27 反撃
「……待っ、待ってください!!」
必死で食い下がるけれど、困惑で頭がいっぱいだ。
なぜ? なんで私は勝手に聖女ってことにされてるの?
教会なんてたまに慈善活動で身よりのない病人を診に行くぐらいしか縁がない。
高位の聖職者に限って言えば、シルヴァ様の敵だと思ってるぐらいだ。
それに、魔獣を倒したのも怪我人たちを治したのも、私の魔法であって神様なんかじゃない。
そして亜竜を倒したのはシルヴァ様だ。安全圏から人間たちを見下ろしている神様は何もしていない。
会場の紳士淑女たちもみんな困惑した表情だ。
宰相は暴れながら警備兵たちに引きずられてどこかに連れていかれ、マクシーナ様は呆然と立ち尽くしている。
私の義父も義母も、聞いていないって顔をしている。それはそう、もし聞かされていたら私に黙っている人たちではないもの。
「あの、私、突然言われても困ります!」
礼を欠かないように、なんて言っていられない。とにかく大きな声を上げる。
「これは聖皇庁の決定であります。国王陛下にはすでにご承認いただいてございます」
「私も両親も、何も聞いておりません!」
「国王陛下にご承認をいただいたと申し上げました。あなた様は侯爵家ご令嬢、つまり王家の臣でございます。国王陛下のご決定は、オーリウィック侯爵の意思に勝ります」
そこに「お待ちください!」と声を上げたのはセオドア殿下だった。
「いずれにせよ、急すぎるとは思いませんか。彼女は世俗の人間です。決してこれまで神に仕える仕事をしてきたわけではありません。なのに急に『聖女』の肩書きは重すぎます」
「そうですよ!」ルーク殿下も同調する。
「彼女はただの十五歳の学生です! 自分の意思でもないのに突然『聖女』にされるなんて……無理矢理聖皇庁に連れていこうというなら、そんなの誘拐と変わらないでしょう!」
「いやいや、歴代の聖女の中にはもっと幼い年齢で聖女と認められた方もいらっしゃる。それに、殿下方、わたくしたちは聖女を聖皇庁にお連れしようなどとは考えてはおりませぬ。聖女の称号と身分を、メリディアナ嬢にお授けしたいだけなのです」
「称号と……身分?」
「つまり、聖女として『第一身分』となれば、世俗の『第二身分』よりも上となられるでしょう。王子殿下方は、その意味がおわかりですな?」
その言葉に、セオドア殿下とルーク殿下は何かに気づいたように顔を見合わせた。
私には、まったく話が見えない。
「皆様ご存じでしょうか。王位継承者の貴賤結婚が禁じられているこの国でも、過去に聖女が王妃となった前例が二件ございます。
その先例にならい……聖女には、お二人の王子殿下のいずれかと結婚して国母となっていただきたい」
国母、という言葉まで出てきて頭がくらくらしてきた。
何を言っているのか。同じ言語を話しているはずなのに、異世界の人のようにすら思える。
「あのっ、王子殿下方は、お二人ともご婚約者が……」
「いずれの婚約も解消とする」
「!?」
私の言葉に国王陛下がとんでもないことを言い切った。
「聖女たるメリディアナ・オーリウィックに対し、学園の生徒たちは集団で度重なる加害行為を行った。それを先導したアナスタシア・ドラウン、マクシーナ・ウィールの責任は重大である。
さらにはその加害行為の中にはメリディアナ嬢の毒殺をはかったと見られるものもあった。生徒たちの中に、外国の勢力と通じている者がいる疑惑がある。
そのような二人を、王家に入れるわけにはいかぬ。そうであるな、ドラウン公爵」
いつの間にか国王陛下のかたわらに立っていた前宰相……アナスタシアのお父上であるドラウン公爵は、娘によく似た、年齢を感じさせない秀麗な顔に酷薄な笑みを浮かべ、国王陛下の言葉にうなずいた。
「はい、国王陛下。我が不肖の娘が、おそれおおくも聖女にとんでもない無礼を働きましたこと、痛恨の極みにございます。婚約を破棄されてもいたしかたがない行いと存じます」
……娘をかばわない。どうして?
シルヴァ様との婚約を破棄させてまで……シルヴァ様をさらなる地獄に突き落としてまで、アナスタシア様を王妃にしようとしていたのは他でもないあなたでしょう?
アナスタシア様は……血の気の引いた顔で、うつむいている。王子たちも何も言おうとしない。
国王陛下は満足そうにうなずいて、続けた。
「そうだ。そして、今まで二人の息子のいずれを王太子にするか決めかねてきた。よって此度、聖女の選びし息子を次期国王とする」
「ええ、聖女には、聖力の強い王子王女をたくさん産んでいただかねばなりませんからな。十五歳ということは十……いえ、十五人はお産みになれるでしょうな」
背筋がゾワッとした。
こんな騙し討ちみたいなやり方で、考える隙も与えられずに、私の人生が現在進行形で恐ろしい勢いで歪められていく。権力者たちが歪めていく。利用されているのは明白だ。
考えさせてください、で逃げる余地がないことははっきりしていた。
どう答えても聖皇庁は一方的に私を聖女だと認定し、この国はそのつもりで動いていくだろう。
いま抗わないと、という焦りだけが走り、抵抗する術が浮かばない。
何かないか、何か……!
「わ、わたしは! 学園でも評判の悪い生徒です! 王妃にも聖女にもふさわしい人間ではありません!」
言うに事欠いてこれか、と自分でも思った。
大嫌いだった、ピンク髪の尻軽という悪評。それしか縋るものが思い付かず。
「国王陛下、改めて申し上げますが学園を調査したところ、そんな実態はなかったということです」
嘲笑うような宰相の言葉が死刑宣告に聞こえた。
ギュッ、と握った私の手に、誰かの大きな手が添えられた。
(…………?)
シルヴァ様の手だ。
さっき警備兵に引き剥がされたシルヴァ様が、いつの間にか私の隣に戻ってきてくださっている。
その手が、私の手を握る。
「すまない。これしか思い浮かばない」小さく呟いたシルヴァ様の声。
(…………?)
シルヴァ様は二、三度深呼吸し、顔を上げた。
「僭越ながら国王陛下。その決定には異議がございます」
抑えているのによく通る、その声には強い決意が感じられた。
「なんだシルヴァ、今おまえの意見など」
「────先日、わたしは!」
国王陛下を怯ませるほど、鬼気迫る声。
「メリディアナ嬢に求婚し、それをお受けいただきました!」
「…………!?」




