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グランデ 12

 正直、かなり馬に乗るのに慣れたと思う。

 それに、たまにやってみようかな。と思うくらいに好きになった。

「ふう。そろそろ腹が減ったな。飯に行こうか」

「ええ。いいわよ」

「ああ。午後も乗馬を続けるか?」

「いいえ、他のこともやってみたいし、次に行ってもいいわよ。もう十分楽しんだし」

「そうか。なら、飯屋は少し遠くてもいいな。美味くて量が多い店があるんだ。そこへ行こう」

「わかったわ」

 馬を返して、お昼ごはんを食べに行く。そこは確かに量が多いけど、味はまあまあだった。

「ふう。ちょっと食べ切れないかも」

「そうか。じゃあ俺にくれ」

「いいけど、グランデって本当によく食べるわね」

「まあな」

「ごはんを食べ終えたら、次はどこに行くの?」

「そうだな。人気の歌手がいるらしいんだ。そこで歌でも聞きに行くか」

「なるほど。素敵ね」

「そうか?」

「ええ。良いと思う」

「なら良かった」

「にゃあ」

(ここの肉はいまいちだな)

「きゅー」

(野菜はここも美味しいですよ。新鮮だし、量も多いですし)

「にゃあ」

(そんなもんしか食ってなかったら強くなれないぞ)

「きゅー!」

(ほっといてください、気にしてるんだから!)

「モエル、シャイン。お行儀よくね」

「にゃあ」

(はあい)

「きゅー」

(はあい)


 ごはんを食べたあとは、予定通り歌を聞きに行く。

 演劇小屋に入ると、そこできれいな声の男の人が歌っていた。どうやら演劇はやっていないようで、中にいる人達は彼の歌を聞いていた。

「ここだ」

 グランデが小さな声で言う。

 私は小さくうなずいて、歌を途中から聞いた。


 ちゃんと数えてはいないが、歌手は歌を何曲も歌った。

 内容は決まって、夏にまつわるものだ。

 夏に咲く花、イサラを贈って愛を誓う歌。

 夏の夜、涼しい風を感じながら思い出を思い返す歌。

 夏の暑さよりも熱い恋を伝える歌。

 季節が夏というだけあって、どの歌を聞いても風情を感じられた。

 そして気がつくと、全ての歌は終わり、歌手は一礼して去っていった。

 すると周囲の客は拍手を贈る。私も拍手した。

「すごかったわね」

 私はグランデに言った。

「ああ、そうだな」


 歌は楽しかったけど、演劇小屋は暑かった。

 なので今私達は、軽く汗まみれだ。

「どこかで涼めないかしら?」

「じゃあまた飯屋に寄るか。ビールでも飲めば体は冷えるだろう」

「そうね。それじゃあ私はジュースで」

「にゃあ」

(俺はまだお腹いっぱい)

「きゅう」

(お昼食べすぎましたねー)

 私とグランデはどこかレストランを探す。

 するとその時、たまたま花屋の前を通りがかった。

 その時私は、ピンときた。

「グランデ、ちょっと待って」

「なんだ」

「花を見たいの」

「花か?」

 私達は花屋の前で立ち止まる。

「いいな。たしかに」

「じゃあ、ちょっと見ていきましょう」

 私達は花屋に入っていった。


「いらっしゃいませ」

「なにか花をください。グランデは、好きな花とかある?」

「そうだな。特にはないな」

「じゃあ、ええと」

 そうだ。歌で聞いた、イサラの花とかはどうだろう。

「あの、イサラの花はありますか?」

「はい。これです」

 店員に見せられたのは、私の眼の前にある花だった。

 見た目を知らなかったとはいえ、なんかいたたまれない。

「それじゃあこれを、ええと、花束にしてください」

「はい。かしこまりました」

 店員はすぐに準備をする。

「せっかくだから俺が買ってやろう」

「いいわよ。贈り物だし」

「そうなのか。誰に贈るんだ?」

「あなた」

「ん?」

「グランデに贈りたいの」

「なんで、俺に?」

「今まで随分助けられたから。あと、今日のお礼」

「そんな。いいぞ、俺は別に」

「私が贈りたいの。せっかくだから、もらってよ」

「しかし、花なんてなあ」

 グランデは言いよどむ。

「俺になんか、似合わないだろう」

「何言ってるの」

 大体花に似合うとか似合わないとか、そんなの関係ない。

「このイサラは、私がグランデに感謝の気持ちをこめて贈る。つまりこのイサラは今、あなたのために咲いてるの」

「ああ」

「そのきれいな姿を、素直に受け取ってほしい。それじゃダメかしら?」

 私がグランデの目を見て言うと、グランデはふっと笑った。

「そう言われたら、受け取るしかないな」

「でしょ」

「じゃあ、俺も二リハにプレゼントだ」

 グランデは花屋を見回すと、やがて戻ってきた店員に言った。

「すまない。俺もこの花を、花束にして、彼女に贈りたい」

「はい。かしこまりました」

「いいの?」

「いいとも。それに、この花は今、二リハのために咲いてるんだ。受け取ってくれ」

 そう言われたら、受け取るしかない。

「ありがとう。グランデ。うれしいわ」

「そうか」

 グランデはニッと笑った。

「花も、なかなか悪いもんじゃないな」

「ところで、この花はなんていう名前なの?」

「いや、俺はフィーリングで選んだから、よくは知らない。なんて言うんだ?」

「この花は、エスタスです」

 店員が教えてくれた。

「エスタス。これもきれいね」

「花言葉は、夏にまた会おうです」

 夏にまた会おう。か。

「良い言葉ね。あ、でも、その間は会えないのか」

「なに、また会えるだけ幸運だ」

 グランデはそう言った。

「ところで、二リハはこれから一人で冒険者を続けるのか?」

「ええ。モエルとシャインと一緒にね」

 グランデとは、これ以上迷惑かけてもしょうがないし。

「死ぬなよ」

 それは、当たり前だけど、やさしい言葉。

「ええ。グランデもね」

「にゃあ!」

(不吉なこと言うな!)

「きゅう!」

(そうですよ。ボクがついてるのに!)

「ふふふ。明日から頑張りましょう。モエル、シャイン」

 そんな感じで、今日のグランデとの一日が終わっていった。



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