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22 青いドレス

「……とにかく、私はシルヴァ様にご無事で帰ってきていただきたいです」


 その外国の要人や聖職者のターゲットがたとえ私だったとしても、シルヴァ様にとって大切な弟二人、家族のように大切だった元婚約者を殺されそうになった。さらにはこの国の国民をたくさん殺されかけたのだ。

 確かにシルヴァ様にとって怒り心頭だろう。


 それでも、私はシルヴァ様が心配だ。ご自身の命を危険にさらすようなことはしていただきたくない。どうか一刻も早く、無事で帰ってきてほしい。


「まぁ、あとはシルヴァ様を信じろ。それに、国外情勢はあと少しすれば落ち着く。何せ、ずっと揉めていた東のイナン帝国の皇帝が決まったからな」

「ほう? ようやく決まったのか」


 義父が興味を示して口を挟む。


「誰になったのだ?」

「父上。この国では知名度が低いですが『鉄腕皇女』です」

「なんと。噂には聞いたことがあったが実在したのだな」

「鉄腕……? 皇女って女性ですか?」

「この十数年身分を伏せて戦地を回っていた隻腕の軍人皇女だ。そういうわけだから、シルヴァ様の無事なお帰りを待て」

「……はい」


 うなずく。それにしても世の中には、彼女が治めるなら大丈夫と信頼されるようなすごい女性がいるんだなと、そこはちょっと気になったというか励まされた。


「そういえばメリディアナ。おまえ褒章を授与されると聞いたぞ」

「あ! そうなんです。それでドレスを準備しないとなのです」

「ドレス? ドレスなら中等部卒業式の時に……そうかおまえ、出席していないのか」

「いえ、そもそも卒業式のあとの謝恩パーティーも制服で出るつもりでしたから。でもいざという時のために準備しておかないといけないのは痛感しました」


 そういうと「卒業式……ああ、そうね、そうだわ」と義母が何かを思い出した。


「あのドレスなら……」

「え?」

「卒業式、あなた出られなかったでしょう。でもあなたの中等部の卒業式のためのドレスがあるのよ」

「ドレスが……あったんですか!」

「そう、あなたが被災地に発った日に、いろいろあってね……いろいろあったからしまいこんでしまっていたのよ。あぁ、まぁいいわ。ちょっと見てみなさい。サイズはまだそんなに変わらないでしょう。多少の調整で何とかなるわ」

「は、はい」


 朝食後、普段ほとんど使っていないほうの奥の衣装部屋に母とともに向かう。


「それにしても、ドレスご用意してくださっていたんですね。ありがとうございます」

「ああ、いえ、その……それはまたおいおい話すわ」

「?」


 侍女たちが奥から出してきたドレスを見て、私は目を見張った。

 文字通り目の覚めるような青のドレス。

 艶のある、美しい矢車菊の青コーンフラワー・ブルー。ロイヤルブルーと同じく最上級のサファイアの色であり、シルヴァ様の瞳の色。

 私が一番大好きな色だ。

 さりげなく入った銀糸の刺繍が、ため息が出るほど美しい。


「ちょっと胸に当ててみなさい」


 言われて、鏡の前でそうしてみる。

 私の髪色のピンクは、単体では綺麗だと自分でも思うけれど、かなり服との組み合わせが難しい。

 けれどこのドレスはレースの白がさりげなく差し色に入り、矢車菊の青コーンフラワー・ブルーと髪のピンクを両方引き立てていた。


「……最高です」


 思わずそんな言葉が漏れた。


「こんなドレスをご用意いただいて……本当にありがとうございます!」

「……気に入ったなら良かったわ。宝石も一式あるの」

「え……卒業式に宝石までご用意いただいていたんですか!?」

「あ……まぁ、そちらも見てみなさいな」


 出されたのは、数えきれないほどのダイヤモンドを組み合わせた、宝冠のようなネックレスとイヤリングと髪飾り。


「だっ……大丈夫ですか!? これは……レイチェルお義姉さまのものより豪華では……」

「し、式典の主役なのだから、それぐらいは要るでしょう?」

「ああ、そうですよね……何だか申し訳ないですけど」

「それより、どう? 気に入った?」

「は、はい! こんな素敵なものをご用意いただいていたなんて……これで当日式典に出ます」

「そうね、そうしなさい」


 うんうん、とうなずく義母には何か含みがあるようだったのだけど、これで式典に出られるという安堵とドレスの素敵さに気を取られた私は、それ以上気にしないで、当日を迎えるのだった。


     ***

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