グランデ 1
「こういう時、どうすれば。あ、たしか」
前に買った保存食の黒パンがまだあったはず。
おお、やっぱり残ってた。そして少しも腐ってない。さすが黒パンだ。やはり味と固さ以外は頼りになる。
「あの、もしもし。お腹が減っているなら、これ、食べますか?」
「く、食い物、くれ」
良かった。まだ息はあるみたいだ。
「それじゃあ、はい、これ。あと、水です」
私は黒パンと水袋を行き倒れの男に握らせた。
するとその手はゆっくりと動き、黒パンをかじる。
「もぐ、もぐ、もぐ。ぐ、これは」
男はそう言うと、あっという間に黒パンを平らげた。
そして、横になったまま水も飲む。
「ごく、ごく、ごく。ふう。俺は、生きているのか」
「あ、あの、立てますか?」
倒れたままそう言われても、安心感ないんですけど。
「あ、ああ。すまない。助かった。だが、これだけでは足りん。もっと飯は無いのか?」
なんて贅沢な。あいや、それくらい今ピンチなんだろうけど。
「いえ、これだけです。ここから町までは、結構歩きます」
「そうか。く、これでは体がもたん。せめて近くに食えるモンスターでもいれば、それを倒して食うんだが」
「食べられるモンスター」
そんなモンスター、いるだろうか?
そう思ったところで、先程倒したイハサクのことを思い出した。
「あ、もしかしたら近くに食べられるモンスター、の残骸、残っているかもしれません」
「何?」
男が私をまっすぐ見ると、突然両肩をつかんできた。
「それはどこだ、すぐに食わせろ!」
「あ、あの、えっと。こっちです!」
「ああ!」
私があるきだすと、男はすぐにその方向へ走り出した。
は、速い。い、いや、ギリギリ私でもついていけそう?
「にゃー?」
(二リハ、どうする?)
「きゅー?」
(正直、どっか行くのならもうこのまま帰ってもいいんじゃないですか?)
たしかにふたりの言う通り、このまま見なかったことにしてもいいかもしれない。
でも、見つけてしまったものは仕方ないし。ちょっとはあの人のことも、気になるし。
「とにかく、あの人が焼けたイハサクを食べれるかどうか見てから、帰りましょう」
このまま帰るのも、どうかと思うしね。
もう少し、行き倒れていた人につきあうとしましょう。
「ばくばく、がつがつ」
男を追ってみると、彼はちゃんと、モエルが倒したイハサクを食べていた。
あの大きな葉っぱにかじりついて、どんどんのみこんでいく。彼は本当に人間なのか。そう疑う程食べるスピードが早く、ワイルドだ。
「あの、それ、食べれるんですね」
「ばくばく、がつがつ」
「あ、あの、お腹が減った以外、なんともないんですよね」
「ばくばく、がつがつ」
「もう、なんともないなら、私、これで先に行きます」
「ばくばく、がつがつ」
この様子なら、この人はもうきっと大丈夫だろう。
見たところ大きな剣を背負った冒険者らしいし、モンスターとの戦いも慣れていそうだ。心配することはもう何もない。きっと。
「それじゃあ、行こうか、モエル、シャイン」
「にゃあ」
(結局なんだったんだ、あの人間は)
「きゅー」
(無駄足でしたねー)
「ばくばく、ごくん。あー、待て。そこの冒険者」
「はい?」
私は呼び止められたので、一応立ち止まる。
「なんでしょう?」
「腹が減っていたところを助けてくれたんだ。感謝する。お礼もしっかり払おう」
お礼?
「それは、つまるところ、お金、でしょうか?」
「ああ、そうだ。俺は今、北のダンジョンからアラケルまで戻っているところだったんだ。そこで手に入れたモンスターの素材が大量にある。そこからいくらか、いや、半分、いや、7割差し出そう」
7割。すごい額だ。たぶん。
「それはありがたいですけど、でも、いいんですか?」
「なあに。ここで死んだら手に入らん金だ。命の恩人にくれてやるくらいでちょうどいい。少し待て。これを食べ終わったら一緒に戻ろう」
「はい。わかりました」
彼、一応良い人そうだ。私を騙そうとしているということも、たぶん、ないはず。
ここは、彼の意見に従おう。
「モエル、シャイン。もうちょっと待ってよ」
「にゃー!」
(嫌、早く帰る。肉!)
「きゅー!」
(そうです、野菜野菜!)
「大丈夫、ご飯は逃げないわよ」
私はふたりをなでてあやした。
「ばくばく、がつがつ」
それにしてもこの人、かなり食べるなあ。
結局彼は、イハサクの焼け焦げていない部分を、全て食べきった。
すごい胃袋である。半分以上焦げ落ちていたとはいえ、私より大きかったイハサクを食べてしまうとは。
「ふう、食った食った。野菜だったが、まあ腹の足しにはなった。これなら明日の朝までは飢えないな」
そしてあれを食べきってなお動けるこの男は、どれだけ普通じゃないのだろうか。
「私は二リハです。カジーニャがモエルで、癒やしラビットがシャイン」
「にゃあ」
(お前、二リハに近づくなよ)
「きゅーっ」
(え、こいつも悪いやつなんですかっ)
君たちの反応は相変わらずね。
んーでもまあ、警戒心は少しはあった方が良いか。
「俺はグランデ。6ランク冒険者だ」
グランデはそう言って笑った。
って、6ランク?
予想以上の実力者だ。というか。
「ジュージと一緒?」
「ん、ジュージ?」
グランデは一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに歩き出した。
「まあ、話は歩きながらでもできるだろう。まずは町へ向かおう」
「はい」
こうして、私達とグランデは町へ向かって歩き出した。




