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9 魔術決闘当日

     ***



 決闘の日はあっという間にやってきた。


「……準備、よしっ」


 私はマントのついた魔法儀式用の正装に身を包み、会場である学園の魔術訓練場の第一闘技場(コロシアム)に足を踏み入れる。


 校則では、生徒は学園の敷地内では授業時以外魔法を使ってはいけないと定められている。

 その例外となる場所が、魔術訓練場だ。


(意外と多いなぁ、観客)


 初夏の日差しがまぶしい闘技場(コロシアム)

 フィールドを囲むように、緩いすり鉢状に作られた観客席には、生徒たちがたくさん座っている。


 女子生徒たちは、生意気なピンク髪女がぎゃふんと言わされるところを見たい、という感じのワクワクした顔の生徒が数人。あとはマクシーナ様の応援のために動員されたのか、帰りたそうな顔をしていた。

 一方男子生徒はお祭り気分なのか、なぜか妙に盛り上がっている。


「メリディアナ嬢! 見てくれこれを! 君の勝利を願って作らせたのだ!」


 盛り上がっている男子生徒筆頭、セオドア殿下。

 フィールド横で待機中の私のところにやってくると、大きな大きな応援幕をバーンと従者たちに掲げさせた。

 最上級の天鵞絨(ビロード)生地に、絢爛豪華な金糸銀糸の刺繍いり。

 明らかに決闘の邪魔にも観戦の邪魔にもなりそうなサイズ感。


「すみません即刻畳んで片付けてください」

「そんなぁっ!?」


 叫ぶセオドア殿下を指差してゲラゲラ笑うのはルーク殿下。


「あはははは! テオはセンスがないんだよなぁ。ほら僕の応援幕の方がこんなに……」

「わー素敵(棒読み)よく燃えそうですね」

「ちょっ!! やめて火球(ファイヤーボール)出さないで!! わぁぁぁ!」


 火球魔法を見せると、ルーク殿下はあわてて自分が用意した応援幕を従者に片付けさせ始める。

 いつもお仕事増やして本当にすみません従者の皆さん。全部王子たちのせいです。


「ああ、この日のために特別に用意した応援幕なのに…」

「ねぇメリディアナ、なんか僕たちに対して特に当たりキツくない?」

「不満があればお帰りになってよろしいですが」

「「…………」」


 とたんにショボンとして、雨に打たれた仔犬のような目でこちらを見るセオドア殿下とルーク殿下。

 義姉がもしいたら『ねぇ、あんまり冷たくするのはお可哀想よ……』と言ってきたかもしれない。

 ちなみに、メリディアナの応援はしたいけど魔術決闘を間近で見たら卒倒しちゃうかも、ということで今日は義姉は来ていない。


「あっ、そうだルーク! 貴様はマクシーナ嬢の婚約者だろう。なぜこちら側にいる!」

「は? 俺が応援したい方について何が悪い?」

「婚約者を差し置いてメリディアナ嬢に味方すれば、彼女が周りからどう見られるか、少し考えればわかるだろう!」


 惜しいですセオドア殿下。そのお言葉そっくりそのままご自身にも向けてください。


 ダメだ、これ以上会話をしない方がいい。決闘前に消耗する。

 ズキズキ頭がいたくなってきた私は、二人と目を合わせず、観客席をビッと指差す。


「とりあえず。お二人とも観客席(あちら)にどうぞ」

「ま、待て! メリディアナ嬢!」

「そうだよメリディアナ! 魔術決闘には介添人(セコンド)がいないと」

「不要です。今すぐあちらにどうぞ」


 対戦相手の婚約者&主審の婚約者がセコンドって、なんの冗談ですか。


「いやでも……わっ、ちょっ、えっ!?」

「待っ……メ、メリディアナ嬢ぉぉ!! がんばってくれぇ!!」


 セオドア殿下もルーク殿下も、今日は決闘運営のスタッフと化した学園の職員の皆さんにズルズルと引きずられていった。


 観客席かと思いきや、フィールドのすぐ近くに設けられた『特別審査員席』なるところに連れていかれている。


 

 ……まあいい。



 気持ちを切り替えるため、深呼吸しながら、革手袋をつけた。

 そりゃ、頼れるセコンドならいてほしいけど。


(魔術決闘じゃなくて、武術とかだったらなぁ……シルヴァ様についてもらえたら一番心強かったけど)


 そんなシルヴァ様がいまどこにいらっしゃるかというと、どうやら会場の中に入れてもらえなかったらしい。

 観客席の最後列のさらに後ろで立ち見していらっしゃる。


 軽く会釈すると、ちょいと軽く手を上げてくださった。

 口元が動……いた、気がする。

 距離が遠いのでたぶんだけど『が、ん、ば、れ』って言ってくださった気がする。

 王子たちにごっそり削られたやる気がみるみる回復する。



 そうして顔を前に向けると、マクシーナ様が、正方形のフィールドの向こうからすごい顔でこちらをにらんでいた。


(まぁ、そりゃ、婚約者が目の前で他の女にフラフラしてたら腹が立つよね)


 その怒りは正当なものだけど。

 私としては精一杯拒絶の意思を表明しているつもりで、これ以上どうしたら良いかわからない。

 できれば婚約者のお二人(と関係者の方々)が止めてほしい。


 王子たちがいなくなったからだろうか。

 マクシーナ様は、足音荒くこちらに近づいてした。


「あーら、可哀そうなこと! 魔道具の一つも持ってこられなかったの、平民は」

「あいにくオーリウィック家の魔道具に、学生の決闘に持ち出せるほど安い品はありませんでしたので」

「減らない口ね。でも自分の身の程を今度こそ思い知るがいいわ! 私の魔力の属性は『鋼』。あなたは『光』よね? どちらが破壊に分があるか、一目瞭然でしょ!」


 魔力は、その個性により分類される。


 どんなものに性質が近いか、どんなものと相性が良いか等で『◯◯属性』だと判定されるのだ。

 ただ、属性によって向いている魔法・向いていない魔法はあるものの絶対ではない。


 それに、マクシーナ様は大きな勘違いをしているようだ。


「治癒魔法ぐらいしか能がない光属性の魔力なんて、昔ならともかく、今の時代では大ハズレもいいところだわ!

 なのに希少だからって、平民女をわざわざ侯爵家が引き取るなんて!

 しかもそれで結局あなた、魔法の授業を選択さえしていないのよね!

 高い身分の殿方でも捕まえれば人生楽勝とでも思ったんでしょ?

 ちょっとばかり可愛くて胸の大きい平民出身のピンクブロンド、おまけに稀有な魔力で王子にちやほやされて人の婚約者に手を出しまくり?

 残念ね! そんな女、どんなロマンス小説でも最後にきっちり『ざまぁ』されると決まっているのよ!」


 すらすら淀みないマクシーナ様の長台詞に、観客席から乾いた拍手とブーイングが沸き起こった。


「へー、そうですか。どのロマンス小説でもですか?」

「ええ、そうよ! 国中のロマンス小説家の新刊を献本させている私が言うのだから間違いないわ!」

「妃教育をお受けになっているわりにはずいぶんお暇でいらっしゃるのですね?」


 ぶっ! ルーク殿下が吹き出し、マクシーナ様の顔が真っ赤になった。

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