グランデ 9
グランデは6ランク冒険者だ。
だから、きっとこの程度のモンスター相手なら、たとえ数で負けていても危なげなく倒すことができるのだろう。
そう思ってはいたけど、実際の戦闘を見ると、圧倒された。
「プライドソード!」
大きな剣をものともせず振り回すグランデが、私達を苦しめたモンスター達を羽虫を払うが如く蹴散らしていく。
それはさながら、剣の暴風。一振りしただけで相手は倒れ、グランデは倒し切るまで走り続けた。
「にゃー」
(強い、な)
「きゅー」
(すごく強いですねー)
どうやらふたりも圧巻のようだ。
戦闘はすぐに終わった。モンスターの死体が横たわる中、グランデが一度剣を空振りする。
「ふう。それじゃあさっさとしまうか」
グランデはそう言って大きなバッグを開けると、その開け口を倒したモンスターへと近づけた。
「入れ」
それだけで、死体がバッグの中に吸い込まれていった。
「すごい。それが、マジックバッグ」
「これは100万シクルくらいだ。二リハも手に入るといいな」
「そうね」
たしかに、マジックバッグがあればいろいろと楽だろう。
でも、100万シクルはちょっと手が出せないかも。
「そんな大金が手に入ったら、考えてみようかしら」
「ははは。ちなみにマジックバッグは制作者が限られているが、大きな商店や魔法使いギルドで取り寄せているらしいからな。欲しくなったらそこを頼るのも手だ。直接作り手を探した方が早い場合もあるがな」
「なるほど。憶えておくわ」
「二リハも自分が倒した分の素材を取っておけ。ここからは駆け足でいくぞ」
「わかったわ」
私はすぐに自分が倒したランブルバタフライとブデリンの討伐証明部位を手に入れた。
その間にまたモンスターがやって来たが、それもグランデが速攻で倒してしまった。
「グランデ、終わったわ」
「ん、あのジャンピングモンキーはまだ手をつけてないようだが?」
「あれはグランデがとどめを刺したじゃない。だからグランデのものよ」
「そんなことはない。あれも二リハが倒したようなもんだ。素材を取っておけ」
「そう、わかったわ」
ここで譲ろうとするのは、はっきり言って時間の無駄だろう。グランデはジャンピングモンキーくらい、すぐ倒せるのだから。
私は大人しくジャンピングモンキーの素材も手に入れて、移動の準備を済ませた。
「これでいいわ。行きましょう、グランデ」
「おお。じゃあちょっと走るぞ。ついてこい」
そう言ってグランデは走った。
私達は後を追う。
そこから先は、呆れてしまうほどにあっけなかった。
どんなモンスターが現れても、グランデは相手を一撃で倒してしまう。
倒したモンスターを収納するために少し立ち止まるが、休憩はそれくらいだ。後はずっと走る。そしてモンスターと出会って、また倒しての繰り返し。
グランデ、本当に強い。ジュージとどっちが強いのかしら?
いいえ、比べる必要はないわね。どっちも頼もしい冒険者。私はその背中を見つめてその高みを目指せばいい。
この強さに届くには、どれくらいの鍛錬が必要なのかはわからないけど。努力しよう。私の旅が、シイドに届くために。
それから私が走り疲れて、何度か休憩をはさんでもらいながら、ダンジョンの奥へと向かった。
すると、大分ヘトヘトになったところで、下へ下りる階段を見つけた。
「よし。今日はここで一眠りするか」
グランデがそう言う。
「それは賛成だけど、ダンジョンは危険じゃないの?」
「いいや、セーフティーエリアと階段だけは安全なんだ。まあ、モンスターと戦闘中とかだったらここにも寄ってくるんだけどな。ここには基本モンスターは来ない」
「それは良いわね」
「まあ、なにかあったらすぐ起きるさ。二リハも飯食って、休め」
グランデはそう言ってマジックバッグから黒パンを取り出して、頬張った。
「もぐもぐ」
「あ、黒パン」
「金欠だからな。久しぶりに食う。もっと美味ければいいんだが」
「それが黒パンよ。黒パンは黒パン。良くも悪くも、それでいいんじゃないかしら」
「そうだな。何より食えればいい」
グランデはガハハと笑った。
「私も黒パン、嫌いじゃないわよ」
「そうか。珍しいな」
「いつも食べてたからね」
村ではそれがいつものごはんだった。野草と、木の実と、時折狩りで手に入れた動物やモンスターの肉。
大して楽しい思い出でもないけど、それが私の普通なのよね。
お父さんとお母さん、元気かな。
ジュアラの手紙も、絶対届けに行かないとね。
うん。やっぱりこんなところでつまづいてられない。
私も、ジュージやグランデみたいに強くならないと。
いや、それよりまずは5ランクモンスターの相手か。
今はまだ、4ランクモンスターくらいで丁度良いみたいだけど。
「今日は干し肉と豆だけど」
私はまずモエルとシャインに与える。
「はい、モエル、シャイン。ごはんよ」
「にゃあ」
(この肉かあ)
「きゅー」
(文句言いませんけど、野菜がもう恋しいです)
ふたりの気分は微妙そうだ。
「私にも分けてね」
私も干し肉と炒り豆を少しずつ食べる。
うん。硬いししょっぱいし微妙。
やっぱり保存食って、あんまり食べたくないかも。次からは私も黒パンにしよう。
バッグを枕がわりにしながら眠る。
階段は硬いし冷たいけど、安心して眠れる分いくらかマシだ。
まあ、その安心も、完全ではないようだけど。
とにかく私は、十分にではないものの、いくらか眠ることができた。
というわけで、起きた。
見ると、モエルとシャインはまだ眠っていた。少し離れてグランデも寝ている。
「ぐおー、ぐおー」
グランデのいびきがここまで届く。あそこまで深く寝れるのか。ある意味すごい。
「もう少し、休憩かな」
でも、二度寝する気にはなれない。階段、寝づらいし。
そう思っていると、モエルとシャインが起きた。
「にゃあ?」
(二リハ、もう行くか?)
「きゅー?」
(あの強いやつも起こしますか?)
「グランデは、まだ寝かせてあげましょう」
寝ているのを起こすのも悪いし。
「にゃー」
(じゃあ二リハ、何する?)
「そうねえ。ゆっくりしてましょうか。あ、お腹空いてたらごはんも少し出せるけど」
「にゃあ」
(あの肉だろ、いらない)
「きゅー」
(早く帰りたいですねー)
「もうちょっとだから」
私はそう言って、モエルとシャインを撫で始めた。
「にゃー」
(二リハ、そこもっと撫でろっ)
「きゅー」
(あー、そこそこ、良いですー)
「こういう時間も、久しぶりな気がするわ」
そういえば、ここはまだダンジョンだった。けど、ずっと気を張り詰めているよりは、良いわよね。




