ミドリ 1
カクラでゆっくりした後、私達は旅を続けた。
幸い、大したモンスターは出てこなかった。現れたモンスターのほとんどはモエルがやっつけてくれる。
「にゃあ」
(ふん。この程度か)
「今日もありがとう、モエル」
「きゅー!」
(かっこいいですよ先輩!)
「にゃー!」
(当然!)
モンスターに関しては、何も問題がなかった。
旅のルートについても、特に言うことなし。
というか、再び村、宿屋、村という交互な日程になったのだ。なんでも、ファイアグラスが現れる草原は避けられていて、後は普通に村がぽつぽつとあるらしい。
山でも荒れ地でも、モンスターがよほど現れない限りは村がそれなりにあるものらしい。特に、町と町を結ぶようにしっかりと開拓されてあるものなようだ。
私はそんなことは今まで知らなかったけど、ある村で話し好きの村長が教えてくれた。村長は、領主から村の維持費なんかをもらえることがあるらしい。冒険者ギルドの運営も、領主が手を回してくれているそうだ。
領主が町や村を守る代わりに、各村はその地の産物や道の安全、宿や食料を確保する。そういう関係が成り立って、私達の暮らしがあるようだ。
私の村も、あの領主に守られていたんだろうか。
いや、それはないな。あいつは最低のクズ野郎だったし。
とにかく、私達の旅は順調に進んだ。
各村を通った際、カルファは焦らず度々休み、手袋を繕う仕事をしながら日々の生活費を稼いでいった。
私も冒険者ギルドに寄りながら、生活費を得る。グルリネまでは長いけど、無理と危険は無い良い旅だった。
「ところで、カルファからの報酬は今のうちにもらえないのかしら。万が一の時、あてにしたいんだけど」
「すみません。実は二リハさんへの報酬は、グルリネにあるんです。アラケルの冒険者ギルドで、預けたお金をグルリネでもらえる銀行サービスを使いまして。なので報酬は全額、無事俺を送り届けてからとなります」
「なるほど。そんなサービスもあったんですね」
「ええ。大金を持って旅をするのも危険ですから。それに、万が一二リハさんに払えなくなったら目も当てられませんし」
「そういう言い方もあるわね。まあ、いいわ。報酬がちゃんともらえるんなら、文句は言わない。報酬も6万シクルだしね」
「グルリネに着いたら、すぐにお渡ししますね!」
「ええ。でも、一息ついたらでいいわよ。やっぱり旅ってつかれるでしょ。今のところお金に困ってもないし」
欲しいものはあるけど。
「そう言ってくれると助かります。ですが、今はまだ体力はありますよ。今日もできるだけ進みましょう!」
「ええ、そうね」
「にゃー」
(またあの焼き魚が食べたいなー)
ああそうだ。モエルに新しい好物ができた。
煮干しというやつだ。魚を気に入ったみたいだから、カクラで魚の保存食がないか探してみたのだ。
そうしたら、煮干しがあった。モエル曰く、焼き魚の方が美味しいらしいが、出したら食べること食べること。結構高かったので、毎日少しずつ出して、丁度昨日食べ終わったところ。
今日のモエルはごはんの干し肉を見るなり、魚が食べたいとつぶやく。そんなに好きなら食べさせてあげたいけど、カクラ以降全然魚が手に入らないのよね。周りに水辺が無いみたい。
町に行けば手に入るだろうか。ちょっと期待しておこう。
そんな感じで旅を続けた私達は、道の途中の町もほぼ素通りし、とうとうグルリネの近くまでやって来た。
ちなみに煮干しは、町でも見つからなかった。
「ピー!」
「ピピー!」
空からモンスターがやってくる。
見た目黒色の鳥だけど、こちらをおそってくるからモンスターだろう。私達は身構える。
でも、相手が空中にいる以上、私だけでは対処しづらい。
「モエル、お願い!」
「にゃー!」
(火魔法!)
モエルの火魔法が鳥を一羽倒す。一方もう一羽は、カルファをおそった。
「ピー!」
「うわあ!」
「サポートガード!」
私はギリギリカルファの元へ駆け寄る。そして鳥を一撃で倒した。
どうやら、強い敵ではなかったようだ。1ランクだろうか。
「ふう、助かりました」
「カルファ、もしまた鳥型のモンスターが現れたら、私が近くで守ります。だからカルファも、私の背中に隠れて」
「は、はい。よろしくお願いします」
カルファを守りきれなかったら、護衛失敗だ。
ここまで来てそんな失敗は嫌だから、次もまた鳥のモンスターが出たら気をつけよう。
「幸い、この程度なら私達でなんとかできます。このまま進みましょう」
「はい。あ、倒したモンスターは、素材を持っていきますか?」
「それなんですが、このモンスターは初めてで。討伐証明部位も知りませんし、今はスルーしましょう。先へ進むのを重視で」
「はい。わかりました」
ちょっともったいない気がするけど、どう持っていけばいいのかもわからないし、今はこれでいいよね。
「あ、でも。倒したのは鳥モンスターですよね。食べられないでしょうか?」
「食べますか?」
「そうしたら、食料を減らさずに済むかなー、なんて」
「でも、次の村もすぐありますよね。それに保存食を食べればその分荷物が軽くなりますし、別に残しておくべきものでもありません」
今はサバイバル生活をやっているわけでもないしね。
「ああ、そうですね。では、行きましょう」
ここから先は、頻繁に鳥モンスターが出てくるようになった。
ひょっとしたら、この辺に多いモンスターなのかもしれない。
私は剣を使っているので、飛んでいるモンスターに攻撃する手段が無い。そう言ってもいいくらい無力だ。
幸い、近づいてきた鳥モンスターを斬るくらいはできる。でもそれはどうしても後手だし、空を飛ばれるとカルファを守りづらい。だから鳥モンスターは非常に厄介だった。
頼れるのは、モエルの火魔法。更に万が一カルファが攻撃を受けた時の、シャインの回復魔法。
このふたりのおかげで、今はなんとかなっている。やはりふたりは心強い。村に着いたら夜はゆっくり撫でてあげよう。
鳥モンスターはよく現れるけど、一度に出てくる数は少ないので、なんとかなっている。このまま行かせてくれればいいのだけど。
そう思っていると、日が暮れる前に一羽、緑色の鳥が現れた。
「ピイイー!」
その鳥は高い声で鳴いて、私達の上空を旋回した。
「あれもモンスターですか?」
カルファがあるきながらも困惑する。
「そうです。たぶん。普通の鳥じゃないでしょう。けど、何もしてこないなら、このまま進めば」
そこまで言った直後、空からなにか降ってきた。
「きゅー!」
(ギリギリセーフ!)
シャインがそのなにかを避ける。
それは、木の枝だった。
「それは、どこから?」
「ピイイー!」
私の思考が一瞬停止した直後、更に尖った木の枝が上空、鳥の方から降ってきた。
私は兜をかぶっている。だから、上からの攻撃にはそれなりに強い。
「にゃあ!」
(当たるか!)
「きゅー!」
(痛いのは嫌ですからね!)
モエルとシャインも、きっちり見切ってかわしている。
「ううう!」
けれど、カルファは違った。
「カルファ!」
カルファの右肩に2つ、尖った木の枝が突き刺さった。
私は慌てて叫ぶ。
「シャイン、回復をお願い!」
「きゅー!」
(わかりました、回復魔法!)
シャインの魔法の力で、カルファに刺さった木の枝は自然と抜け落ちた。助かった。今だけは。
もしかしてこの枝は、次も降ってくる?
「カルファ、走って!」
「は、はい!」
私はとにかく移動しようと決めた。
少なくとも、立ち止まって的になるよりはマシだと思う。
「モエル、上空のあいつに火魔法は届きそう?」
「にゃあ!」
(やってみる、火魔法!)
試してもらうが、やはり無駄に終わった。相手との距離がありすぎる!
「ピイイー!」
そして鳥モンスターは優雅に旋回を続けながら私達を追い、木の枝をふらし続けた。
これでは万事休すだ。どうする、私。




