カクラ 3
川に行く村人の、半数以上が子供だ。
子供が村の外へ出ていいのだろうか。いや、私も小さい頃はよく村の外へ行ったけど。
でも皆笑顔で、というか私達に興味津々で、警戒心がない。ちょっとモンスターの脅威をなめすぎではないだろうか?
「お姉さん、きれい、かっこいい!」
「女でも強いんだろ。なあ、村のダッジさんより強いのか?」
「剣かっこいい。帽子もイカしてる。やっぱ外の冒険者はダッジさんと違ってかっこいいな!」
「猫可愛い、うさぎも!」
「ねえ、この子なでていい?」
「にゃあ!」
(なんだお前、近づくな!)
「きゅう!」
(こいつらボクを捕まえようとしてきますよ、どうする気ですか!)
「あの、ね。今は、仕事中だから」
子供は元気すぎて、私達はあたふたしっぱなしだ。
そんな私達を、スクエアはニコニコしながら見ている。
正直、やりにくいっ。
「なあ兄ちゃん。兄ちゃんは姉ちゃんと結婚したの?」
「ひょっとして二人で家出、愛の逃避行?」
「あはは、そんなんじゃないよ。俺はあのお姉さんに、町まで送ってもらってるんだ」
「えー、なんだーつまんないー」
「ねえ、愛の逃避行しろよー。男だろーっ」
「はは、まあ、当たらずとも遠からず、かな。とにかく、二リハさんにはもう好きな人、というか、良い人がいるから。迷惑かけちゃダメだよ」
「えー、そうなのー!」
「姉ちゃんもう子供いるのー!」
「ひょっとしてお兄ちゃんと浮気、禁断の恋なのー!」
ああもうっ。
「にゃあ!」
(お前ら、近寄るな、燃やすぞ!)
「きゅう!」
(そうですよ。先輩を怒らせると大変なんですからね!)
「ああ待って、モエル、それだけは絶対にダメー!」
移動を始めてそうそうに、もう大変だった。
村を出て少しすると、モンスターが現れた。
相手はスライム。どこにでもいる1ランクのモンスター。
しかしそれを見た子どもたちは、歓喜した。
「やったあ、モンスターだ!」
「姉ちゃん、早くやっつけてー!」
「兄ちゃんがやっつけてもいいよー!」
「いや、俺は戦えないから」
「皆、下がって。危険ですよ!」
「はーい!」
スクエアが子どもたちを下げてくれるが、子どもたちはまだガヤガヤ騒いでいる。
いつもと違うから、なんだかなあ。空気がゆるい。
「にゃあ!」
(二リハ、そんなやつさっさと倒すぞ!)
「ええ、任せて!」
一瞬、モエルに戦いを任せようかとも思ったけど、モエルが火魔法を使ったら皆怯えてしまうかもしれないから、やっぱりここは私の出番かな。
剣を抜いて、一撃当てる。技も使わない。それだけでスライムは倒れた。
すると。
「やったー!」
「姉ちゃんやるー!」
「でもダッジさんと同じくらいか?」
「もっと強いモンスターがでないとわかんねえなー」
子どもたちはまたまた大賑わいだ。
もう安全にはなったけど、やりにくい。
「いつもこんな感じなのかな」
「二リハ。この調子で川までお願いします」
「あ、はい」
「子どもたちの元気は、どうか寛大な心で許容してください。今日は外から来た冒険者と会えて、特にはしゃいでるんです」
「はあ」
それにしたって、はしゃぎすぎだろう。
私の頃は、どうしてたっけなあ。
ああ、外から来る人は偉い人か悪い人だから、近づいたらいけないって言われてたっけ。
それは、実際本当なのだから、親の言いつけは正しかった。村や町を移動できるのは、力がある者。貴族や戦士団、もしくは盗賊、野盗崩れ等だ。冒険者だって善悪関係なく、力だけは持っている。相手のことがわからない以上、不用意なことが起こらないように、近づくことはしないのが無難だ。
けど、この子達の積極性は何。
よくわからないけど、この村だからこういう風に育っているのだろうか。
それから更に歩くと、割と早くに突然川が眼の前に現れた。
川は思ったより大きい。向こう岸まで大分ある。家一軒分くらい。
「よし。それじゃあ皆。帰る時間になるまでここで過ごそう」
「はーい!」
「それぞれの行動範囲は憶えてるね。大人は上流。女性、女の子はここ中流。男の子は下流だ。俺は下流で目を光らせているから、危険な真似はするんじゃないぞ」
「はーい!」
子供達が元気に返事をした後、一緒に来ていた男性数名は上流へ行く。そして男の子達は下流へと走り出した。
「というわけで、二リハ。今から自由時間です」
「はい」
「モンスターが現れたら誰かが呼びに来ますが、それまではただ暑いだけでしょう。二リハも川で水浴びでもしていてください」
「わかりました」
すっかり今も護衛中であることを忘れていたが、そもそも私達の目的は川で水浴びだ。それを依頼主からも許してもらえると助かる。
「では、俺もこれで」
「二リハさん、それじゃあ俺も行きますね」
「はい。カルファもまた後で」
スクエアとカルファがここから離れる。そうして男の目がなくなると、この場にとどまっていた少女たちが勢いよく服を脱ぎ始めた。
おお、皆早い。
「お姉さんも、早く!」
そう言って女の子が走って川の中へと走っていった。
そうね。暑いし、私も行くか。
「モエルもシャインも、暑いでしょ。川に入るわよ!」
「にゃー」
(ええ、俺濡れるの嫌い)
「きゅー!」
(だから、体の臭いを消すのは基本ですよ、先輩!)
私も装備を手放して、脱いだ衣類のなるべく近くで川での水浴びを楽しんだ。
いや、一応なにかあったら困るから、少しはね?
結局その後危険なことはなく、冷たくて気持ち良い水浴びを堪能した後、皆でまた一緒に歩き、村まで帰った。
その時スイートスネークという2ランクのモンスターが現れたので、軽く倒した。
「やっぱり姉ちゃんすげー!」
「今の見た、ダッジさんじゃああはいかないんじゃないか?」
「これはせっかくだから、持ち帰って今日のごはんにしましょう。二リハ、よければそれは俺がもらいますので、帰ったら追加報酬を払いますね」
「あ、はい」
更にお小遣いが増えた。ラッキー。
そんな感じで、私達はカクラでの休養を終えた。
川って初めて入ったけど、気持ち良いのね。夏場は特に。




