カクラ 1
アラケルを出て4日後。私達はようやく村に着いた。
「やった。カクラに着いた!」
ここはカクラという村らしい。カルファ、名前だけは知っていたのね。
「今日はベッドで休めそうですね」
そう思うと自然に、カルファも私も喜ぶ。
「にゃあ」
(久しぶりの人がいるところだな)
「きゅー!」
(ここでならきっと美味しい物が食べられますよ!)
「にゃー!」
(おお、そうだ!)
「モエル、シャイン。ここで一休みしようね」
「にゃー!」
(二リハ、美味い肉!)
「きゅー!」
(ボクは野菜が良いです!)
「ふう。ひとまず、休みましょう」
「ええ。宿屋の場所を訪ねましょう」
私は通りがかりに、門番に話しかけた。
「あの、宿屋はどこですか?」
「ん、眼の前の道をまっすぐ歩けば見えるぞ。ただ」
「ただ?」
「今はやってるかどうかわからん。まあ、訪ねてみるといい」
何?
「なにかあったんですか?」
「なにかっていうか、夏だからだよ。暑いから商人だって通らないだろう。おまけにアラケルではファイアグラスとファイアブルームが出る。今の時期誰も行き来しないし、宿だって使うやつはいないよ」
「そう、ですか」
しまった。これは盲点だ。
「そんな」
カルファもショックを受けている。それを見かねたのか、門番は更に言った。
「まあ、頼めばやってくれるだろう。ここまであるきだろう。ここでゆっくり休むといい」
「はい。そうします」
まあ、どうにかしよう。最悪宿が使えなければ、冒険社ギルドの宿サービスを頼るしかない。
「カルファ、まずは宿ね」
「ああ、はい」
「大丈夫。かけあってみればなんとかなるわよ」
「ええ、そうですね」
私達は教えられた通り、まっすぐ宿屋に向かった。
宿屋の扉はしまっていたが、別の入口からお邪魔して、なんとか宿の人と会うことができた。
「宿か。使えるよ」
「そうですか、ありがとうございます!」
カルファも私も喜んだ。これで一安心だ。
「丁度今日は良いマスが連れてね。カクラの魚料理はちょっとした自慢さ。夕食もぜひ食べていってくれ」
「はい。そうします」
「普段は80シクルで宿をやっているんだが、30シクル追加で料理を豪華にするよ。どうする?」
「あ、俺は普通でいいです」
「それじゃあ私も。けど、この子達の分もください」
「にゃー」
(お前、弱そうだな)
「きゅー」
(先輩、宿の人ですよ。大人しくしてて美味しいごはんもらいましょう)
「ああ、ペット用の餌もつけよう。それでいいね」
「はい。あ、この子は肉で、こっちのうさぎは野菜が中心でお願いします」
「ああ、肉、ねえ。なあ、肉のかわりに魚でもいいかい?」
「ええっと」
それは、どうなんだろう?
まあ、食べさせてみればわかるか。
「それじゃあ、お願いします。もしダメだったら、朝からお肉で」
「ああ。だが肉は貴重だからね。その分高くなるよ」
「はい。それでかまいません」
せっかく村までこれたのだ。モエルにもシャインにも、美味しいものを食べさせてあげたい。
その後私は冒険社ギルドで道中拾った素材を売って、それからカルファと共にごはんを食べた。
その、冒険社ギルドの素材センターにて。
「これを売りに来ました。たしか、ファイアブルームの討伐証明部位って、花でしたよね?」
「ああ、そうだよ。真ん中の花ね。この、花弁にあるトゲのような模様が目印だ。だけど、あんた、ファイアブルームを狩ったんだろ。根っこは持ってこなかったのかい?」
「根っこ?」
「知らないのか? ファイアブルームの根っこは夏バテ予防効果があるから、討伐証明部位の倍の値段で買い取ってるぞ」
「なん、ですって?」
「まあ、ないんならしょうがないが。また来た時には、できればそっちをよろしくな」
「はい」
ちなみに、ファイアブルーム、ファイアグラスが出現するアラケル周辺は、もう通り過ぎている。
またアラケルに行く予定は、今のところ、無い。
知らなかったとはいえ、惜しいことをしたと気づくと悔やまれる。
まあ、花も売れたのだから、ひとまずはこれでよしとしよう。
地獄のような暑さも日が沈めば、いくらかおさまる。
私達は村でくつろげる安堵感を堪能しながら、宿で魚料理を食べた。
「いただきます」
「いただきます」
「あ、これ本当に美味しい」
「本当ですね。ただ塩をかけて焼いただけなのに、素晴らしい。素材の味ですね」
素材の味。そう言われると納得する。
「これが私の故郷にあれば、もう十分ごちそうよ。30シクル追加したらどんなのが出てきたのかしら」
「少し興味がそそられますね。けど、俺は旅の途中ですから。無駄遣いはできません」
「たしかに」
それには私も賛成だ。
ところで、モエルはお魚、どうだろう?
そっとうかがってみる。
「がつがつがつがつ」
(う、ま、す、ぎ、るー!)
おお、凄い食べてる。
「きゅー」
(ここの野菜は数段ランクが落ちますねー。前のとこの方が良かったです)
「にゃー!」
(新入り、これ美味いぞ、めちゃ美味い!)
「きゅー」
(あー、良かったですねー。まあ、ボクも今までのに比べたらまあ良いです)
モエルとシャインの温度差が激しい。
まあ、たしかにここの野菜は、アラケルで食べたものより劣る気がする。
けど、アラケルには戻れないから、シャイン、ごめんね。
そしてモエルは、どうやら魚を気に入ったようだ。
「がつがつがつがつ」
(美味い、美味いぞー!)
結果として、今日の夕飯は皆概ね満足した。
宿代がもったいないので、私とカルファは同室に泊まった。
カルファは変に遠慮していたけど、それよりも宿代を安く済ませる方がはるかに重要だ。私は押しの一手で了承させた。
ちなみにこの村に銭湯は無かった。
けれど、村のすぐ近くに川があるらしい。そこで水浴びができるそうだ。今日は時間が無かったから行けなかったけど、川で水浴び、気持ちよさそう。
とまあ、それはそれとして。
「ねえ、カルファ」
「なんでしょう、二リハさん」
「カルファは、明日すぐに出発する?」
「はい。そのつもりですけど」
「確かに早く着くのも大事だけど、でもそれ以上に無理をして倒れないことも重要だと思うのよ」
「はい。たしかに」
「だから、明日、休まない?」
「え?」
「ゆっくり休んで、疲れをとるの。カルファ、もう結構限界でしょう?」
今まで一緒にいたから、なんとなくわかる。
もうカルファの体力は、限界寸前だ。
「でも、旅費もそんなに無いし」
「じゃあ、貸してあげてもいいわよ。少しだけなら」
何より、途中で倒れられた方が大変だし。
「そんな、それじゃあ二リハさんに悪いですよ」
「最悪なのは、カルファが旅の途中で倒れること。違う?」
「そう、ですけど」
「よし、決まり。それじゃあ、最低でも明日は休みましょう。出発はその次から。いいわね」
「はい」
「よし。それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
「にゃー」
(二リハ、明日も魚を食わせろ)
どうやらモエルは、魚を大いに気に入ったらしい。
「きゅー」
(おやすみなさーい)
「二リハさん」
「なに?」
「本当に、ありがとうございます」
「恋人、見つけるんでしょ」
「はい」
「なら、見つけなさい。そのために、今、私もいるんだから」
「はい。本当に、ありがとうございます」
私は今夜、すぐに寝た。
久しぶりのベッドだったから、かなり寝付きが良かった。




