プロローグ 8
目覚めて、顔を洗ったらすぐにプラムローナーに向かった。
すると、マスターが店に来る時間と丁度かみあった。
「来たか」
「おはようございます、マスター」
「中に入れ。まずは掃除からだ」
私はエプロンと掃除道具をもらい、エプロンをつけてから店内を掃除した。
「店のメニューも全て憶えろ。金額もだぞ」
「はい。あ、あの、私、メニューを憶えても実際の物が、たぶんわからないと思いますが」
「とにかく憶えろ。名前と値段だけわかっていればいい」
「はい」
壁にかけられたメニューをじっと見つめ、1つ1つ憶えていく。
そうしていると、サーナがやって来た。
「あーっ、ニリハおはよう!」
「ええ。おはようサーナ」
「エプロン似合ってるよ!」
「ありがとう」
「サーナはこっち来て野菜の皮むきだ」
「はーい!」
私は頑張ってメニューと値段を憶える。チキンレッグ90シクル。高い。美味しいのかな?
メニューとにらめっこしてたら、すぐに初めての客がやって来た。
「いらっしゃいませ」
「おはよう。んん、サーナちゃんじゃないね」
「今日からここで働かせてもらっています。ニリハです」
「そうか。可愛いね。頑張ってね」
「はい」
「じゃあ、ひとまずいつもの。ミルクとオレンジに、ハムエッグ」
そう言って、お客さんからお金をもらう。
「え、えっと」
「これでぴったりだよ。まあ、代金はゆっくり確認しなさい」
「はい、すみません」
メニューは憶えているつもりだったけど、いきなり注文されると頭が真っ白になった。ええと、ミルクが4シクル、オレンジが5シクルで、ハムエッグが。ええっと。
なんとか金額がぴったりだということを確認してから、マスターのもとへ行く。
「マスター。ミルクとオレンジに、ハムエッグを注文されました」
「来るのが遅い。すぐに勘定くらい終わらせろ。俺を呼ぶ時はカウンターから声をかけろ。金はカウンターに置け」
「はいっ」
「それとうちは全部金をもらってから料理を運ぶ。金の数え間違いだけはするなよ」
「わ、わかりました」
き、きびしい。いや、これができて当然なんだ。
ひとまず、メニューだけでも暗記しないと。それから計算。あ、そろばんってあるのかしら?
「ふー。ちょっと休憩ー。どう、ニリハ。上手くやれそう?」
「あー、サーナ。私、全然ダメみたい。でも、頑張らなきゃ」
「そうよ。めげないでね」
「あと、サーナ。ところでそろばんってある?」
「あるけど、使ってる暇ないよ? 夜はかなり忙しいし、注文なんてひっきりなしにとんでくるんだから」
「そ、そうなの」
「まあ、ニリハは今のうちに、というか夜までにメニューと金額憶えちゃって。昼は私がお手本見せるから」
「え、ええ。お願い」
「おいニリハ。ひとまずミルクとオレンジを持ってけ」
「あ、はい。わかりました!」
私は慎重にミルクとオレンジを運んだ。
それからちらほら、お客がやって来た。
「オニオントーストとトマトジュース」
「はい。14シクルね」
「サーナちゃん。ハニートーストとコーヒー、あとウインナー」
「はーい。21シクルだよ!」
「グリーンスパゲティーとオレンジジュースを持ってきてくれ」
「はい。18シクル!」
サーナは私の前で、間髪入れずに値段を言いまくった。
凄い。お金の確認も早い。
私は関心してサーナを見ていた。
サーナは全部憶えてるんだ。私も、サーナと同じくらいできるようにならなきゃ。
「おーい、そこの嬢ちゃん。ぼーっとしてるならこっちきておしゃべりしてくれ!」
その時、お客さんに声をかけられた。
「ダメー。ニリハは今お仕事憶えてるの。ニリハ、お客さんのことは気にしないで」
「う、うん」
私はすぐに壁に向き直る。ええと。グリーンスパゲティーは、12シクル。イエロースパゲティーは、14シクル。
お客さんはドリンクも頼むから、セットの値段になるわけで、うう、頭がこんがらがってきそう。
「いらっしゃいませー」
「い、いらっしゃいませ!」
更にお客さんは現れる。流石に挨拶は、私が無視するわけにはいかないよね。
「ん。給仕。そこの新しいのは?」
「お客さんの言う通り、新しいウエイトレスよ。今メニュー暗記してるとこ」
「ふうん」
マイルドスープが13シクル。スパイシースープが14シクル。炒り豆が8シクル。次はっと。
私は必死になって、メニューと値段を頭の中に詰め込んだ。
お昼前になると、私とサーナはマスターからトマトーストとオレンジ、ミルクをもらった。
「ほら、昼飯だ。昼飯客が来る前に食っとけ」
「はーい。ニリハ。一緒に食べよ?」
「うん」
「あ、ところでニリハ。この三品でいくらでしょう?」
「え、えーっと。トマトトーストが7シクルで、オレンジが5シクル、ミルクが4シクルだから。16シクル」
「正解!」
「間違って無くて良かったわ」
「それじゃあ私の分も合わせていくら?」
「えーっと、に、32シクル」
「んー、ちょっと遅いねー。計算はもうちょっとかな?」
「ううう。もっと頑張るわ」
「まあ、あんま気負わないでね。早さも大事だけど、一番大事なのは正確さだから」
「わかった」
「夜は本当大変だよー? 今のうちから覚悟しといてね」
「う、うん」
今の状態でもかなりいっぱいいっぱいなのだが、やはり今より大変になるのだろうか。
まあ、やるしかない。それまでにメニューの暗記、完璧にしとかないと。
昼間の客はいっぱいきた。広々とした店内がほぼ客で埋まる。
それでも私は待機でよしとされた。サーナが1人でさばききれたのだ。
凄い。サーナ。これが働くということか。
関心してはいられない。私もできるようにならなければ、また働き先を失うことになる。
「チキンステーキ3つにオレンジジュース3つで72シクル。お釣りは後でね!」
私はメニューだけでなく、サーナの接客にも注目する。
客からの注文を聞いて、自分でもサーナの計算が正しいか確認するのだ。
うん。大丈夫、合ってる。流石はサーナだ。
そしてその他、サーナの仕事ぶりを詳しく観察する。カウンターからマスターに大声で注文を伝える。カウンターのお金は時間が空いたらカウンターに備え付けのお金入れに入れる。料理は早足で運ぶ。帰るお客さんには手を振る。セクハラにはビンタ、たまに鉄拳で対応。
私も早くサーナのように動けるようになろう。