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失敗した結婚

よろしくお願いします

5話くらいで読める作品にしようと思っております。

毎日更新します。

 憧れの人と結婚できる、それだけで舞い上がってしまった私はなんと愚かだったのだろう。たとえ好きになってくれなくても側にいられれば幸せだと思っていた。夫のオリバー・スターレイルは伯爵家嫡男で文武両道で容姿も整い社交界でアイドル的な存在だった。彼はいつも令嬢が取り囲んでいたから話もしたことがなかったというのに。



彼の家は先の災害で没落寸前まで行っていた。そこで目をつけられたのが国でも有数の資産を持つ我が家だった。しかも格下の子爵家。我が家は先祖代々人を見る目に長けており商売でその才能を発揮して、巨万の富を築いていた。

今やサウザンド商会なしにこの国の経済は立ち行かないほどになっていた。



そこへ縁談話が持ち込まれたのだ。最初は格上でも断るつもりのお父様だったが、伯爵家を助けて縁を繋げておけば社交界で立ち回りやすくなると踏んだのだと思う。それに上手く乗せられたのが私、ビビアンだった。お父様の名誉のために言っておくと娘を駒として扱うつもりではなかった。


その証拠に娘が不幸だと分かった時点で支援は打ち切るという契約書をきちんと交わしていたのだから。

出戻っても私の持参金は返してもらうことになっていた。

これでも商人の娘だ。損得勘定は出来る。転んでもただでは起きない自信があった。




オリバー様との交流は月に一度。当たり障りのない会話をすれば直ぐに終わってしまった。手土産は季節の花束だった。あんなに令嬢に囲まれていたオリバー様にしては女性の扱い方がお上手ではない。私に余程関心がないのだと思ったがそれにしても最低限のことはしてくださらないと政略の話は直ぐに打ち切りになる。自分から言うわけにもいかず私は困ってしまった。



夜会に参加しても、金でオリバー様を買った女と貶められる。伯爵家からの要望だったのにもかかわらず、庇ってもくださらない。元婚約者のフランソワ様とご結婚が間近だったのにという声まで聞こえてくる。その方はスターレイル家が傾きかけた途端裕福な侯爵家の後妻に入られたのではなかったのではないかしら。



この婚約は失敗だったかもしれないと悟った私はこれからの対策を考え始めた。

自分の迂闊な判断が起こした結果だ。結婚して子供が出来たら別れにくくなるかもしれない。避妊薬だけは用意しておくことにした。



そして結婚式を終え夫婦の寝室でオリバー様が来られるのを待っていた。夜着はごく普通のものを着ている。初夜仕様ではないので落ち着いていられた。オリバー様はあの言葉を言うのだろうか、変な期待が高まってしまう。




オリバー様は部屋に入って来られるなり

「私は君を愛するつもりはない。だから何も期待はしないでくれ。君の尊厳は守らせて貰う。一切触れるつもりはない」

と言われた。


私は小説でしか目にしたことがない言葉を直に聞く事ができ、俯いて可笑しさで肩を震わせていた。きっと愛人がいるのだろう。

でも、我が家が支援しているお金で愛人を囲うのは勘弁してもらいたい。


泣いてると思ったのだろう。オリバー様は

「君には申し訳のないことをしていると思うが一日も早く伯爵家を立て直すつもりだ」

とのたまった。私は顔を上げ

「では白い結婚ですわね、一年我慢すれば離縁してくださいませね。書類を作ってありますの。サインをお願いいたします」

「用意がいいのだな」

「婚約時代の伯爵令息様の態度でもしかしたらこうなるのではと予想しておりました」

「それは申し訳なかった」

「いえ、家の為に結婚をされるのは普通の事かと思います。愛する方がおられるのに私の無知が招いた結果ですので仕方のないことかと思っております。でも私の家からの支援金で愛人様を囲うのはおやめになってくださいませ。父に知られると直ぐに支援金が打ち切りになります。計算高いように見えて私のことを大切に思ってくれておりますので」

「貴女の家に助けられているのに不実で返すなどしない。愛人など囲わない。しかし私が言っていることは不実でしかない。なんと言ってお詫びすればいいのかわからない」

「では、愛人様の事はお任せいたします。結婚前に別れておくのが貴族としては当たり前なのですが」



最後の方は小さな声になってしまった。愛されない結婚など嫌だし、誰かを抱いた身体に抱かれるのも吐き気がして嫌だった。一生一人で生きていくのもありだろう。幸い溢れるほどの資金は持っている。


実家の侍従に頼んで用意しておいた獣の血をシーツに撒いておいた。これで愛されない妻という事実は隠蔽された。青い顔をしたオリバー様が

「随分と準備がいいんだね」

と呟いていたが、貴方がまともだったらこんな事をしなくて良かったのですと言ってやりたいのをこらえるので精一杯だった。


「貴女の妻でいる間は大切にしているように振る舞ってくださいませ。呼び方も私のことはビビアンと呼んでくださればそれらしく見えるかと思いますわ。私は旦那様とお呼びしますので」

「大切にするよ」


何を大切にするというのだろう、悔しかった。


「では疲れましたのでお休みなさいませ」

「お休み」



夫が出ていった部屋の中は寒々としていた。

ビビアンは屋敷から連れてきたメイドのユーナを呼びシーツの交換を頼んだ。

ユーナは二十五歳の独身の女性だ。実家の男爵家が子沢山だったため我が家に働きに来てくれていて、私が十歳の頃からの専属メイドだった。



「旦那様から支援を受けておきながらお嬢様へのこの仕打ち、いつか背中を刺してやりましょうか」

と怒ってくれた。

「憧れの人の側にいられるだけで幸せと思っていた、馬鹿な私に罰が当ったのよ。そんなにきれいなものではなかったわ」

「乙女なら夢を見るものでございます。普通のことでございますよ」

「一年したら出ていくからそれまでに色々この立場を利用して、やることが出来たわ」

「お洋服作りでございますね。でもまず今日はお休みくださいませ。お疲れでございましょう。お嬢様のお部屋にベッドの支度がしてございますのでそちらへ参りましょう」

「そうするわ」



自分用に整えられた部屋はクリーム色の壁紙にアンティーク調の家具が配置され落ち着く物になっていた。

色々なことがあったので眠れないかと思っていたが体は疲れていたらしく朝までぐっすり眠ってしまった。



ユーナが起こしに来てくれ朝の支度をすると食事をするために食堂へ向かった。

途中で夫が迎えに来てくれていた。約束を守ってくれるのだろう。

「ビビアン、手を」

と言われた。あまり触りたくはないので、上着の端を少しつまむだけにした。

「腕につかまってくれると嬉しい」

と再度言われたので腕にそっと手を添えるだけにした。



顔は笑顔を貼り付けている。小さな頃からの練習で淑女としての教育は完璧だが、低位貴族と高位貴族の礼儀は違う。家にいる時に礼儀作法は勉強したつもりだが、もう一度家庭教師を付けて勉強し直すのもいいかもしれない。

旦那様にお願いしてみようと思った。



新婚だからか毎晩夫が部屋を訪ねてくるようになった。体面というものは思いの外大切らしい。私がベッドで夫はソフアーで寝る事になった。


伯爵家の立て直しのため専門家を派遣していただくようにお父様にお願いしようかと思うがどうでしょうと聞いたのもそんな夜のことだった。


気分を悪くされると困るのであくまでも下手に出た。

一年で解放して貰うためには手段は選んでいられない。

離縁するつもりの妻に経営内容を知られるわけにもいかないだろうと考えてのことだ。

お父様の知り合いなら文官としての専門知識が素晴らしい。

思いの外感謝されこの話はすんなり決まった。やはり伯爵家の力では一年でというのは厳しいものがあったのだと思う。



誤字報告ありがとうございます。感謝しかありません。

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