「の、ようですね?」
「扉、閉めますね!」
ランド騎士団長が声をあげ、エリーナ、メガネクン(名前忘れた)が続く。
しかしそこでボーリーが立ち上がり、携えていた剣に手を触れた。
「デュアロス、動くな。――風ではないと“言っている”」
誰が!?
と思ったけど、俺も“わかっていた”から反応はしなかった。
周りは困惑している。でも、警戒もしている。
「フェルン、氷剣――」
「はい」
椅子から立ち上がり、声を掛けるとすぐ手元に冷気が漂う。
ほんと、何でもわかってくれるな。
この場所で剣なんて出現させて何もなかったら大変なことになると、彼女ならわかっただろう。
でも、俺を信頼してくれている。
それとフェルンと出会ってからようやく気付いたけど、やっぱり俺の目は特別なんだろうな。
誰も視えていないらしい。
扉が開いたのは風が原因じゃない。
“人間”が、扉を開けて中に入ってきたのだ。
しっかり姿が見えるわけじゃないが、魔力の流れでなんとなくわかる。
少し痩せた男かな。
女性はもっとこう、綺麗に流れてることが多いんだよな。
「ヤマギシ、何を――」
ランド騎士団長が声をかけてきたが、俺は無視をして扉に近づく。
なぜか突っ立っている。バレていないと思っているのか、バレないと高を括っているのか。
――殺すかァ。こいつも、エリーナを殺そうとしたやつの仲間かな。
でもすげえな。俺もこんな能力がほしい。
――“透明”になれるなんて、最高だよな。
俺は突然瞬時に駆け、男の心臓を狙った。
ほかにどんな力があるのかわからない。一撃で殺す。
しかしそいつは逃げることなく直前で透明を解除した。
「――ま、まて殺さないでくれ!」
……え?
現れた男は――なぜか、上半身が半裸だった。
何してんだこいつ。それにやけにボロボロだな。髪も艶がないし、なんか前線にいた俺を思い出す。
周りの騎士候補生が剣を男に向け、後ろからも魔力が膨れ上がる。
でもよく考えるとエリーナを殺すのにわざわざ騎士庁舎まで来るのはリスクが高い。
そもそも、透明になれる能力があるなら家に襲撃にきていないのもよくわからないな。
そのとき、気づく。ズボンに描かれたマーク、双剣が重なっている。
これは、トラバ国の模様だ。
「た、たす――」
俺はふたたび距離を詰めると、男を壁まで押し寄せた。
追っ手か? いや、男は俺の顔を知らないみたいだ。
そもそも俺もすぐに前線に送られたのでほとんどのやつを知らない。
小声で尋ねる。
「お前、誰? 俺を追いかけてきたの?」
「お、俺はマンビキで――いやそんなことはどうでもいい! ――頼む、アルネたちを助けてくれ!」
すると男は、必死に叫んだ。
……アルネ。アルネ……? 誰だ?
『……ねえ、うちの部隊に入らない? 金は言い値で払う。最高の家も、環境も用意する。……欲しければ嫁も』
……あ。あいつか。
でもアルネはベルディ側の人間だった。
じゃあ男、一体何者だ?
……マンビキ?
現在進行形の出来事。
*ヤマギシオールバック、フェルン髪上げホワイトドレス。
*ヤマギシの強さの秘密がわかりそうでわからなかった。
*ボーリーが覚醒しすぎ
*マンビキが、現れた。
*アルネ、後輩がピンチ?




