グルリネからペースへ 7
石砕きの刃の3人と共に、一夜過ごす。
さりげなく皆でひとりずつ順番に、キュール達が見張りをちゃんとやってくれてるか警戒もしつつ、無事朝になる。
「おはようございます、二リハさん!」
「おはよう。ポリシャとランゾは、まだ寝てるわね。うーん、なら、もう少し寝かせておくか」
「いいえ、そんな気遣い全くいりません。ほら、二人共起きる。朝よ!」
「う、うーん」
「もう、時間か」
2人がゆっくり起きる。私としては、あまり厳しくあたる必要はないと思うんだけど。
「にゃー」
(おら、お前ら。もうキリキリ働け)
「キュー」
(ボク達のために粉骨砕身するんですよ。ふふ、手下を持つって気分良いですね!)
「ピー」
(弱いんだから少しは役に立ちなさいよね)
い、いけないわ。皆の態度が危ない。
ここはちゃんと皆に一言言っておこう。
「モエル、シャイン、ミドリ。彼らは善意の協力者なんだから、仲間として大切にしてあげてね。さあ、それより朝ごはんよ」
皆で一緒にごはんを食べ始める。皆仕方なさそうだけど、まずまず食べてくれる。
「ポリシャ、ランゾ。私達も食べましょう」
「けど、俺はもう食べきったからなあ」
「昨日の間に全部食べるからよ」
「だっていざという時戦えないと困るだろ」
「あのね。今は二リハさん達もいるのよ。戦力的には私達は予備なんだから、勇まなくていいのよ。仕方ないわね。私の黒パン半分あげるから」
「へ、ありがとよ、キュール!」
「まったくもう」
「キュール、あまりポリシャを甘やかせても割に合わんぞ」
「わかってるけど、こいつったら私がいないとどうしようもないんだから」
「おい、なんだその言い草は!」
「はいはい、黒パン食べてだまりなさい」
「むぐっ。もぐもぐ」
あっちもいろいろあるのね。
まあ、今は保存食しかないから、しょうがないか。
「そうだ。キュール、ポリシャ、ランゾ。ペースの美味しい料理を出すお店とか、教えてくれない?」
食べ物といえばということで、話を振る。美味しい店まで彼女たちに案内してもらえれば、更に楽よね。
「え、美味しいお店、ですか?」
「ええ。着いたら皆で食べたいから。どんな料理が美味しいかでもいいわよ」
「だったら肉ですよ、二リハさん!」
「そうなの、ポリシャ?」
「はい。熟練の冒険者達は皆、スタンプホースのステーキを食べています。だから絶対美味しいですって!」
うーん。期待できそうな、あんまりできなさそうな、微妙な意見。
でも、人が食べてるものが美味しそうに見えるっていうのは、わかる。
「そうなの。じゃあ、着いたら頼んでみるわ」
スタンプホースなら、自分でも狩れると思うけど。
あの倒したやつ、ちょっともったいなかったかなあ。
「ちょっと、ポリシャ。すみません。私達、美味しいものとか知らなくて。今の生活でさえ、苦しいから」
「あら、そうだったの。ごめんなさいね。別に、町まで行けたら自分で見て回ることもできるから、知らなくてもいいわよ。自分で見つける楽しさもあるし」
たしかに、3ランクになりたてなら、生活が苦しいのも仕方ない。私は結構稼げてたけど、運もあったし。
「すみません。そう言っていただけると助かります」
「それじゃあ、これからもっと稼いで、いっぱい美味しいもの食べなきゃね」
「はい!」
キュールとポリシャがそううなずいてから、ランゾがポツリと言った。
「料理なら、母さんの料理が美味い」
「え?」
私だけでなく、キュールもポリシャもランゾを見る。
するとランゾは、顔を背けた。
「いや、なんでもない」
「いいえ。良い家族ね。家族の自慢ができるって、羨ましいわ」
「ありがとうございます」
私が褒めると、ランゾはボソボソとそう言った。
「二リハさんの家って、どんな感じなんですか?」
「バカ、ポリシャ!」
「いいわよ。別に。キュール。私の家は、動物を狩ったり薬草を取ったりしてて暮らしてて、すっごく貧乏だったわ。食べるのも野草がほとんど。たまに黒パンか、肉」
「そ、そんなにひどかったんですか?」
あ、ポリシャが引いてる。
私は思わず笑った。
「町から遠く離れた小さな村の生まれでね。そこではそれが普通だったわ」
村中の人皆が、貧乏が普通。何時だって今日食べるもの、明日食べるものを探してる。
けれど別に、私は私の村を恥ずかしいとは思わない。
それが普通だったし、私は家族も村の人達も、嫌いではなかったからだ。
むしろ好き。皆生きるのに大変だったからこそ、同じ村人としての仲間意識、団結力もあった。
けれど同時に、本当に何もない場所だったとも思う。そこだけは本当に、否定のしようがない。
いろんな町を見た後だと、尚更そう思う。
「たまにうさぎをとってきても、それをそのまま冒険者ギルドに売って、そのお金で数日分の黒パンや道具を買うような、そんな暮らし。他の生き方なんて知らなかったし、なれるものだとも思ってなかった。だから、今私は冒険者をやれていて、凄く、恵まれている」
「に、二リハさんには才能があったんですよ!」
ポリシャがそう言ってくれるけど、それさえも、たまたまの話。
「たしかに、才能もあったかも。でも、それだけじゃ今の私にはなれなかった。運と、出会いと、努力と、覚悟。いろいろ必要だったわ」
もし、ガラス職人のファードがきっかけで、私が恋を自覚していなかったら。いえ、働かせてもらったレストラン、プラムローナーでお客さんから大金をもらっていなければ。今の私はいなかっただろう。
それだけじゃない。モエル達や、ジュージ達との出会い。たくさんの運命が私に味方してくれた。
私は、私だけの力でここまできたわけではない。
けれど同時に、私はここまで来れたのだから。
だからこれまでと同様に、私は未来を信じよう。
ただ漠然とじゃなく、しっかりと前を向いて歩き続ける。
ゴールがどこにあるかはわからない。でも胸の中に希望があるから、不安にはならない。信じられる。
この気持ち、どうにかしてこの子達にも伝えたい。
けど、長々と語る気はない。
だから短く、少しだけ。
「とにかく、諦めないことね。努力も備えも目的も、手放さなければ、少しずつでも未来は変わる。どんなピンチも、どんな困難も、乗り越えられる時は乗り越えられるものよ。そして、あなた達はまだ強くなれる。そのための努力を惜しまないで」
「はい!」
「うん。良い返事。それじゃあ食べ終わったら行きましょう」
ちょっと、ガラにもないことを言ってしまったかもしれない。
でもまあ、たまにはいいわよね。
そしてその後も大したモンスターは現れず、ホクア領の町、ペースに着いた。




