グルリネへ 3
少しずつ水を飲みながら、あるき続ける。
休憩したいけど、暑さのせいで休めないのよね。
休めるのは日が沈んでから、日差しが無くなってからだ。
まあ、夜になっても暑いものは暑いんだけどね。
夏だから仕方ないか。
「きゅー!」
(二リハ、またあいつです!)
「わかったわ!」
今日、何度目かのファイアグラスを倒す。
正直もう、こいつの相手はうんざりしているけど、モンスターはモンスター。手は抜けない。
アラケルの冒険者はタフね。こいつらを毎年相手にしているんだろうから。
「ふう。また出ましたね」
「はい。けど、まだ出てくるでしょうね」
カルファが汗をぬぐっているが、その服の袖はもうびしょ濡れだ。
「町の外って、こんなにも危険だったんですね」
「どうでしょう。このあたりだけだと思いますよ。ファイアグラスは」
少なくとも、私の故郷では見かけなかった。
私も冒険者を始めたばかりだけど、きっとこのあたりが特別なんだと思う。
「きっと、ここを越えればファイアグラスの危険は無くなります」
「そうですか。では、急ぎましょう」
「はい」
私達はできるだけ急いで歩いた。
「きゅー!」
(また敵です。今回は臭いがちょっと違います!)
シャインがまた敵を察知してくれた。私も周囲を見回すと、たしかにモンスターを一体見つけられた。
そいつは、花が3つあるモンスターだった。
草むらの上から、赤い花を3つ出し、蠢かせている。花のすぐ下の茎はうねうね動いていて、まるでミミズのようだ。
初めて見るモンスターだけど。そう思ったところで、1つ思い当たるモンスターがいた。
ファイアグラスが成長したモンスター、ファイアブルームだ。
同じ植物系のモンスターだし、同じ色だ。ひょっとしたら、あれがそうなのかもしれない。
だとしたら、やはりここも私の出番だ。
「にゃー!」
(やっと俺の出番かー!)
「いいえ、あいつもモエルの攻撃は効かないかもしれないから、待ってて。私に任せて!」
「にゃあー」
(ううー)
「きゅー!」
(先輩、ボクと一緒に力を温存しておきましょう!)
私は盾を構えて、一気にモンスターに近づいた。
すると相手もこちらに気がついたのか、花をこちらへ向けてくる。
そして花の中心から、火をとばしてきた。合計3つ。
「くっ!」
ちょっと多かったけど、なんとか盾で耐えた。
狙いを散らされたら苦しい。けど、近距離でなければ、なんとか3つ全部防ぎきれそう!
そう思い、まずはこのまま近づいてみることにした。
ファイアグラスは火魔法を放った後、十秒くらいの隙をさらしていた。今回もそのはず。
と思っていると、予想より早く相手から、新たな火魔法を3連続でもらった。
「うう!」
私は慌てて盾で防ぐけど、ちょっと防ぎ方が甘かった。腰に一撃もらってしまう。
幸い鎧は傷1つつかなかったけど、危なかった。これが致命傷だったら、私の命運はここで尽きていたかもしれない。
もっと慎重にいかなければ。私は冒険者だけど、戦って死にたくない。
私はただ、幸せになるために戦う!
一瞬油断したけど、後はためらわず走った。
今のでわかったことがある。
それは、私の鎧ならこの程度の火魔法くらいどうってことないということ。
なら、このまま一気にいく!
「ゲイザースラッシュ!」
私は一気に近づいて、花のモンスターを攻撃した。
すると、敵は一撃で倒れる。
「ふう」
結果だけ見れば楽勝だったけど、なんとか倒した。
やっぱり初見のモンスターは気を使う。慣れて注意不足気味になるのも嫌だけど。
でもこれ、やっぱりファイアブルームよね?
たしか、3ランクモンスターだったから、素材もそれなりに高いと思うのだけど。
「ひとまず、花を回収しましょう」
3つあるから、一番大きい真ん中のを1つ持っていく。
たぶん次の村まで運ぶ素材は、これだけかな。
荷物もそんなには多く持てないし、きっとまずまずの金額になるだろう。
その後、無事道中の宿屋に着いて、カルファと共に一泊した。
今回は見張る馬車等もないので、試しに中を覗いてみた。
すると、本当に中は調理場以外何もなく、ただ雨風をしのげる場所、程度のものだった。
今は夏だから、ひょっとしたら外で方が過ごしやすいかもしれない。
そう思ったけど、外はモンスターも出てくるし、やっぱり中で眠ろう。
「一泊10シクルだ」
宿にいた冒険者風の男にそう言われ、二人で10シクルずつ渡す。
彼との会話はそれっきりで、カルファはすぐに宿内で腰を下ろし、足を投げ出した。
「はあー、今日は歩いたー」
「そうね。普通の人にはきつかったかも」
「二リハさんはいつもこれだけ疲れてるんですね」
「ええ。まあ一晩寝れば疲れはとれるわよ」
「はは、凄い。俺もそうだといいです」
「後悔してる?」
「え、いえ、そんなことないです」
カルファはすぐに首を振った。
「二リハさんに言われて、たしかに、自分はただ恋をしたいだけで、誰を好きになるか、選ぶつもりすら無かったかもしれない。でも、こうして誰かと会いに行くために旅を続けつ気持ちもまた、やっぱり俺の中にあるんです。それに、二リハさんに会わなきゃ、俺はまだ今も恋を求めるだけで、好きになれる人を探してはいなかったかもしれない」
そこまでただ前を見ていたカルファが、遅れて私を見た。
「俺はもう、旅をしようと決めて良かったと思っています」
「そう」
カルファの恋の行方がどうなるか、私にはわからない。
けど恋のためになにかしようとしている彼を、私は応援する気でいられた。
「素敵な人を、見つけられるといいわね」
「はい!」
カルファはそう言って、横になった。
「それじゃあ俺は、もう寝ます。ちょっと今日は、疲れた」
「おやすみ。明日も歩くわよ。体力だけは、ないといけないわ」
「は、い」
カルファは寝た。私は少し離れて、ふたりにごはんをあげる。
「モエル、シャイン。ごはんよ」
「にゃあ」
(またこれかあ。ないわ)
「きゅー」
(元気出してください先輩。もう少ししたらまた美味しいの食べられますよ)
「うん。また村に着いたら、美味しいの食べようね」
私達はカルファを起こさないように、静かに食事をとった。




