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第13話 “極”悪党+1 集結

「……呪われている、ってどういうことですか?」


 早朝。窓から漏れ出た太陽の日差しを浴びながら、フェルンが今までで見たことないほど眉をひそめていた。

 おもしろい表情してるねっていったら怒られそう。


「そのまんまだよ。――んっ、このサンドイッチ美味いな。どこで買ってきたの?」

「え? ええと、早起きして作ったんです。この宿、お値段が安いのに凄く綺麗なキッチンがあったんです。出来合いのものよりも体にいいので、近くで市場で卵とベーコンとパンを買ってきて炒めて作りました。といっても、挟んだだけですけどね」

「いや、すげえ美味い。これ、毎日食べたい。いや、毎食がいい!」

「それは無理ですね。でも、そういって頂けて嬉しいです」


 クスッと笑うと耳が動く。

 昨日は、フェルンが疲れてたこともあって宿を取ってすぐに寝た。

 大部屋よりも個室のほうが高かったけれど、フェルンが安心して眠れるだろうなと個室を取ったら嬉しそうだった。

 俺は人の気持ちがわからない。けれど、ちょっとずつ理解はできるようになってきたかも。


 で、起きたらサンドイッチを用意してくれていた。冷たくて新鮮な水も一緒に。

 フェルンってほんと優しいな。気も利くし、猫みたいだし。

 ただ今ちょっとドン引きされているけれど。


「それより、さっきの続きを聞かせてもらえませんか? 巨剣(・・)が呪われてるって、どういうことなんですか?」

「んー、話すと長いんだけど、あるじゃん。そういう物って」

「それって、呪具とかですか? 武器とか防具とかで聞いたことありますけど」

「多分それに近いのかな。俺が近くにいると何も起きないんだけど、離れると危ないかも。溢れるって感じ。呪いが」

「……呪いが溢れると、どうなるんですか?」


 美味しいサンドイッチを頬張りながら巨剣(相棒)のことを思い浮かべる。


「まず手あたり次第に周りを腐食させる。木とか草が枯れちゃうみたいな」

「……枯れちゃう……」

「魔力に人間が触れると凄まじい痛みを感じる。強かったら耐えられるけど、全身が針で突きさされるみたいな。魔物が触れると興奮状態に陥って、見境なく目に映ったものを殺すようになる」

「………」

「まあでも大丈夫じゃないかな。俺と離れたら途端に重くなる性質もあるから、多分誰も動かせないと思う。ゆっくり寝ててくれてたら数か月くらいは大丈夫だよ」

「え、ええと、ヤマギシさんは何でそんな特級呪物を持ち歩いてたんですか?」

「んー持ち歩いていたっていうか、あいつと俺は兄弟みたいなもんだから、小さいときから一緒だった」

「……きょ、兄弟……」

「でもめっちゃ強いよ。振れば大体の奴は当たっただけで死ぬし、魔法防御も貫通するからね。後は人間の心臓を食べさせると成長するんだよね。剣がどくどくって脈打つようになって、魔力も増えるし。それと戦いの最中にも成長していくんだけどそれが格好よく――」


 俺が興奮気味に話していたら、フェルンの顔が青ざめていた。

 あ、これ怖がってるやつだ。

 すげえ、俺、成長してる! フェルンの気持ちがわかる!


「まあ、そんな感じだな! 色々言ったけど、ただの大きな剣だよ!」

「さすがにもう遅いです」


「はい」

「はい」


 やっぱり気持ちを理解するのは難しい。

 話題を変えよう。


「そういえばフェルンのやりたいこと教えてほしいな」

「やりたいこと? 私のですか?」

「そ。せっかく冒険者になったんだし、お互いのやりたいことを叶えていこうと思って」

「やりたいことですか……考えたこともなかったです。今まで、生きるのに必死だったので……」


 確かに生きるのは大変だ。食べるためには稼がなきゃいけないしな。

 人から金を奪えばいいけど、そう都合よく歩いてないしな。

 うん、多分これは言葉にしちゃダメなやつ。


「質問で返すのは悪いと思うんですが、ヤマギシさんは?」

「俺? んー、美味しいもの食べたいかな。気持ちいいベットで眠れたら嬉しい。戦うのは好きだから戦いたい。後、お嫁さんが欲しいかな」


 それを伝えると、フェルンはなぜか目を真ん丸とさせていた。

 え、なに!? マズいこといった!?


 突然、笑い始める。


「お嫁さんって、なんか意外ですね」

「そう? 結婚って幸せだっていうじゃん? まあ、よくわかんないけど」

「……確かに、私もよくわかりません。でも、ヤマギシさんと出会ってから楽しいですよ。美味しいものも昨日食べられましたし」

「確かに! 今日も食べたしな! じゃあ俺たちの目標は、美味しいものを食べて、気持ちのいい宿に泊まるってことで、稼ぐの頑張ろうぜ」

「はい! あ、一つだけありました」

「お、なになに?」

「いろんな世界が見たいです。私はずっと森の中でビクビク過ごしていました。でも、ヤマギシさんに檻から出してもらって、この国に来て、刺激的でワクワクしてるんです」

「おお、いいな! じゃあ冒険者の依頼もこなしつつ、国や街も見て行こうぜ!」


 言う前にフェルンが笑みを浮かべるのがわかった。

 ああいいな。相手が嬉しいと思う感情は、理解できるようになっているみたいだ。


「賛成です!」

「よっしゃあ、行くぜフェルン!」

「はい、ヤマギシさん!」


 そうしてウキウキで俺たちは宿を出た。

 直後、言葉を失ってしまう。


「めちゃくちゃ雨降ってる」

「ですね……」


 鬼の大雨。外は誰も歩いていない。空で誰が大泣きしているみたいだ。

 いいや、負けねえ!


「いや……逆だ。この大雨だと冒険者が少ないはず。つまり、美味しい依頼が残ってるはずだ」

「なるほど、さすがヤマギシさん!」

「物事は良い方向は考えたほうがいいって言うしな」

「素晴らしいと思います!」


   ◇


 トラバ国、地下通路――最下層。

 この牢獄には、ありとあらゆる法を犯した極悪人が収容されている。


 強盗、強姦、殺人、万引き、詐欺、違法密輸、貴族誘拐、etc。

 軍を総括していたベドウィン団長は苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべながら歩いていた。

 後ろにトラバの兵士がついてきている。


「……ったく、臭いなここは」


 地面は水浸しになっており、空調設備もないため、鼻がもげるような住環境になっている。

 ベドウィンは心の中で溜息を吐く。


 精鋭部隊を招集しようと思っていものの、前線に送っていた奴らが誰一人として帰ってこなかった。

 さらになぜか虐殺蜘蛛(デスクリーチャー)が活発化し始めている。

 人員不足にもかかわらずバルドラ国王は早くヤマギシを連れてこいと駄々をこねる。


 クソ、クソ、クソっクソ、これもすべてヤマギシがスパイをしていたせいだ、と心の中で罵った。

 痛めつけ、拷問にかけてやると誓う。


「ベドウィン団長……やっぱり引き返しましょう」

「わ、私も賛成です。犯罪者を部隊に加えるなど、いくら人員不足でもさすがに……」

「黙れ。もう決定したことだ。それに安心しろ。爆破魔法を付与するから我々に手だしはできん」

「し、しかし――」


「次に口答えをしたら、貴様の家はここになるぞ」


 ベドウィンは兵士の足を踏みながら強制的に黙らせた。

 それから最奥の鉄扉の前で足を止める。


 そのとき、左右の檻から叫び声が聞こえた。


「た、助けてくれええ。もう誘拐はしねえからよおお」

「オレもだ。もういやだ。誰も殺さねえから許してくれ。ここはいやだああ」

「た、助けてくれ。俺はただ菓子万引きしただけなんだ。ほ、他に悪いことはしてねえ!」


 しかしベドウィンは耳を傾けず、前の鉄扉を開けろと兵士に指示をした。

 怯えながら、兵士たちが扉を開ける。


 中に入ると、鎖に繋がれた2メートル以上もある大男が座っていた。

 筋肉がパンパン盛り上がっている。なお、髪はない。


「……へっ、めずらしいな。団長様がこんなごみ溜めになんのようだ? それともまた死刑執行か?」

「マッスル、外に出たいか?」

「……あ?」

「我々の言う事を聞くという条件ならば、外出を許可する」

「ハッ、なんだ。オレ様に何をさせるつもりだ。」

「――殺人と誘拐だ。得意だろう?」


 ――マッスル・タンパク。


 強盗、強姦、殺人、詐欺、違法密輸、貴族誘拐、すべての罪を犯したトラバ一の大罪人である。

 死刑になっていないのは、筋肉が関係していた。

 トラバでは歴史上、ギロチンで首をはねるのだが、マッスルは何度も筋肉で跳ね返しているのだ。

 死刑執行には書類上の手続きが必要なため、失敗のたびに長期間放置されている



「殺人と誘拐なんざ、オレ様にとっちゃ子供が飴を舐めるようなものだ」

「そうか。おい、マッスルの鎖を外せ」

「……そ、それは」

「外せ」


 兵士の二人がおびえながらマッスルに近づく。

 そして、鎖を外した。


「ハッ、ありがとよ。――お礼に殺してやるぜ!!!」


 次の瞬間、マッスルは両腕の筋肉を肥大させると、二人の兵士の頭を掴んで持ち上げた。

 後ほんの少し力を入れるだけで粉砕できる、というところでベドウィンが声を掛ける。


「マッスル、お前には爆破魔法が付与されている。その意味はわかってるな?」

「ハッ、知ってるさ。でも、お前たちは殺せるだろ?」


 メキメキと頭蓋骨が割れる音がする。

 兵士が痛みで叫んだ。


「これからお前は私の指揮下の元で働け。その代り恩赦を与える。新鮮な空気が吸えるぞ。快適な住居も、女もやろう」


 それを聞いたマッスルの表情が切り替わる。


「随分と好待遇じゃねえか。なんだ、誰を殺して、誰を誘拐してほしい?」

「ただの二等兵だ。ただの脱走兵だがとある情報を持っている。それを邪魔するやつは、全員ころしてもいい」

「ハッハー!!!! 最高じゃねえか。でも、そいつを誘拐してお役御免にはならねえよなあ?」

「いいことを教えてやる。軍の命令で人を殺せば英雄になれるんだ。この作戦が成功すれば、お前は我々にとって必要不可欠な存在になる」


 それを伝えると、マッスルが微笑んだ。


「ハッ、いいだろう。乗ったぜ」

「そうか、なら先に褒美をやろう」

「褒美だ?」


 そういうと、ベドウィンは笑みを浮かべた。

 そして兵士たちに敬礼する。


「諸君らがトラバに尽くしてくれたことを誇りに思う」


「……な、なにが!? た、助けてください団長!?」

「ひ、ひぃ!?」

「マッスル、それは手付だ。ただし私には触れるなよ。その瞬間、お前の頭部が爆破する」


 マッスルはニヤリと笑うと、手に力を込めた。

 直後、骨が粉砕する音が聞こえる。


「クゥ、最高だ。やっぱり殺しってのは素手だよなぁ!? なあベドウィン団長!!!」


 高らかに叫びながら、ベドウィンとマッスルは扉に出た。

 そこで、マッスルが声をかける。


「なあ団長、お願いがあるんだが」

「なんだ」

「オレ様の手下が何人かここにいる。どいつもこいつも使えるやつらだ。連れていかせてくれよ。爆破魔法は付与してもいいぜ」

「……いいだろう」

「ヒャッハー! お前ら、また暴れんぞぉ!!!!」


 直後、高らかな声が叫び始めた。

 その数十分後、廊下にマッスル率いる、名のある犯罪者たちが集結した。

 ベドウィンが前に出る。


「お前たちの狙いはヤマギシ二等兵だ。詳しいことは道中で話す。命令違反は即爆破だ。私に逆らってもな。ただし命令さえ聞いていれば楽しく過ごせる。わかったな?」

「ハッ、行くぜお前ら! たのしむぜえ! マッスル様についてこい!!!」

「「おおぉおおおおおおぉ!」



 その一番後ろでやせ細った男が呟いた。


「なんで俺も……マッスルの部下でもないし、ただ万引きしただけなんだってえ……死にたくねえよお……誰だよヤマギシってぇ……」

*トラバ国⇒前にいたとこ

 *ベルディ国⇒ヤマギシがいるところ


 現在進行形の出来事。


 *ヤマギシとフェルンは『ベルディ国』で冒険者を楽しみたい。

 *トラバ国はヤマギシを捕まえようと“極”悪党+1を集結させた。

 *アルネとその後輩が闇に包まれた。


 *万引き犯が過去を後悔している。


 

 扉絵的な同時進行 *ボーリーが、正式に冒険者を辞めた。


 受付「え、ボーリーさん!? ど、どうしたんですか!?」

 ボーリー「髪がな、言ってるんだよ」

 受付(……神?)

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