舞台役者 2
「では折角なので、こちらで食べながらお話させていただきますね」
「あ、はい」
カラエは食べかけの料理を私達のテーブルに運んで、そこで食べながら話を始めた。
「にゃー!」
(こっち来るな、人間!)
「きゅー!」
(そうだそうだ!)
「モエル、シャイン。そういうこと言わないの」
「この子達と会話ができるのですか?」
「ええ、まあ。はい、できます」
「へえ、それはすごいですね」
「あはは」
ひとまず、カラエがモエル達の言葉を理解できなくて、良かったと思っておく。
そしてカラエは、ゲキ、いや、劇について語り始めた。
「劇は、簡単に言うと、物語を再現するんです。主役が登場して、背景も造り、道具を用意して、おとぎ話を現実で感じるのです。登場人物の感情と意思、物語のクライマックスを目と耳で感じる。この高揚感は素晴らしいですよ!」
「はあ、そうなんですか」
正直なところを言うと、物語なんて聞いた試しがない。いや、小さい頃に親から聞いた、悪い子はモンスターにつれさられるとか、良いことをしていれば神様が見ていてくださるとか、そういう話なのだろうか?
それを、役者が再現すると。
うーん、興味深いの、だろうか。
「二リハは、あまり劇に興味がない?」
「興味がないというか、いまいちイメージできないというか」
「やはり、一度見た方がわかりやすいかもしれませんね。そうだ、ボクが入っているジボロ演劇団の場所を教えますよ。食べ終わってからでも行けば、演目が見れるかもしれません」
「そうなんですか。じゃあ、行ってみようかしら」
「見学料は、1人15シクルです」
「たか、くは、ないかも。でも、お金取るんですね」
「はい。一応仕事ですから。でも、人気なんですよ。今やっていおるのは確か、ダークネスウルフリベンジです。ダークネスウルフを倒せず敗走した冒険者パーティが、敗因を1人の魔法使いに押し付けて、パーティから除名させ、その後魔法使いが新しいパーティでダークネスウルフを倒すというお話です」
ダークネスウルフ。ジュージが倒したやつだ。
「ちょっと興味があるかも」
「では一度、見てみませんか? もちろん、この後時間が空いてるならですが」
「なら、見てみようかしら。カラエ、案内よろしくおねがいします」
「はい。お任せを」
そこで私、ふと思う。
「ところで、カラエはその劇団に入っているのですよね。なら、その劇に関わっているのですか?」
そこで、カラエの動きがちょっと止まった。
「ははは。実は、俺、役に選ばれなくて、暇をもらってまして」
あちゃー。
「はあ」
「これがカラエのため息の正体だったんですね」
「はい、まあ。実は俺、それほど舞台に立ててないんですよ。立てる演目も3回に1回くらい。しかも全部セリフがあるかないかの端役。自分では頑張っているつもりなんですが、才能ないのかなあって、最近思うようになりまして」
そうか。カラエも悩んでいたのか。しかも、結構重要な悩みだ。
でも、悩んでいるのなら、相談にのってみるのもいいかもしれない。少なくとも、悩みがふっきれるきっかけを作れたら、良いな。
「カラエの夢は、劇で活躍することなんですか?」
「はい? そうです」
「では、夢を見続けて死ぬ覚悟があるのなら、そのまま続けて、努力するべきです」
「!」
「私はほぼ他人なので、何を言っても無責任なのかもしれませんが、諦められる夢は、忘れていいと思います。その先にも、幸せがあります。必ず」
「二リハは、随分すごい決断力を持っているんですね」
「はい。私は、自分の恋を続けることを選んだんです」
私はカラエに話した。シイドのこと。冒険者をやる理由。
すると、カラエは感心した。
「すごい。強い人なんですね、二リハは」
「私なんてまだまだです。でも、諦められないから、頑張れる、続けられる。前に進める。それが私の今です。この子達も、助けてくれるし」
私はもうごはんを終えて退屈そうに待っているモエルとシャインを一度見た。
「だから、私は頑張れます。カラエも、頑張れるのなら、続けてみてもいいかもしれませんよ」
「そう、ですね。ありがとうございます。二リハ。おかげで元気が出ました。ボク、役者を続けたいと思います」
「はい。あ、そうだ。もし役に選ばれないのなら、自分で決めればいいんじゃないですか?」
「え?」
素人案だと思うが、我ながら良い線いっていると思う。
「自分で劇を作るんですよ。そうしたら自分が望む役をやれるじゃないですか」
「ボクが劇を、作る。そんなこと、考えたこともなかった」
カラエが目を丸くしている。
「まあ、劇をやること自体が、どれだけ大変なことかはわかってませんが、それも、選択肢になれたらいいなあ、と」
「はい、はい。そうですね。ありがとうございます、二リハ。ボク、考えてみます!」
カラエは嬉しそうに言った。
もしかしたら、力になれたかもしれない。そうだったら、良いな。
「あ、ところで二リハは、どうしてため息をつかれていたんですか?」
「ああ、それは。実は私、モンスターテイマーなんですけど、テイムが使えないんです」
「え?」
私は、モエルとシャインを、魔法使いギルドの力を借りてテイムしたことを話した。
「それで、テイムを覚えたいんですけど、なんでも、このまま授業を受けても、魔法を覚えられる可能性は200人に1人くらいらしいんですよね。それで、どうしようかと」
「なるほど」
うむ。実に悩ましい。
「二リハの夢は、シイドに会うことで、魔法使いになることでもあるんですか?」
「え、いいえ?」
まあ、なれたらいいなあ。とは思うけど。
「では、魔法の修行は、趣味程度に考えたらどうでしょう」
「趣味、ですか」
私にそんなことができる余裕があったとは。
「確かに魔法は使えたら便利です。ですが、使えるかわからないことを努力するのは、不安にもなるし大変です。だったら、もっと気を楽にして考えた方が良いと思いますよ」
「なるほど」
確かに、そうかもしれない。
私はテイムを覚えるかどうかを、大げさに考えすぎていたのかもしれない。
「ボクは二リハのドラゴンに会う夢を応援します。二リハはボクを励ましてくれましたから。ですがそんなニリハは、ドラゴン探し、そして冒険者としての仕事と、やることが多すぎます。だから、魔法のことは、あったら便利、くらいの考えでいいかもしれません」
「なるほどお」
確かに、それが無難かな。
別に、マジックアイテムも買えないわけじゃないし。
ちょっとまだ、魔法使いには心惹かれているけど。
「ありがとうございます、カラエ。おかげで悩みが消えたような気がします」
「ボクの方こそ、力になれたのなら良かったです。ボクなんかでも、誰かのためにやれることがあるんですね」
「ありますよ、それは。皆、誰かの力になって生きています」
たまには、幸運の風みたいなやつらもいるけど。まあ、そこはそこということで。
「ありがとう、カラエ。今日は、あなたに会えて良かった」
「ええ。ボクもです」
私とカラエは2人して笑った。
「にゃー」
(暇ー)
「きゅー」
(そうですねー)
おっと、ちょっと喋りすぎたかもしれない。
「カラエ、そろそろ出ましょう」
「はい。では、ジボロ演劇団まで案内しますね」
ブルーグリーンを出て向かった先の劇とやらは、初めて見たけど、なかなか楽しめた。
仲間から酷いことを散々言われて脱退させられた魔法使いが、運命的な出会いを経て新しいパーティを作り、ダークネスウルフを倒す。
そして、魔法使いは最後にこう言うのだ。
「ありがとう。君たちのおかげで、俺は前よりも強くなれた」
それは、ハッピーエンドなのだろう。最後は今の仲間と手をつないで、笑い合って、そこで舞台が幕を閉じる。
正直言うと、戦いのシーンやダークネスウルフの作り物は、結構芝居臭くて微妙だった。
でも、役者達の演じる熱意は伝わってきて、そこは本物だった。
他の観客も大拍手。私も混じって手を叩いた。
「にゃー」
(ここうるさい)
「きゅー」
(そうですねー)
モエルとシャインは人の足しか見えないだろうから、退屈だったと思うけど。
ここが、カラエの目指す場所なんだな。と、深くそう思った。




