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13 その手に触れても良いですか

「メリ……えっ」


 バッ、とシルヴァ様の大きな手をとって確かめる。


「だ、大丈夫ですか!? お手ては!? お怪我は!? ビリビリとか!?」

「ああ、傷一つない」

「吐き気は!? 目眩は!? 気分が悪くなったりとか頭痛とかは!?」

「……あ、ああ。まったくない」

「大丈夫……なんですね?」


 目の前であまりのことが起きたので、動転してしまった。


「何ともないなら良いのですが……でも、でも、生身の人間があんなところに突っ込むなんて……」

「理論上は俺の身体であらゆる魔力を無効化できるはずだからな。(いち)(ばち)かやってみた」

「なんて無茶を……!」


 召喚魔法を無効化したのか、さっきのモンスターごと消し去ってしまったのかはわからないけど……。

 シルヴァ様が生きてて、本当に良かった!


「……その……手はもういいか?」

「……手? ……わっ!」


 生存の幸運を噛み締めたまま両手でシルヴァ様の手をギュッと握りしめているのに気づき、あわてて手を離す。


「すすすすすすすみません!」

「いや、別に……」

「あ、あのっ、助けてくださってあり……」


 言いかけたところに、


「大丈夫か!? メリディアナ嬢!」

「大丈夫!? メリディアナ!」


 王子たちの声が割って入る。

 振りかえると、魔法防壁は先生方の手によって解除され、王子殿下たちがフィールド内に入ってきている。


 医療班の先生方が、倒れているアナスタシア様とマクシーナ様のもとに走る。


 セオドア殿下がこちらにやってきた。


「兄上! ありがとうございます! 兄上がいらっしゃらなければ、どうなっていたことか……!」

「外は何事もないか」

「はい、おかげ様で! 皆無事です! 先ほど王宮に使いを出し、また、憲兵も呼んでおります!」


 セオドア殿下、仕事はちゃんと出来る人だ。

 シルヴァ様のことも廃嫡前と同じように尊重しているし、そういうところはいい人なんだけどな。

 

「さっきの魔獣だが」

「はい。闇属性の魔力で……おそらくですが、闇雷亜竜ダークボルトデミドラゴンではないかと」


(……闇雷亜竜ダークボルトデミドラゴン!?)


 モンスター図鑑で見た。超危険魔獣だ。

 完全降臨すると、身体から絶え間なく暴風と雷撃を放ち、目につく生命を食べ尽くす。

 相当危険なモンスターで、これも、光属性の魔力の生き物を好んで食らうとか。

 となると、真っ先に食べられたのは私だろうけど……。


亜竜(デミドラゴン)なら魔導騎士団じゃないと対処できない。魔力防壁も破ってしまっただろうし……シルヴァ様がいてくださらなかったら、私だけじゃなく、どれだけの人が……)


 考えるだけで、ゾッとする。

 いつの間にか近くにきていたルーク殿下が「はぁ!?」と怒鳴った。


「じゃあ、あいつは決闘に負けた腹いせにメリディアナを殺そうとしたってこと!? みんなを巻き添えに!?」

「落ち着けルーク。兄上の御前だぞ」

「かまわない。それより、あれは魔道具を使っても簡単に召喚できるような代物じゃない。調査が必……」

「どちらにしろ! もう少しで、メリディアナが殺されるとこだった!」


(!)

 ルーク殿下の声は感情を剥き出しで叩きつけるような重さを持っていた。


「シルヴァがあと少し遅かったら、メリディアナは……そんなことになったら、俺…………」


 綺麗な顔を泣きそうに歪めて、マクシーナ様の方をにらみつける。

 びっくりした。私の身を案じて怒ってくれているらしい。

 最近の言動があまりにアレなので忘れかけていたけど、ルーク殿下も元々根は善良で優しい人だった。最近がおかしいだけで。


「……兄上、私はアナスタシア嬢の様子を見てまいります」

「ああ、行ってくれ」


 セオドア殿下がシルヴァ様に声をかけたあと私にも目を向ける。


「……メリディアナ嬢、君は怪我がないようで良かった……命があって、本当に良かった。

 では兄上、失礼します」


 走っていくセオドア殿下。

 ルーク殿下もマクシーナ様の方に向かうだろうか、と思ったら、顔を背けて外に走っていく。

 よほど、彼女のことが許せなかったのだろう。

 

 決闘でちょっとマクシーナ様をこてんぱんにしてギャフンといわせたかっただけなのに……なんだかとんでもない大事件になってしまった。


 これから先のことが気になったけど、それよりもさっきから言いそびれている言葉をシルヴァ様に言わなくては。


「あ、あの! シルヴァ様!」

「ん」

「助けていただいて、ありがとうございました。本当に、ありがとうございました」


 繰り返し、深く頭を下げる。

 その私の手を、シルヴァ様がとった。


「え……あの?」


 跳ねる心臓を必死で抑え、顔に出さぬよう堪えた。

 いったい何事?

 そう思っていたら……シルヴァ様が、私の手に残った焦げ手袋に触れる。


「わ! すみません、手袋……あの、私、自分で」

「待て」


 手を引っ込めようとしたけどシルヴァ様の握力が強くてビクともしなかった。


「シルヴァ様……?」

「少し、君の手に触れていていいか」

「え……えと……?」

「悪い。頼む」


 頼むといわれた瞬間、首を縦に振っていた。

 先に手に触れたのは私の方だし、ほかの男性なら嫌だけど、シルヴァ様に触れられるのは嫌じゃない。嫌じゃないけど、ドキドキする。この気持ちが厄介すぎる。


 手袋をシルヴァ様が外していく。

 外した私のてのひらを、シルヴァ様がまじまじと見つめる。


(うわ……恥ずかしい……)


 私の手は、貴族の女性らしい白魚のような手とは全然違う。薬品を扱ったり、家事も水仕事も力仕事もさんざんやってきた庶民の手だ。武術での拳ダコとかもあるし。


 心なしか、わずかに震えるシルヴァ様の手は、まるで私が生きていることを確かめているようだった。銀の睫毛の先も震えている。


「あ、あの……?」


 そういえばリディって呼ばれた……。

 とっさの時に呼ぶにはメリディアナって長いから、それだけの理由だと思うけど。


「メリディアナ・オーリウィック。俺と」


「────オーリウィックさーん!!!」


 こちらに駆け寄ってくる先生の声がシルヴァ様の言葉をさえぎった。


「ごめんなさいオーリウィックさん! ドラウン生徒会長とウィールさんの治療をしているのですが、我々の魔力では限界があって……!」

「了解です! お手伝いします!」

「ウィールさんの方が危ないので、優先してかかっていただけますか?」

「はい!」


 先生に答え、シルヴァ様に頭を下げる。


「すみません、シルヴァ様。行ってまいります!」

「……ああ。行っておいで」


 混乱することだらけだけど、とりあえず、自分にできる目の前のことをやろう。

 マクシーナ様の方に向けて、私は走り出した。


     ***

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