カクラ(カルファ編)
俺はカルファ。彼女募集中の手袋職人。
職人の腕としては、なかなかな方だと思う。下積み時代を終えてからは仕事に困ったこともないし、お金に困ったこともない。
今は旅の都合上やや金欠気味で、しかもたった4日歩いただけで体がくたくたになってしまっているが。
まるで足が棒にでもなってしまったかのようだ。このまま旅を続けられるか少し不安だが、男である以上途中でやめたくはないし、二リハさんにはかなり気遣ってもらっている。苦しくてもいい、なんとかグルリネへたどり着きたい。
目覚めるともう太陽は昇っていて、二リハさん達はいなかった。
こんな遅い時間に起きたのは久しぶりだ。そう思いながら起きて、ボーッとしながら宿の朝ごはんを食べに行った。
起きたらごはんが待っているなんて、なんて贅沢な日だろう。買い置きのパンやチーズとかじゃない。ちゃんとベッドで寝たおかげか、体も幾分楽になっていたし、今日は朝から感動した。
朝ごはんを食べていると、途中で二リハさんが来て、俺に言った。
「カルファ。私これから川に行くんだけど、当然カルファも行くわよね」
なぜ行くのが当然なのだろうか。
正直、今日はまる一日あるきたくないな。って思った。
でも、それだと二リハさんに悪いので、結局は行くことにした。
まあ、今日はきっとそんなに疲れないだろう。
川に行く人は、大勢いた。
数人の成人の男女と、多くの子供たち。特に子供たちは元気だった。
「子供も行くんですか?」
村長の息子のスクエアさんに聞いてみると、彼はにこやかに答えてくれた。
「ええ。夏は暑いですからね。水遊びさせたやりたいんですよ。親御さんもわかっています。皆子供の頃は、そうやっていましたしね」
「なるほど」
どうやらこの村ではこれが日常のようだ。
はしゃいでいる子たちを見るとなんだか新鮮な気分になる。今まで手袋を作ることと売ることしかしていなかったからな。旅も初めは新鮮な気持ちだったけど、今日はまた違った気分だ。
ひょっとしたら自分は、今まで仕事だけにかまけていて、他のいろいろなことをしてこなかったのかもしれない。
これからは仕事以外のこと、趣味なんかももった方が良いかもしれないな。そう思いながら、今日二リハさんに誘ってもらったことに感謝した。
川には思ったより早く着いた。
きれいな場所だった。モンスターもいなさそうだ。子供たちは更に騒がしくなる。
そしてここで、俺たちは3グループに分かれることになった。この場に女の子達、下流に少年達、上流に大人の男達だ。
大人の男は上流へ行くらしい。俺はその指示に従って、大人と一緒に川をのぼっていった。
するとその時、一緒に俺たちと来ている女性を見つけて、思わず言った。
「あの、こっちには男性だけが行くのではないのですか?」
「え? ああ。正確にはね。上流に行く人は、釣りをしに行くの」
女性は持っている竿を揺らして答えた。
「釣り目当てが上流。水浴びはその下流で離れる。なにかあった時のために女の子が真ん中。冒険者は子供たちと一緒。私達は、大人だから少しはなんとかできるから」
「そうだったんですか」
「あなたは、川で涼みにきたのよね?」
「ええと、はい」
「なら、男の子たちと一緒に下へ行くべきだったわね。釣りは静かにやるものだから。騒ぐのはもちろん、川に入るのもダメよ。魚が逃げちゃうから」
「そうだったんですか」
なるほど。だったら俺も、下流へ行こう。
「教えていただきありがとうございます。では俺も、水浴びに行ってきますね」
「ええ。楽しんできて」
俺はすぐに踵を返して、下流へと向かった。
早く気づけて良かった。すぐにスクエアさん達を見つけよう。
少し戻ると、川の方から少女達のはしゃぐ声が聞こえてきた。
「わあ、二リハさんすごーい、きれいー!」
「二リハさんの肌しろーい!」
「あなた達の方が若くてきれいよ、って、皆結構日焼けしてるわね。そっか、皆鎧なんて着ないし、外で遊び回ってるか」
「いいなー。二リハさんって男選び放題でしょー?」
「誘惑しまくりなんでしょー?」
「そんなことないわよ。それより、水気持ち良い!」
ドキッ。
い、今、すぐ近くで、二リハさんが裸で川の中にいる?
それも、少女たちと一緒に?
なんだか凄く、頭の中がカッとした。
いやいや、待て、落ち着け俺。
自然と川の方を見そうになった顔を、慌てて反対方向へと向ける。
ここで見たら、俺、男として最低だろ。
覗きとか、良くない。絶対やっちゃダメだ!
「二リハさん、えーい、それそれ!」
「きゃあっ、冷たい。やったわね!」
「きゃはははっ!」
うう、二リハさん達の声を聞くと脳が痺れる。
ええい、静まれ、俺の高まり。二リハさん達のことを考えちゃダメだ。
だって、今は裸で、あんなところやこんなところも、無防備なわけで。
いいや、落ち着け。いつもの二リハさんを思い出すんだ。
二リハさんはおしゃれでかっこいい鎧を身に着けた冒険者で。
んー、これだと暑苦しいな。
いや、待てよ。このイメージの二リハさんに夏らしい服を着せてみたら?
こう、普通の服じゃなくて、水着のような。ピッチリした、眩しいものを。
お、良い。これは良いぞ。
特にお腹、おへそなんかが見えたら、素晴らしい。男は皆誘惑されるんじゃないか?
いや、待てよ。逆におへそを隠すのもありか?
そして、背中だけパックリ開いているとか。こ、これは凄い!
どうしよう。俺は今、新しい、大胆な服や水着を考えついてしまった。
そうなると、実際に見てみたくなるのが男というもの。正しい衝動。こんなもの、想像だけで終わらせるのはもったいない。
俺は今まで手袋しか作ったことないけど、いけるか?
グルリネについたら、ちょっとチャレンジしてみよう。
そうなったらイメージの水着なんかは二リハさん以外の人が着るかもしれないけど、それはそれでありだ。
何より思いついてしまった以上、やってみるしかない。
俺はまた新たな目的を持ってしまった。
恋人探しも本気だけど、水着作りも準備ができ次第取り掛かろう。
だって、夏は暑いから。
この暑さがいけないんだ。二リハさん、ありがとう。直接言いはしないけど、あなたのおかげで新たな目標ができたよ。
その後俺は、下流で少年達と一緒に熱の高まりを冷やした。
川って凄く気持ち良い。本当に来て良かった。
「あの、スクエアさん。俺実は、お金、いえ、仕事について相談したいんですけど」
「ん、なんですか?」
「そのですね、今日のこの休みも予定にはなかったもので、その分お金に困っているのですが。俺は手袋職人なんで、手袋の簡単な破けた穴とか、直せるんですよ。ですから、そんな些事があればやらせていただけませんか。お代は少なめでかまいませんので」
「いいんですか? 実はうちに丁度繕ってもらいたい手袋があったんです。お願いできますか?」
「はい。喜んで!」
「では、お願いします。あと、よろしければあなたの仕事を、他の家にも紹介してもよろしいですか?」
「はい、ぜひお願いします!」
帰りに試しにお願いしてみると、スクエアさんはすぐに力を貸してくれた。
そのせいで、カクラでの滞在日数がもう1日のびたけど。予想より多い手袋を直して、俺はなんとかこの村での収入と支出をプラスマイナス0にすることができた。
二リハさんも喜んで滞在してくれて、その間俺は働きながらも、十分な休みを得ることができた。
あと、この村の魚は本当に美味しかった。
こうして、旅に出て良かったと思えることが、また1つ増えたのだった。




