第12話 特級呪物
*トラバ国⇒前にいたとこ
*ベルディ国⇒今ヤマギシたちがいるところ
色々間違えてたので、修正してます。
現在進行形の出来事。
*ヤマギシとフェルンは『ベルディ国』で冒険者になった。
*トラバ国はヤマギシを追いかけようとしている。
*アルネとその後輩が不穏。
*ボーリーの危機察知能力が上がった(髪のおかげで)。
これからもちょっと変なヤマギシと真面目なフェルンをよろしくお願いいたします。
俺は魔法が使えない。でも前線で山のようにみてきた。
攻撃魔法に防御魔法。回復魔法、身体能力を向上させるもの。
それとは別に特殊な能力を持つ奴らもいた。
虐殺部隊のアルネ。
あいつらの高速移動とかは、多分それだったと思う。
俺は生まれつき目がいい。
遠くの山とか人とか、離れていてもよくみえる。
魔力も、魔法も、よく視える。
「フェルンが弱いと、ハーフエルフが弱いってことになるよな」
「――なんで……そんな言い方をするんですか」
フェルンの魔力は、俺が今まで見てきた中でも異質だ。
精霊の力を借りているといっていたが、それが関係しているのだろう。
普通の奴は身体の中に魔力が流れている。
魔法とは、内側にある魔力を手のひらや杖に集めて放出する行為だ。
鍛えているやつはそれだけ魔力が多い。
だから視ただけで強いのかどうかもすぐわかる。
でも、フェルンは違った。
彼女の身体の中に魔力は流れていない。
もの凄く澄んでいて、透明なんだ。
初めて見たとき、純粋に美しいと思った。
なんでこんな子が、鎖に繋がれているんだろうって。
フェルンが詠唱を行うと、周囲に漂っている魔力が手のひらに集約していく。
それに限界値なんてない。
この世界には魔力が常に漂っている。
狩場でも、冒険者ギルドの中でも、今この公園も。
それは身体の内側にある魔力とは比較にならない。
本人はわかっていない。これは、とても凄いことだ。
「だって、そうだろ?」
フェルンの周囲に冷気が漂っていく。
彼女がなぜ自分が弱いと思っているのかはわからない。
おそらく誰かに言われたのかな。魔力が弱いだとか、お前はハーフエルフだから、とか。
それで自信を失っていたのだろう。
フェルンは強い。
今まであった、誰よりも。
それがわかっていない。
自分は弱くて、中途半端で、出来損ないだって言ってた。
違う。違うよ。君は、強い。
――でも、言葉では伝わらない。
俺は、手に持った木の棒を構えて、殺意を漲らせた。
誰であろうと本能的に感じるはずだ。
戦わなければやられると。
フェルンは表情を一変させた。俺の本気度が伝わったらしい。
へえ、そんな怖い顔もできるんだ。
「怪我したらごめんね」
呟き、俺は駆けた。
戦うときは時間がゆっくりになる。魔力が、よく視える。
冷気が、フェルンの身体に集まってくる。
俺は、右から振り払うように攻撃を仕掛けた。
右肩に当たれば骨が砕け、フェルンが倒れるくらいの力強さで。
でも――当たらなかった。
ガラス塊を割ったような音がその場で鳴り響き、透明な氷が散らばる。
フェルンの身体はまだまだ先だ。なのに、止まった。
――やっぱりすげえ。
瞬時に氷の障壁を作ったのか。それも、もの凄い強度だ。
「へえ――おもしろい」
間髪入れず身体を回転させる。勢いを殺さずに左側から攻撃を仕掛けた。
驚いたけど、一撃目が防がれることはめずらしいことじゃない。
偶然が味方することもあるし、防ぐことだけを考えれば自分の限界を超えることもある。
でも防御魔法は繊細な技術が必要だ。ま、これは戦っていてわかったことだけど。
攻撃魔法を連続で放つのとはわけが違う。
物を連続で投げるのは簡単だけど、何かを積み上げたりするのは大変だ。
よしんばできたとしても、不完全なシールドにしかならない。
そんなのは魔法ごと叩き潰せばいい。
だけど――。
左肩を狙った一撃。
ふたたび、透明な氷が散らばった。
思わず笑みを浮かべた。
フェルンは右側だけを防御したんじゃない。
体のすべて、どこに攻撃を受けてもいいように360度、自分を氷で覆ったんだ。
それも、とてつもない魔力で。
さらに驚いたのは、氷の中、つまりは絶対防御をした状態で左手に魔法を集約させはじめた。
攻撃と防御は同時にできない。
いや、できないと思っていた。
なぜなら今までのどんな奴もそうだったから。
でも、違うんだ。
――フェルンは、できる。フェルンだけは、できる。
「――やっぱり、強いじゃん」
フェルンは俺に左手を向けて、手のひらから氷の魔法を放った。
驚いたことに自身の防御魔法を破ることもなく通り過ぎていく。
凄いな、こんなこともできるんだ。
高密度の魔力だ。当たればもしかして腹に穴が開く?
でも、回避不可能なくらい速い。
さすがにマズイな。
「う、うそ……魔法を、木でたたき割るだなんて……」
答えは一つ。
切るしかない。
魔法にはつなぎ目がある。俺はそれをヒビと呼んでいる。
それに沿って切れば、魔法は崩壊する。
左右に分かれた氷魔法が後ろに吹き飛んでいく。
「へっへー、凄い?」
しかしその直後、後ろで轟音が響いた。
慌てて振り返ると、公園を囲っていた壁の一部が破壊されて氷漬けになっている。
「……げ」
「あ、あっ!?」
うえ、これはマズイ。
そのとき、街の兵士が偶然通りかかる。
砕け散った壁を見つけて叫んだ。
「お、お前ら何してんだ!?」
ヤバイ。これはヤバイ。俺でもわかる。
「――フェルン、逃げるぞ!」
「ふぇ、え、えええ!?」
右手をひいて、その場から走って逃げる。
すいません。以後気を付けます。
するとフェルンが笑いはじめる。
つられて、俺も笑う。
「ヤマギシさん、ありがとうございます」
「え、何が?」
「私のためにしてくれたんですよね……わざと、怒らせたんでしょう」
「んー、まあ」
「……私はこれからは自分に自信を持とうと思います。ハーフエルフだって、誰にでも胸を張って言えるようになりたいです」
「いいことだ。でも、なりたい、じゃなくて、なります、だろ?」
「ふふふ――なります!」
俺は人生のほとんどを一人で生きてきた。
前線に派遣されたときも、ああやっぱ運命なんだなって。
でも、誰かといると落ち着くことを知った。自分が間違っているときにダメですよと言われることが嬉しい。
それにこんなに人間を殺さなかったのも久しぶりだ。
いや……この前殺ったっけ。国の外で……。
まあ、あいつらは人じゃないし、数にいれなくていいか。
「そいや、巨剣どうしようかな。フェルンの氷剣気に入ってるけど、いつか取りにいかないとなあ」
「そういえば言ってましたね。そんなに大事な武器だったんですか?」
「大事っていうか、うーん、俺が持っておかないと多分、大変なことになるんじゃないかな」
「多分? ……大変?」
「詳しくはまた話すよ。とりあえず、飯食いに行こうぜ」
「ほんとよく食べますね。でもなんか、私も食べたい気分です!」
「おお、いいな! あ、でも……」
「でも?」
「金が残り少ないかも。――そうだ、その辺の悪そうな奴ぶっ殺して奪う?」
「そういうのはやめたほうがいいと思います」
あれ、なんか間違ったかも。
「はい」
「はい」
◇
ヤマギシが仕えていたトラバ国。
その前線から少し離れた場所で、二人の女性が砂漠を歩いていた。
どちらも黒装束を身に纏っている。
そのうち、前方を歩いていた女性が、後ろを振り返り声を掛けた。
「アルネせんぱぁーい、もう巨剣捨てちゃいましょうよー。早く家に帰りたいんですよお。一緒にお風呂でぬくぬくしましょうよお」
けだるそうな声、どこか気の抜けた感じだが、優しい声をしている。
彼女の言葉通り、アルネは巨剣を引きずって歩いていた。あまりに重すぎて、引っ張って歩いていた。
「……これは大事な証拠品だからな。そういうわけにはいかないんだ。ていうかみんな私の命令を聞いて帰ったのに、なんでお前は残ってるんだ」
「えぇー!? そんなこといって、虐殺蜘蛛がいっぱいいるから危ないじゃないですかあ」
アルネは、ふうと足を止めた。
巨大な刃の部分は傷つかないように大きな袋で覆われている。柄にも砂や泥が付かないように包まれていた。
彼女は、地面にそおおおおおっと置く。まるで、母親が我が子を寝かしつけるかのように。
それを見ていたもう一人の女性が、クスクスと笑う。
「証拠品って言ってる割りには、やけに丁寧ですねぇっ?」
「……私は仕事をしっかりしたいだけだ。それ以上の感情はない」
「へえっ、本当ですかー? また狂乱のバーサーカーに会いたいだけじゃないんですかぁっ!?」
軽口に対して少しムっとするも、やれやれと額の汗を右手で流そうとする。
しかし黒装束が邪魔をしていた。
アルネは、黒装束に手をかけ胸元の下まで降ろす。
「わぁっ、せんぱいえっちぃですねえ! たゆんたゆんだぁー!」
黒装束から現れたのは、金髪の長い髪をした、乳白色の肌の美少女だった。
胸ははちきれんばかりにたゆんっとしており、勢いよく揺れる。
「……うるさい。しかし巨剣はやけに重いな……ん?」
するとそのとき、アルネは異質な魔力を感じとった。
まるで、生きているかのような魔力のうねりを感じる。
それに気づいたのは、アルネだけではなかった。
「……せんぱぁい、なんかやばそうな感じしませんか?」
「……だな。――構えろ」
次の瞬間、巨剣は恐ろしい魔力を漲らせると、不協和音を響かせながら周囲を闇に包んだ。




