第11話 言葉では伝わらないよな
「お、おい……あいつ、合格証明書もらってんぞ」
「嘘だろ。どういうことだ!? 試験官はあのボーリーだったんじゃねえのか!?」
「……しかもあんな少女まで!?」
後ろで騒いでいるのは現役の冒険者たちか。
俺とフェルンは簡単な講習を終えて、一階で冒険者のタグの受け取り待ちをしていた。
不合格の男たちは不満そうだったが、ボーリーに「黙れ」と睨まれて泣いていた。
しかしさっぱりわからない。
試験官のボーリーはなぜ突然『参りました』と頭を下げてきたのだろうか。
俺、なんかしたか? 何もしてないよな? 戦ってみたかったんだけどなあ……。
そういえばちょっと、頭部のうずまきが変だった。もしかして髪が痛んでいるのかな。
あんなに艶やかなのに。
ちなみにそこで試験は終了となり、残っていたフェルンも無条件で合格となった。
結果的に、ボーリーの試験は俺とフェルンだけが合格したということだ。
ふと横に視線を落とすと、フェルンが俯いていた。
悲しげだ。そして、儚げだ。
「大丈夫だよ、フェルン」
「でも……私……」
「これ終わったらご飯にしよう。腹、減ってんだろ?」
するとフェルンは薄目で俺を見つめてくる。いや、睨んでいる。
あれ、どうしたんだろう。
「もし今空いてたら、とんでもない大食いハーフエルフですよ」
「え? 俺もうペコペコだよ」
より一層睨んでくる。
なんで、なんでなんで!?
「違います。私は何もしてません。だから、申し訳ないんです」
「ん、誰に?」
「ヤマギシさんにです。これではただのおんぶに抱っこですから」
「そうかあ?」
フェルンは気にしぃだな。俺ならやったーって喜ぶのに。
ほどなくして受付のお姉さんがやってきた。そして首から下げる銀色のネックレスを二つ、渡してくれた。
俺のには剣の模様が彫ってある。フェルンのには魔法の杖だ。
「こちらが冒険者タグになります。模様は申請された職業を現しています。ヤマギシさんは前衛、フェルンさんは後衛です。ほかには前衛で攻撃を受ける盾のマーク。回復を重視される方は、十字架のマークとなります」
なるほど。直感的でわかりやすくていいな。
確かにこれがあると狩場とかで出会ったとき、声を掛けられない状態でも連携がしやすそうだ。誰かと肩を並べて戦ったことなんてほとんどないけど、そういうのが考えられてるんだろうな。
ちなみにこのネックレスの中に俺たちの情報が入るらしい。どんな任務を受けたとか、達成したとか、そのぱーせんてーじだとか。
そこで、フェルンが尋ねた。
「このネックレス、もし失くしたらどうなるんですか?」
「追加で費用はかかりますが再発行が可能です。ちなみに冒険者のランクなのですが……お二人様はボーリーさんの試験に合格しましたので『A』ランクからスタートとなります」
「『A』ですか!?」
それを聞いて、フェルンが声を上げた。
周りの人たちが驚いて注目するも、俺は首を傾げる。
「す、すみません……」
「いえ……驚かれますよね。でも、ボーリーさんの試験に合格したのは凄いことですよ。それだけ偉業なことですから誇っても良いと思います。説明は以上です。何かありましたら私は受付にいますので、いつでもお申し付けくださいね」
ニコリと笑みを浮かべるお姉さん。
食堂も服屋の人もそうだったが、ベルディ国の人はみんないい人だな。
トラバの人たちはみんな気を張ってたし、しんどそうだった。笑顔が溢れてるところは気持ちも穏やかになっていい。
「おい聞いたか? 『A』からっていってたぞ」
「……嘘だろ」
「マジかよ。あいつらすげえな」
なんか注目されているみたいだ。
ランクの話がよくわからいのでフェルンに尋ねてみると、一応外で話しましょうと言われた。
扉を開けて外に出て歩き始める。
「『A』って凄いのか?」
「先ほどの講習、聞いてなかったんですか?」
「寝てました」
フェルンがちょっとだけムスッとする。
それでも、話始めてくれた。
「通常の冒険者はFからと書かれていました。Cで一人前と呼ばれるみたいです。Bも凄いみたいですが、Aに到達できる人はごく一部だそうです。報酬も高くもらえるみたいで、さらに任務の幅も広がるみたいですよ」
「へえ、凄いんだな。なんか、得したな!」
ハイタッチしようと両手を差し出したが、フェルンは乗り気じゃないらしい。
まだ気にしているのか、自分がボーリーと戦っていないことに。
それでいうと俺もなんだけどな。
フェルンは十分凄い。
森でも俺についてきてたし、氷の剣もかなりの魔法強度だ。切れ味も抜群。
十分だと思うんだけどなあ。うーんいやでも、言葉では伝わらないか。
「フェルン」
「はい?」
そのとき、ちょうどいい公園を見つけた。暗くなってきているからか、人もいないみたいだ。
ちょっとあっちにと誘導して中に入る。
奥が大きな砂場になっていた。ここでいいや。
そこで待ってといって、少し離れた場所で止まり、振り返る。
この砂埃、ちょっとだけ前線を思い出す。
さて、と。
「フェルン、自分が足手まといかってまだ心配なのか?」
「……え? ……はい」
やっぱりそうか。でもこればっかりは言葉じゃ伝わらないだろう。
そもそも、俺は口下手だ。何を言えばいいのかもわからない。
となると、答えは一つ。
「――ヤマギシさん……? どうしたんですか」
「考えても答えが出ないことはある。そういうときは身体を動かしたほうがいい。フェルン、俺は今から君に攻撃するから」
「え? いや、なにを言ってるんですか!?」
「もっと自分に自信を持ってほしい」
俺は、地面に落ちていた木の棒をひょいと持ち上げた。
軽くてちょうどいい。これなら大怪我はしないだろう。
「あらかじめ言っておくけど寸止めはしない。しても、フェルンは喜ばないだろうし、お互いのためにならない」
「な、なんでいきなり!?」
「すぐわかるよ」
俺の言葉が嘘ではないとわかったらしい。
でもまだ驚いている。いや、困惑しているのか。
このまま攻撃しても意味はない、か。
んー、……ごめんなフェルン。
俺はやっぱりいい人じゃない。
君を本気にさせる言葉が、すぐ浮かんでしまったから。
「……でも、フェルンが弱いと、ハーフエルフが弱いってことになるよな」
するとフェルンの周囲に凄まじい冷気が漂い始めた。
へえ、やっぱ強そうだ。
やっぱり俺の目に狂いはないみたい。
「さて、やろうか」
 




