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「魔杖に細工がしてあったのは、メリディアナ嬢も看破していたな」


「ええ。おそらく、時限式で発動する魔法陣ですよね、相当高度な」


「うむ。マクシーナ嬢は決闘前、外国から新しい魔杖を手に入れたそうだ。魔道具の輸出入の際には通常特別な検査を受けるのだが、宰相権限でやめさせたようだな」


 なんて堂々とした職権乱用。


「そしてその魔杖に、とある国の有力者の息のかかった高位聖職者が細工していたのではないか……と、思われる」


「……王都の混乱を狙ったものか、王子殿下方お二人のお命を狙ったものということでしょうか?」


「おそらくはそうだろう。だが……。

 今回の件の調査にあたり、我々は学園内も徹底的に調べた。

 そこで判明したのだが……学園の教師陣は、君に対する嫌がらせの証拠を保管していただろう?」


「え? ……ええ、まぁ」


 落書きされたロッカーの扉。破かれ汚された教科書や学用品。仕掛けられた刃物。

 せめて証拠は保管しよう、と言ってくださったのは学園長先生だ。

 すぐにやめさせることはできなくても、最終的にきちんと、犯人にしかるべき処分と指導を与えられるように、と。


「どこかの生徒会長は、いじめはでっち上げだと信じ込んでいたみたいだけどねー」


 ルーク殿下の嫌味に、アナスタシア様は目を伏せる。あれ?


(アナスタシア様は、わかってて私への嫌がらせを黙認してるんだと思っていたけど……もしかして本気で私の自作自演とかだと思っていたの?)


 でも、どうしていま、嫌がらせの話が?


「君の着替えや私物に、針や刃物が仕掛けられていた時もあるだろう」

「はい、まぁ慣れているので先にハンカチで取ってしまいますけど」

「その針や刃物を鑑定した結果、一部に猛毒が塗られていた」

「……え」


 さすがに一瞬思考が停止した。

 いつもの嫌がらせと思っていたら……毒?


「保管の仕方が良かったので、幸い教職員に被害はなかったのだが」


「決闘の場に俺たちが来ない可能性もあるでしょ。でも、メリディアナは決闘の場にいる可能性が高い。毒を盛られたことも踏まえて考えると……」


「メリディアナ嬢の命が狙われた可能性を捨てきれない」


「……そんな」


 特に重要人物でもない私に?

 他の国の要人がどうして?


「まぁ、当日決闘が中止になることや日程変更もありうる。宰相やマクシーナ嬢を狙ったもの……と考えた方が良いかもしれない。

 ただ、たとえ召喚は君を狙ったものではなかったとしても、君が毒を盛られた事実がある。

 引き続き、命を狙われているかもしれない。

 よって、メリディアナ嬢に褒章を与えるのなら、それを口実に当面君の身辺に警護の人員をつけたい、と、我々兄弟から国王陛下に奏上し、認めていただいたのだ。

 事情としては以上だ。ルーク、補足はあるか?」


「そうだね。付け加えるとさ、ウィール宰相父娘は自分たちの非を必死で否定して、メリディアナに罠にはめられたんだと主張してます」


 難癖が強烈すぎていっそ清々しい。


「ほんと厚顔無恥だよね。

 ただ、宰相は、ふてぶてしさと声の大きさで権力を奪い取った奴だからさ。そういう『言ったもの勝ち』な行為が馬鹿にできない。白を黒だといつの間にかみんなに言わせちゃう恐さがあるんだよ。

 だから俺としては、今回メリディアナは褒章を正式に授与されて、立場を強くしておく方がいいと思う。君もオーリウィックって名前を背負ってるわけだしね」


 そう言われ、うなずいた。

 ルーク殿下の言葉に納得するのはちょっと(しゃく)だけど、家族に迷惑をかけたくない。


「承知いたしました。

 では改めて、国王陛下のお名前で義父にその旨お伝えいただけますでしょうか。

 その上でお受けするとお返事をさせていただきます」


 ホッとしたような顔のセオドア殿下とルーク殿下に「授与式にはシルヴァ様も呼ばれますか?」と聞いてみる。


「うむ。今は所用で国外に出ていらっしゃるが、来週には戻られる。授与式にも当然出るはずだ」

「それならよかったです。授与式はいつに?」

「来月の予定だ」

「……来月……?」

「式典の後は晩餐会と舞踏会を予定している」

「そんなに急に、大丈夫なんですか?」

「間に合わせる。魔獣召喚について噂が広がっているので早めに公式発表を出したいという国王陛下の意向だ」


 国王陛下、そんな突貫工事に踏み切る胆力がおありなら、シルヴァ様への廃嫡要請も突っぱねてほしかったです。


「……わかりました。間に合うように準備いたします」


 ドレスの件を先送りにしていたのが痛い。

 式典に出られるようなドレスを来月までに仕立てるのは難しい。

 既製品を探すか、あるいは義母か義姉に貸してもらえるだろうかと考えていると、セオドア殿下が眉をあげた。


「メリディアナ嬢は社交界デビューがまだだな。もしかしてドレスが間に合わないのではないか?」

「それは……なんとかしますのでお気遣いなく」

「すぐに準備しよう」

「…………は?」


 自分の耳がおかしくなったかと思って、一瞬頭の働きが止まってしまった。


 婚約者の目の前で何を言っているんだ、この人は?

 とってもいいこと思いついた子どもみたいな顔で、目を輝かせて。


「っ、待ってください、殿下……!」

「メリディアナ嬢の成人に合わせて贈ろうと思って仕立てさせていたドレスがあるのだ。あと少しで完成する。針子を増やして急がせる。きっと気に入ってくれるはずだ」

「い、要りません!」

「遠慮をするな。名誉ある場だ。最上級のドレスで出席しなければ……」


 ガタンッ。

 椅子の音ともに「お先に失礼いたしますわ」と、うつむいたアナスタシア様が部屋を出ていく。

 顔はよく見えなかったけど、食い千切りそうなほど強く唇を噛み締めていた。


(…………)


「デザインはきっと気に入ってくれると思うのだが……そうだメリディアナ嬢、今日この後時間があるならちょっと王宮に寄って見て……」

「……なんで、あんなこと言ったんですか」

「…………え?」


 きょとんとしたセオドア殿下の顔。

 ああ、自分が何を言ってしまったか、この人わかっていないんだ。


「なんで、婚約者の前で他の女にドレスを贈るようなことを口にしたんですか。アナスタシア様に対しても私に対しても酷すぎませんか」

「いや、しかし彼女は……そもそも、私との婚約は彼女にとって不本意なもので……」

「だとしても婚約者同士なんですよ? わざわざアナスタシア様の立場を踏みにじるようなことを何で言うんですか? 何を言っても傷つかないとでも思ってるんですか?」

「…………!! そんなつもりはっ! ただ私は、君が困っているのではないかと」

「なんで男性っていうのは……性欲絡むと判断力落ちるんですか!」

「せっ、性欲……!? 待て、それは誤……」


「────最低ですね」


 セオドア殿下が一瞬呆然とし、それから真っ青になる。


「メ、メリディ……」

「警護がつくのは後日ですよね。それでは失礼いたします」


 立ち上がり会議室を出る。追ってこられそうな気配に、私は駆け出した。


       ***

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