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第17話 百☆合☆騎☆士☆爆☆誕☆

 エリーナの家が豪華絢爛で驚いた。

 高そうな絵画、高そうなソファ、高そうなピアノまで置いてある。すげえお洒落。

 後なんかすごくいい匂いがする。こうふわっと香る。

 なんかベッドまで誘われそうな感じだ。


 せっかくなので、ふわふわフェルンをいい匂いのするソファに寝かせる。


「ふぇえ、ここどこれすかあ」

「エリーナの家だよ。フェルン、水持ってくるから座ってて」

「ふぁあい」


 猫みたいな笑みを浮かべている。

 何考えてんだろ。幸せそうでいいな。


 そしてそれを見ているエリーナ。

 何考えてんだろ。幸せそうでいいな。


「エリーナ、よだれ」

「ひゃい!? あ、ご、ごめんなさい」

「水もらっていいかな?」

「す、すぐ持ってきます!」


 口が柔らかいのだろうか。それとも意外に酔ってるのかな。

 待っている間、暇なのでフェルンの耳を触る。

 いつもより少しあったかい。


「ふゃふにゃあ」

「何だ、気持ちいいのか」


 ぷにぷに。

 ほんとおもしろいなあ。

 すると、スッと横から水が手渡された。

 フェルンに飲ませると舌を出し、ペロペロ飲み始める。

 はっ、やっぱ猫じゃん。


「美味しそうですねえ」

「水が?」

「え? あ、はい。そうですね」


 自分のところの水じゃないのか?

 よくわからないこと言うときがあるなあ。


「あ、そいやエリーナ、一つ聞いていい?」

「はい、なんでしょうか?」


 フェルンが寝息を立て始める。

 起こすのも悪いな。そもそも聞かれないほうもいいか。

 少し離れた場所に移動して、再度尋ねる。


「フェルンがさ、ハーフエルフは迫害されてるっていってたんだけど、ベルディでは誰も気にしてなさそうなんだ。なんか理由あるの?」


 するとエリーナがちょっとだけ悲し気な顔をした。

 どうしたんだろうか。


「ヤマギシさんから見て、ベルディは平和に見えますか?」

「? そう思うよ。みんな笑顔だし」

「……良かったです。そう見えるようになったんですね」

「どゆこと?」


 エリーナの口からヨダレは垂れていない。すげえ真面目な顔だ。

 それから、覚悟を決めたかのようにゆっくり口を開いた。


「みんな、ヤマギシさんみたいな人ばかりなら嬉しかったんですけどね」

「え?」


 エリーナは机の上にあった写真を持ってきた。そこには、小さな女の子――エリーナが映っている。

 後は両親だろうか。強そうな父と優しそうな母。


 ……ん、お父さんもしかして獣耳?


「私は耳が小さいので普段見えませんが、フェルンちゃんと同じなんです」


 桃色の髪をかき上げると獣耳が姿を現した。片方は人間の耳だ。

 ……驚いた。フェルンと同じだったのか。

 エリーナは、続ける。


「ベルディはまだ戦争中です。外はもちろん、中でもです。世界的に混血はまだ受け入れがたいとされています。しかし私を含めた多くの方が常識を変えようと奮闘しました。その奇跡の途中が今のベルディです。とはいえ、まだまだ平和とは程遠いです。純血を守ろうという過激組織もいますから」


 追いはぎ軍団はハーフエルフをバカにしていた。そういう人がまだこの国にもいるってことか。


「変なやつらだよな。フェルンも、エリーナの耳も可愛いのに」

「……ふふ、そう言っていただけることがどれだけ嬉しいのか。だからフェルンちゃんは、ヤマギシさんを信頼しているのでしょうね」

「どうだろ。信頼してるのかな」

「していますよ。ハーフの私たちは色々な過去を持っている人が多いです。初めて会ったとき、お二人はとても仲がよさそうでした。飲みに誘ったのは、外から来た人たちでも分け隔てない人がいるんだと、本当に嬉しかったからです。後、フェルンちゃんが好みだったのもありますが」


 好みとはなんだろうか。よくわからないことはスルーしておこう。

 思えばトラバは人間ばかりだったな。流れ者のことを嫌っていたし。


「色々大変だったんだな」

「いえ、まだこれからです。だからこそすべて壊そうとするトラバ軍が許せないんです。ヤマギシさんが知っているのかはわかりませんが、彼らは魔物と人間を違法に合成する魔法を開発しようともしているんです。そんな非人道的な行為は許されません。だからこそ、トラバ軍を壊滅に追いやりたいのです」


 知らなかった。悪いやつに加担しないように、これからもっと勉強していかないとな。

 にしてもエリーナの獣耳も触ったら気持ちよさそう。

 ぷにぷにしたい。


「願わくば、フェルンちゃんには今後も幸せに過ごしてほしいです」


 優しく微笑みながら、エリーナはフェルンに近づいて頭を撫でる。

 

 一人ではわからなかったことが分かっていく。

 これもすべてフェルンのおかげだ。


 俺も、彼女に助けられている。


「……ヤマギシさあん。それはやりしゅぎでえすよお……」


 そのときフェルンが寝言を言った。また俺がダメなことをしているらしい。

 それを聞いたエリーナがくすくすと笑いだす。


「どうやら私の入る余地はなさそうです。美味しいお酒を飲んだ後、朝起きてから素面の状態で交渉するのが私のやり方ですが、今回は諦めます」

 

 何の話だろう。エリーナってちょいちょいよくわからないこというな。

 とりあえず合わせておくか。


「そうしてくれると助かるよ」

「はい。ヤマギシさんは狙ってもいいんですか?」

「狙う? 俺の動き結構速いけど」

「あはは、だったら当てられませんね。それじゃあ、お邪魔百合はお風呂に入ってきますね」

「ああ、いってらっしゃい」


 お邪魔百合?


 エリーナは満足そうに消えていく。

 一緒に入ります? と言われたが、フェルンも入りたいだろうし抜け駆けはよくないのでやめておくと伝えた。


「すぐ上がりますね」

「ありがとう。でもやることがあるから、ゆっくりでいいよ」

「? はい、わかりました」


 それから俺はフェルンの隣に座って、ポケットから小さな手帳を取り出した。

 そこに今日の出来事を書いていく。



 それからほどなくして、フェルンが目を覚ました。


「……んっ、ここ、どこですか……」

「おはよ。エリーナの家だ。まだ寝てていいよ」

「大丈夫です……もう眠たくないので……」

「そっか。もう酔い覚めたの?」

「はい。魔法で分解できるようにあらかじめ付与しておきました……でも、つい楽しくて……あれヤマギシさん、何を書いているのですか?」


 見ていいですか? と言われたので、いいよと伝えた。

 それを見た後、ふふふと笑う。


「もしかして毎日書いてたんですか?」

「そうだよ。できるだけ忘れないうちにね」


 フェルンと出会ってから、わからないことがわかっていく。

 それは大事なことだ。だから、書いている。


 人はできるだけ苦しめない。悪い奴しか殺さない。人前で殺したいとか言わない。

 血が綺麗だなとかできるだけ言わない。ゴブリンの耳はネックレスにしない、鼻は多分オッケー。


 フェルンの寝顔をずっと見ていたくなるのは、なんでだろう――と。


 そのとき、フェルンが俺の方に頭を預けてきた。

 なんだ、まだ酔ってるじゃん。


「ヤマギシさんって、無自覚にカッコイイとこありますよね」

「それ、どういう意味?」

「何でもないです。……書くところ見てていいですか」

「いいけど、別におもしろくないよ」

「いいえ、おもしろいです。それに嬉しいです。私が、ここにいてもいいんだなと思えます」

「当たり前だろ? フェルンがいないと俺はやだよ」

「……私もです」

 

 そんのとき、後ろでエリーナの足音がした。

 風呂から上がったのかな。なんか、泣いてるような……気のせいか。


「……尊すぎる……うう、あわよくばフェルちゃんの初物を頂こうとしていた自分が恥ずかしい、なんて恥ずかしいの……ダメ、ダメダメ。手は出さない。絶対に手は出さない。……ちゅき。だいちゅき。ふたりだいちゅき……でも、ちょっとだけサンドイッチもされたい……あーちゅき。ちゅきぃ……尊いぃ……ふたりまもるぅ……」


 ――――

 ――

 ―


 同時刻。

 エリーナ家、裏口。

 黒装束を着こんだ男たちが、声を抑えながら身をかがめていた。


「いいか、狙いはエリーナ副団長だ。奴を血祭りにあげ、ふたたび純血組織の狼煙をあげる。計画に三年もかけてきた。失敗は許されんぞ」

「「「ハッ」」」

「しかし隊長、予定になかった二人はどうされますか」

「酔いつぶれたガキと細い男だ。有無を言わさず殺せ。むしろ本気度も伝わる。好都合だ」

「「「了解」」」

現在進行形の出来事。


 *エリーナの家はいい匂いがする。

 *ヤマギシとフェルンがめちゃくちゃ尊い雰囲気を出す。

 *百合が二人を守る百合騎士に進化した。


 *アルネ、後輩、マンビキがベルディに向かっている。

 *ベドウィンの行方は不明。

 

 扉絵的な同時進行。


 *方向音痴のボーリーが道に迷わなくなった。


 髪(――左だ。右は行くな)


「……左のほうがいい気がするな」

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