集団依頼 1
「見ろ、これは魔法の盾だ」
防具屋がそう言って私に見せたのは、何やら紋様のような文字が描かれた盾だった。
「これにはなんの魔法が付与されているんですか?」
「魔法を防ぐ魔法だ。火魔法でも、風魔法でも、これを使えば防げる。実際の効果の程は知らないが」
「わからないんですか」
「使ってみるわけにもいかないだろう。だが、この盾にかかった魔法は特別でな。別に魔力を必要としないんだ」
「魔力を使わないで、どうやって魔法の効果を発揮しているんですか?」
「なんでも空気中の魔力を使うらしい。だから使用者の魔力は必要無し。そのうえいつでも効果を発揮する。しかも魔法を防ぐときた。盾使いなら垂涎ものの一品だろ?」
たしかに、魔法を防げるならかなり使える。
でも、肝心な部分をまだ聞いていない。これは一体おいくらなのだろうか。
「いくらなんですか?」
「7万5千シクルだ」
「高っ」
「特別製のマジックアイテムだからな。これでもお手頃価格だ。だが買えば死ぬまで使えるぞ。壊れない限り、買い替えの心配はない」
「壊れるんだ」
「たらればの話だ。第一、脆い盾を売ってどうする。信用にかかわるぞ。大丈夫、この魔法の盾はグライメタルを使っている。6ランクの力の弱い方のやつらまでならいける。それ以上の攻撃力になるとわからんが」
「やっぱり買い替えの心配あるじゃないですか」
「おいおい、本当に6ランクに挑むつもりか? 6ランクのモンスターとなると災害並みだ。発見自体も困難だし、会ったらまず殺される。どれだけ良い装備を揃えようとな。あんた、それだけ強くなるつもりか?」
「たしかに、まずは4ランクのモンスターの相手ね」
5ランクのダークネスウルフは、目で追うことさえ難しかったし。
更に、これがあれば魔法すら防げるようになるなら、安心だろう。
本当にこの盾が信用できるならだけど。
「まだ買うかはわからないけど、もし買ったとして、返品ってできる?」
「まあ、してもいいぞ。10日以内なら。それくらいなら融通してやる」
「そう」
なら、ひとまずはこの盾を目標にしてもいいか。
7万5千シクルは、ちょっと稼ぐの大変だけど。
「わかった。購入は考えてみる。けれど、7万5千シクルもためるまで、いつまでかかるかわからないわよ」
「ああ。それでもいいさ。この盾を気に入ってくれたのならな。こいつを購入する日を待ってるぜ」
ひとまず鎧の上下だけ買って、後は冒険者ギルドの図書室で必要そうな情報を仕入れた。
あと、グライメタルについての情報も仕入れた。本当に6ランク並のアイテムらしい。ただ、その上の金属でギレイメタルというのがあって、そっちの方が性能が遥かに良いらしく、自然とそっちが人気らしい。
やっぱり売れ残りを押し付けられたのかなあ。まあ、それでも魔法を防ぐ効果は魅力的だけど。
調べ物を済ませたら、銭湯に入ってゆっくりした。そのまま温かい夕食を食べて、モエルとシャインと共に寝る。
今日は平和な一日だった。でも、また明日からお金を稼がなきゃ。
冒険者ギルドに来た。もちろん依頼を受けにだ。
どれだけ朝早く来ても、既にギルドは混んでいる。相変わらず冒険者は多い。
今日は人混みをかきわけて、ランク4の依頼を探す。良さそうなものがあればいいのだけど。
そう思っていたら、大きな張り紙を見つけた。
集団依頼。ランク3〜5 フェスティバルプラントの討伐。1人600〜シクル
ランク3から?
あ、しかもこれ、剥がすの禁止って書いてある。不思議な依頼だ。
ちょうどいい、初めて見る依頼とモンスターだし、シルビトに聞いてみてもいいかもしれない。
私は早速受付にならんで、シルビトに聞いた。
「おはようございます、二リハさん」
「おはようございます、シルビト。掲示板にフェスティバルプラントの討伐っていうのを見たんですが」
「ええ、集団依頼を受けるのですね?」
「えっと、その前に、集団依頼ってなんですか?」
「集団依頼というのは、複数の冒険者を募集しておこなう依頼です。今回のフェスティバルプラントは、30人から50人の冒険者を募集しています」
「そんなに?」
「はい。そもそもフェスティバルプラントとは、ちょっとした家程もある大きさの、大型モンスターなんです」
「大型モンスター」
それは大きそうだ。
「フェスティバルプラントのランクは5。ですが、動きは鈍く、魔法が弱点ということもわかっていますので、ギルド職員が指揮官となって、冒険者たちを指揮して戦う、というものになります」
「なるほど」
魔法が弱点なら、モエルが役立つかもしれない。
「報酬は働き次第で増額されますが、それは指揮官が決めます。もし依頼を受けるなら青色の札を渡します。それを討伐時に指揮官に渡してください。そうすれば別の色の札を渡され、それが素材センターで換金できます」
「わかりました。では、今日はその依頼を受けてみます」
「ありがとうございます。では、ギルドの奥へ案内します。そこで簡単な説明がありますので、お聞きください」
「はい。わかりました」
シルビトが鈴を鳴らすと、カウンター奥の扉から新しい職員が現れた。
「お呼びでしょうか?」
「はい。彼女をフェスティバルプラントの対策室へお連れしてください」
「はい。わかりました。こちらへどうぞ」
「いくよ、モエル、シャイン」
「にゃー」
(そっち外じゃないよ)
「きゅー」
(そうですね)
「もうちょっと用事があるの。もうすぐまた依頼よ」
私達は職員の後についていき、すぐに人が数人程いる、広い部屋に案内された。
「こちらでしばらくお待ち下さい」
「はい」
部屋にいる人達は全員冒険者のようだが、皆離れてくつろいでいる。
私は適当に奥の方に座ろう。後から更に人が入ってくるかもしれないし。
そう思っていると、1パーティの内1人が私の方にやってきた。
「おはよう」
「おはよう」
私は一応挨拶する。
「にゃー!」
(お前、二リハに近づくな!)
「きゅー!」
(ボクだってやる時はやりますよ!)
「モエル、シャイン。お行儀よくしてて」
「カジーニャに癒やしラビットか。珍しいな」
まさかこの人もかわいいもの目当てか。
「ええ。私のテイムモンスターなの」
「俺はドッダ。そこにいるパーティ、断壁の盾使いだ。よろしく」
「私は二リハ。私も盾使いよ」
私はドッダと握手した。
「君は盾使いというか、モンスターテイマーだろう?」
「ああ、そうね。この子たちは私の仲間だから、あまりテイマーっていう気にはならないの」
「不思議なやつだ。だが、仲間を大事にしているやつは、信用できる。大分懐かれてるみたいだからな」
「ええ。皆良い子よ」
「にゃーっ」
(やる気か、やってやってもいいんだぞっ)
「きゅー」
(先輩、二リハがお行儀よくしてって言ってるんだから、やめときましょうよ)
「この子達に用があるの?」
「いや、たしかにテイムモンスターも気になるが、ニリハがテイマーだからこそ声をかけた。テイマーは珍しいからな。よかったらなにか話を聞かせてくれ」
「そうね」
暇だし、まあいいか。
「けど、話らしい話もないのだけど、ああ、この子達はふたりがかりでオシヨセソウも倒せるわ。だから、見た目通り1ランクとは思わない方がいいわよ」
「そうなのか?」
ドッダは驚いた。
「てっきり1ランク相応の強さだと思ったが、そういう個体もいるんだな。どんなやつにも油断はできないということか」
「何度もオシヨセソウと戦って、特訓したの。だから、もしもの時は、この子達を頼って。もちろん、私も。これからフェスティバルプラントを一緒に相手にするんでしょ。仲良くしましょう」
「ああ。運良く組めたらな」
「え?」
「ああ、知らないのか。ギルドの指揮官は複数いてな。正確には総指揮が1人、部隊指揮が数人いるんだが、俺たちはその部隊指揮に数人ずつ分隊として分けられる」
「へえ」
「そして担当の部隊指揮官に報酬額を査定してもらうんだが、まあ、同じ指揮官になるといいな。その時はよろしく」
「ええ、よろしく」
どうやら、思ったより組織だって行動するらしい。ただ冒険者達がぞろぞろ倒しに行くわけじゃないんだ。




