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離縁まで三ヶ月

読んでいただきありがとうございます

 私の体調不良は暫く続いた。体力がかなり落ちていたらしい。食事も普通のものを食べられるまでに一週間かかり、寝たきりだったので自分で立って歩く様になるまで一週間を要した。


王妃様からもお見舞いの手紙と王宮の薔薇の花束をいただいた。

何故か旦那様の態度が柔らかくなっているような気がして不思議だった。

身体が弱っている者に冷たい態度は流石に取れないのだろう。

昔憧れていた人が現れたようで心が浮足立ったが、つかの間の幻だと蓋をすることにした。



一週間も私の側で仕事をされていたら愛人様は怒っているだろうなと思ったが、自分の身体のことが最優先だったので考えるのを止めた。


久しぶりに話しかけられた。お礼を言う良い機会だ。

「この度はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。看病までしていただきありがとうございました。おかげさまでこの通り良くなりました。旦那様のおかげですわ」

「無茶はしないで欲しい、寿命が縮まるかと思った。君のブランドはとても名前を上げているようだが、健康であってこそだ」

寿命が縮まるって縁が切れると援助が無くなるからからよね。


「その通りですわね、これからは気をつけます。領地の立て直しはいかがですか?」

「おかげさまで上手く行っている。子爵家が派遣してくださった文官達が優秀で事務のやり方を教えられている」

「それは何よりですわね、領民の方に早く今まで通りの生活を取り戻していただかなければなりませんもの」

「君は優しいのだな。領民の事を考えてくれるのか。そう言えば仕事以外の時は何をして過ごすのが好きなのかな?」

少しはお飾りの妻に興味が出たということかしら。


「洋服を作る以外でしたら観劇も音楽鑑賞も街へ出かけてブラブラするのも本を読むのも外にお食事に行くのも好きですわ。旦那様はどういった事がお好きですの?」

「遠乗りや剣術、弓を射ることや本を読むことは好きだ。美味しい食事は良いと思う。そう言えば君と食事を摂る事も少なかった。あと少しの結婚生活だ。全部はできないだろうが食事やお茶は誘ってもいいだろうか?」

「旦那様がよろしければ」


今更関係を改善する意味が何処にあるのかわからないが、伯爵夫人として恩恵を受けている以上旦那様の意思にはある程度従わなくてはならない。私は笑顔を貼り付けた。


身体が楽になったので王妃様へお見舞いのお礼を薄い桃色の最高級の紙で作った封筒と便箋を使って、失礼のないように書き王宮に届けてもらった。

せっかく培った王家とのご縁を大切にしなくては商人の名が廃ると言うものだ。




こうして朝食と夕食を一緒に食べることになった私は何を話題にするのか困ってしまった。共有の趣味である読書の話が良いと思ったが私の好きな本と旦那様の好きな本は違う。

まず本の種類の話から始めることにした。私は恋愛小説やミステリー小説が好きなのだが、旦那様は経営の本や冒険物語が好きだとのことだった。私も経営の知識は必要なので理解はしているが、領地経営に口を出す気は毛頭無いのでそこはスルーさせて貰うことにした。



違う分野の本が好きだと分かった時点でこの話題は諦めた。好きでもない本を読んでも無理が出るだろうと思ったからだ。残り少ない結婚生活で無理に親睦を深める必要もないしね。



なので庭を歩くのはどうかと誘ってみた。伯爵家の庭は荒れていたが庭師を雇ったのでかなり整ってきている。

ゆっくりとしたペースで散歩をすることにした。

「ここも綺麗になってきましたわね。元のようなお庭になるのもすぐですわ」

「君のおかげだ、心にゆとりがなかったからほったらしになってしまっていた」

「領地のことをお考えになっていたのですもの当たり前ですわ」


愛人様のこともね、という心の声はもちろん我慢した。何故今ごろになって親睦を深めるようなことを思いつかれたのだろう、罪悪感かしら、理解不能だ。


決して絆されないようにしよう。辛くなるのは御免だわ。

ぼんやりそんな事を考えていると

「君はデザイナーとしてすごい才能を持っていたんだね、それなのに僕なんかと結婚して申し訳ないと思ってる」

あら、まともな感覚も持っていらっしゃった。少しだけ見直してもいいかもしれない。


「貴族として家の役に立つことは当たり前のことですわ。この社会では残念ながら結婚していることが一人前の条件ですわよね。それに伯爵夫人として扱われるようになってから皆様の私への扱いが良い方に変わってきましたの、地位って凄いと思いました」

「君の頑張りの賜物だと思うけど僕にも役に立つ事があったのなら何よりだよ。君に何か恩返しが出来たのなら良かった」

またまた、まともな事を言われた。


「今度の宮殿の夜会で王妃様のお支度のお手伝いに参りますの、伯爵家の地位があったからだと思っておりますわ」

「君自身の力だと思うよ、没落しかけた伯爵家の力なんてあるわけもない」

「そういうことにしておきましょうか」

今日の旦那様はまともな事を沢山言われた。まあマイナスだったのが零くらいになっただけだけど。



旦那様との交流は穏やかに過ぎていった。領地の立て直しも上手くいっているようで何よりだ。この分だと予定通り一年で離縁出来そうだ。


お父様もいきなり支援を打ち切ったりされないだろう、多分だけど。



宮殿での夜会はデザイナーとして行っているので、貴族としての参加は免れた。旦那様に招待状が来ていたらしいが、妻が仕事で伺っておりますので欠席でと返事を出されたらしい。ここでも常識を出してくださったようだ。愛人様を連れて出席でもされたら私の面目が丸つぶれだった。ドレスの価値も下がってしまう。



優しい王妃様は笑って「仲が良いのね」とおっしゃってくださったが、誤解ですと言うわけにもいかず笑って誤魔化した。



王妃様にドレスを着ていただき細部を調整した。ほっそりとしたお姿はコルセットを着けておられないとは信じられないくらいだった。

満足された王妃様と陛下ににお褒めの言葉をいただいた。これで王室御用達の看板が大手を振って掲げられる。ショップの皆がどれだけ喜ぶかと思うと感慨深いものがある。


王妃様は女神降臨と言えるくらいオーラがあり目が潰れてしまうのではないかと思った。

陛下は国の正装に身を包まれて堂々としていらっしゃった。

とてもお似合いのお二人だと国内外で評判だ。仲の良い事で有名なのだ、羨ましい。幸せオーラを分けていただきたい。



旦那様と離縁したら悪い噂になってしまうのだろうか。ただ憧れの人と結婚したかった幼さ故の判断の過ちでこんなに苦しむことになるなんて、あの頃の私には理解できていなかった。



そうだ、外国へ支店を作るのもいいかもしれない。無理に国内にこだわる必要はないのだから。離縁までの間の後三ヶ月を悔いのないように過ごさなくては、また前を向くことにした。


国外で我が家の商会の支店があるところが何処か詳しく調べ直さなくてはいけない。知り合いのいない国はハードルが高い。サウザンド商会があれば力になってくれるだろうと踏んでいる。


私が言葉を話せ、暮らしやすい国を探さなくてはならない。




取り敢えず屋敷に帰ることにした。王妃様の近衛騎士の方に馬車まで送っていただいたので、丁寧にお礼を言っておいた。

多分私なんかより身分の高い方なのだろう。申し訳がないが仕事だと諦めていただく他はない。



何故かとても疲れてしまった。帰ったら直ぐに寝よう。以前の様に倒れてしまっては困る。

屋敷に帰った私は侍女に着替えを手伝って貰い休むことにした。


ぐっすり眠っていた私は旦那様が悲しそうな目をして髪に触れていることなど気がついていなかった。




誤字報告ありがとうございます


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