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オリバーの真実

お読みくださりありがとうございます

 オリバーは幼少の頃に高熱を出して一週間寝込んだ。その時に診てもらった医者に子種が無くなっているかもしれないと両親が言われたそうだ。

残念な事に妹や弟は生まれなかった。いざとなったら親戚から後継は貰うから心配しないように昔から言われていたので、まさか自分が結婚するなどとは思っていなかった。



あの災害がなければビビアンに無理を言って結婚して貰うこともなかったのにと今でも思っている。だから白い結婚のままで一年を過ごそうと思っていた。

言いたくもない「君を愛することはない」と言う酷い言葉を言ってビビアンを傷つけたくはなかった。でも手を出すわけにもいかないので言うしかなかった。

もっと他の言い方があったのではないかとオリバーは今でも後悔している。



婚約者の初顔合わせで会ったビビアンはとても可愛い人だった。こんなに素敵な人を不幸の道連れにするわけにはいかない。一年で解放してあげられるように何とか領地の立て直しを頑張らねばならない。


オリバーは領地のことを考えると苦しかった。でも政略結婚の犠牲になったビビアンの方がもっと辛い思いをしている。せめて泥水は自分が被ろうと思っていたのに夜会でビビアンがあんなに陰口を言われているとは思わず自分の甘さを痛感した。





どこの令嬢か覚えておいたので、伯爵家として抗議を送っておいた。

一年でも社交界に出てこられなくなった令嬢の行く末は知れている。

まともな縁談は二度と来ないだろう。




八ヶ月経ち、結婚生活も後四ヶ月を残すばかりとなった。領地の方も立ち直る兆しが見えて来ていた。



※※※



ビビアンは地道にデザインを考えたり実際に縫ってもらったりして、コルセットが無くてもスタイルがよく見えるドレスを作り始めていた。

王都の一等地に店舗を買い縫製から販売までをトータルでやるドレスショップを作った。



最初のモデルは自分である。伯爵夫人としてお茶会に参加する時に自分のドレスを着て行ったのだ。サウザンド商会とスターレイル家が後押しとなりビビアンは以前より社交界に受け入れられるようになった。

着ていたドレスを褒められるようになり、コルセットを着けていないと言うと更に驚かれた。それがビビアンのショップだと言うとまた驚かれてしまった。次々に自分にも作ってほしいと頼まれてしまった。



迎えはオリバーに来てもらうので仲の良さをアピールすることになりドレスの注目度も格段に違ってきた。今までコルセットで締め付けていたので太った婦人や令嬢がそれほどいなかったのも幸いした。





ビビアンのショップはビビーとして誰もが知る一流メゾンになっていった。

生地はサウザンド商会から仕入れるので一流の物が手に入る。職人もビビアンのデザインを面白がってくれる者ばかりだった。


ぽっちゃりした女性用もメゾンが軌道に乗れば作っていきたいと考えていた。年と共にきつく締め上げるのが苦手になってくる人の話はよく聞いていたからだ。


最高の名誉は王妃様からの注文だった。外国の王族を招いた夜会で着たいから是非にと指名が入ったのだ。ビビアンは全力を挙げて制作に専念することにした。

子爵令嬢の時はお城には入ったことがない。これも伯爵家に嫁いだおかげかと一瞬思ったが、今はデザイナービビーとして誉れあるこの仕事を完遂させようと前を向くことにした。



王妃宮は壮大で雅やかな宮殿だった。足を踏み入れた瞬間からあまりの絢爛豪華さに目眩を覚えたが、日頃の貴族教育を思い出しどうにか耐えた。


王妃様はとても綺麗な方だった。教会の女神像が出現したような気がした。


纏っているオーラが違うのだ。女神に近い方だと思った方が良いとビビアンは自分にそう言い聞かせた。この方をこれ以上美しく魅せるドレスなどこの世に存在するのだろうかと思ったが逃げ出すわけにはいかない。



恐れ多くも王妃様のサイズを測らせていただき、デザインのご希望があるかどうかお聞きした。なるべく露出の少ないようにとの仰せだったので、シンプルでいて優雅に見えるデザインをさせていただいた。お見せするとそれで作ってほしいと仰ったので帰って製作を始めることにした。



陛下の髪の色である白銀の生地に瞳の色の黒をアクセントにしたマーメイドドレスが出来上がる予定だ。上半身にパールを取り付け上に視線を集めた。赤いルビーのテイアラとイヤリングにダイヤモンドのネックレスを着けられるとお聞きしているのでドレスの出来上がりに自信もあったが不安でもあった。


ほっそりとした王妃様が着られるととてもお美しいのではないかと密かに考えていた。仕上げは夜会の前日に王妃宮で行う予定だ。それまでは宮殿で秘密裏に仕舞われる。仮縫いも信用のおけるメゾンの者しか室内には入れない。護衛が扉の外に三名立つことになっていた。



陛下の色を纏うことが出来るのは王妃様だけなので色被りはないと思うが、もしものときのために黒を基調としたシックなデザインのドレスも作らせていただいている。もう一着白の小さなダイヤモンドがキラキラと光るようなドレスも作ってある。不届きな輩がワインや水を零したりする事故がたまに起きると王妃様付きの侍女に聞いたためだ。



こうして王妃様のドレスの為に全力で頑張ってきたビビアンは、体力の限界を迎えていたので今日は家に帰って休もうと思っていた。三日ほど屋敷に帰って休めば疲れが取れるのではないかと思ったが、休みなく走ってきた身体は悲鳴を上げていたらしい。玄関にたどり着いた途端倒れてしまった。



そのまま部屋に運ばれ医者が呼ばれた。見立ては極度の疲労だった。ビビアンは目を覚ますことなく一週間眠り続けた。目を覚ました時側に付いてくれていたのはユーナではなくオリバーだった。



「旦那様、何故ここに」

「気がついたのか、良かった。死んでしまうのではないかと生きた気がしなかった。水を飲むかい?」

「はい、飲みたいです。私は一体どうしたのでしょうか」

貴方は私には興味の欠片も無かったはずでしょう。それなのに心配するような顔で見つめてきてどうされたのかしら。ああ、仲良しアピールかしら。屋敷の中まで必要は無いのに万が一お父様に報告が行くと不味いですものね。




ゆっくり身体の後ろにクッションをあてがってもらい、水を飲ませてもらうと身体に染み渡るような気がした。

「君は働きすぎだそうだ。屋敷に帰るなり倒れた。使用人が慌てて知らせに来て驚いてしまった。休みを取りながら働いているとばかり思っていたのにこんなになるまで働くなんていけないよ」

「王妃様のドレスのことがありまして、頑張りすぎてしまいました。一段落ついたので屋敷に帰って休もうとして扉を開けてもらったのまでは覚えているのですが、それから記憶がありません」

「君はとんだ仕事人間だったんだね、ユーナが付いているから安心していたのに困ったものだ。そうだスープを飲むだろう?果物も持ってきてもらおう」


旦那様にしっかり叱られた私はスープを飲ませてもらい、果物を食べさせて貰ってようやく人心地がついた。一人で出来ると思ったが腕が震えてスプーンが持てない状態だった。


ユーナを呼んでもらい体を拭いてもらいもう一度眠ることにした。寝間着を着替えさせてもらった私は、旦那様に寝間着姿を見られたのを今頃になって気が付き恥ずかしくなってしまった。ユーナに聞くとこの一週間殆どこの部屋で仕事をされていたとか。明日はもっと食べてお風呂に入りたいとぼんやりした頭で思いながらまた眠ってしまった。



◇◇◇◇◇


ビビアンを解放するまで後四ヶ月になった。彼女の可愛さと仕事に打ち込む姿は心を打つものがある。私も父上と力を合わせてこの難局を乗り切らなくてはいけない。義父が貸してくださった文官の方はとても優秀で仕事がはかどり、勉強になっている。出来るだけ早く底辺から抜け出してビビアンを解放してあげようと思う。彼女は素晴らしい人なのだから僕には勿体ないと思っている。


誤字報告ありがとうございます

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