シャイン 4
残りのアラケルまでの戦闘は、ジュージと青の風刃に任せた。
私は癒やしラビットが心配だったし、モエルはもうほとんど魔力切れだったからだ。でも、モエルも警戒をしてくれたし、少しは役に立ったはず。
抱いている間、癒やしラビットはずっと動けず、静かだった。きっともう少しの辛抱だから、待っててね。
デミングルも、私が抱く癒やしラビットを見ても嫌な顔はしなかった。本来、この道中ではダークネスウルフなんて現れないらしい。あまり次の強敵が現れる心配はしていないようだった。
むしろ、癒やしラビットが仲間になったら、ぜひまた護衛を頼みたいと言ってきた。なんだか、癒やしラビットをポーションのように見ている気がする。私はそうではない、と思いたい。
というわけで、本当に大した戦闘もなく、夕方頃アラケルについた。
「冒険者の諸君、護衛ご苦労。報酬は、明日以降にこの町のデミングル商店で渡したい。住所は今渡す。今回は予想外の強敵の襲撃もあったから、追加報酬も支払う。期待していてほしい」
デミングルは偉そうにそう言うと、最後にジュージを見て言った。
「それで、ジュージ。例の剣の件は、後で必ず伺う」
「ああ。明日な」
「うむ。では、必ずな」
こうしてデミングル達の馬車は、先に行ってしまった。
「さて。これで仕事は終わりだ。二リハは、まずはそのウサギだな」
ジュージがそう言った。私はうなずく。
「うん。まずは魔法使いギルドを探さなくちゃ。それか、冒険者ギルドで道を訊かないと」
「俺達も冒険者ギルドに行くぜ。そこで一度パーッと飲まないとな。そこまでは一緒に行こうぜ」
センラがそう言った。けどクワッシングが私に近づく。
「二リハ、魔法使いギルドに行くなら、俺が案内しようか?」
「え、いいの、クワッシング」
「ああ。そのかわり、俺も、マジックアイテム化した魔法を見てみたい。それでもいいか?」
「ええ、いいわよ。大したことでもないし。お願い、すぐにつれてって」
「ああ、わかった。というわけで、皆、ギルドで先に飲んでてくれ」
「はー? なんだお前、俺達放っておいて別行動か?」
「まあ、二リハは少しの間だが、共に戦った仲間だからな。気持ちはわかる。クワッシング、早く合流しろよ」
「ああ、わかった」
センラとダズエルにそう言われ、クワッシングはうなずく。
「じゃあクワッシング、魔法使いギルドはどっち?」
「あっちだ。少し離れてる」
私はクワッシングの後を追い、魔法使いギルドへと急いだ。
魔法使いギルドでテイムのマジックアイテム作成を頼むと、しばらく時間がかかって、やがてギルド内の個室に呼ばれた。
そこにいたのは、高齢の男性と私と同い年くらいの女性。
「あなたがテイムのマジックアイテムが欲しい方だね?」
男性にそう言われた。
「はい。この癒やしラビットをテイムしたくて」
「きゅー」
「なるほど。一回分でいいのかい?」
「はい。お金はあります」
「わかった。強気なお嬢さんだ」
「では、シーンズ師、テイムの魔法をかけます」
「うむ。やってくれ。ジョハナ君」
女性と男性はそう言うと、マジックアイテムの札を2人で作り始めた。
テイムの札ができるのは早かった。後は、お金を払って使うだけ。
私は癒やしラビットに札をかざす。今回も緊張する。
お願い、うまくいって。
私は祈りながら、呪文を唱えた。
「テイム」
札から魔法陣が生まれ、広がる。これは今まで通り。
「お願い。あなたも私の力になって。私を受け入れて」
「にゃー」
(お前。二リハに従え)
モエルも応援してくれている。だから、お願い!
「きゅうー」
すると、魔法陣はモエルの時と同様、癒やしラビットの中に吸い込まれていった。
これは、成功、よね?
私は思わず癒やしラビットを見つめる。
すると癒やしラビットは、私の腕に顔をこすりつけてきた。
やった。たぶん、成功だ。
「ありがとう。私達を仲間として認めてくれたのね」
「きゅー」
(う、うん)
「私はニリハ。あなたは、えーと、名前が必要ね。じゃあ、癒やしラビットだから、癒やし、いやし、しゃい、シャイン。あなたの名前は、今日からシャインよ」
「きゅー」
(ボク、シャイン)
「それじゃあ、まずは、あなたの傷を治さないとね」
「きゅー!」
(それなら、ボク、できるよ。回復魔法!)
癒やしラビットは、柔らかな光を放った。
「これで、大丈夫なの?」
「きゅー!」
(うん!)
「にゃー!」
(ならさっさと自分で立て、新入り!)
「きゅ!」
(は、はい!)
シャインは私の腕から降り、立つ。良かった。どうやら本当に大丈夫みたい。
「良かった。それじゃあシャイン、突然だけど、今日から私とモエルの旅を手伝って。これから一緒にやっていこうね」
「きゅー!」
(うん!)
「にゃー!」
(わかったな、新入り!)
「きゅー!」
(はい! えっと、モエル!)
「にゃー!」
(さんをつけろウサギ野郎!)
「きゅー!」
(はい! でもボク、野郎じゃないです!)
「モエルも、シャインと仲良くね」
「にゃー」
(もちろんだけど、シャインは新入りだから)
こうして私のお供が、二匹の可愛いモンスターになった。
これから何が待っているかはわからないけど、この出会いだけで、きっと、旅を始めた意味があったと思う。
「では、ありがとうございました」
「ああ、しばし待たれよ」
「はい?」
私は男性の、シーンズ師に呼び止められた。
「お前さん、きっといつかまた、テイムを必要とする時がくるじゃろう」
「は、はい。たぶん」
確証はないけど、否定もできない。今日だって、シャインを拾ってきたわけだし。
「であるならば、更にマジックアイテムを買っておくか、ここで覚えていくといい。テイムを覚える師なら、ここにいるジョハナ君がやってくれる。だよね?」
「はい。シーンズ師。私なら協力いたします」
「というわけで、どうかな。今すぐ決めなくてもいい。考えてみなさい」
「はい。わかりました」
「うむ。では、帰ってよい」
「はい。ありがとうございました。行こう、モエル、シャイン、クワッシング」
「にゃー」
(うん)
「きゅー」
(はいっ)
「ああ」
こうして私達は、魔法使いギルドを出た。
「ありがとうな、二リハ。貴重な体験をさせてもらって」
「え、別に私は何もしてないわよ」
「とんでもない。テイムも十分珍しい魔法だし、魔法の札化だって高度な技術だ。しかも、テイムは無事成功。とっても有意義な時間を過ごせたよ。これだけでアラケルまで来たかいがあったってもんだ」
「そんな、大げさよ」
「魔法使いじゃない人にとっては、そうかもしれないな」
クワッシングがそう言う。
確かに私は、魔法使いじゃない。
でも魔法使いのありがたさも、クワッシングが今回の旅で助けてくれたことも、忘れてないつもりだ。
モエルやシャインが今私の隣にいてくれるのも、魔法のおかげだし。
だから、今はクワッシングに、ちょっとだけお礼をすることにした。
「それじゃあクワッシング、今からギルドのバーで何か奢るわよ」
「え、いいのか?」
「ええ。今回は助けてもらったしね。あ、でもクワッシングだけっていうのもあんまりか。じゃあ、ダズエルとセンラとナーラにも、何か奢らなきゃ」
「別にいいぞ。無理なんかしなくても」
「今日はそういう気分なの。もちろん、モエルとシャインにも買ってあげるわよ」
「にゃー!」
(俺肉ー!)
「きゅー!」
(ボクもお願いします!)
「なんか、冒険者も捨てたもんじゃないな」
「え、クワッシング、何か言った?」
「幸運の風みたいなやつらもいれば、ジュージさんやニリハ達みたいな人もいる。そして、君たちに出会えた俺は、幸運だった。そう思った」
「そうね。いろんな人がいる。でも、だからこそ、私は私らしく、クワッシングはクワッシングらしく、それぞれ旅と魔法使いを、続けましょ」
「ああ、そうだな。それじゃあ今夜は、奢ってもらおう」
そう言って私達は、もうすっかり暗くなった道を歩いた。




