アラケルへ 6
改めておこなったジュージとの稽古は、私達には好評だった。
ジュージは面倒そうにしていたが、ジレト村を出た日の夜はまた道の途中の宿屋で野宿だったし、これくらいのメリットはあっていいと思う。
そして、ジュージの稽古を通して、青の風刃とも更に仲良くなれた。もともとは一人旅の予定だったのだ。楽しく野宿の夜を過ごせるのは良かった。
森の中での野宿だったので、少し薪を集めてモエルの火で焚き火をした。最初はモエルの火がちょっと強すぎてすぐ薪が燃え尽きたけど、ダズエル達は笑って、凄く温かかったと言って、感謝してくれた。
そんな旅も順調に続いて、ジレト村から出発して2日後。
私達は次の村、ルトミ村に到着した。
「ようこそルトミ村へ。冒険者の皆さんも、ぜひごゆっくりお過ごしください!」
門番ににこやかに言われた。ひとまず愛想笑いをしておく。
ルトミ村はジレト村よりも大分小さく、家も木製の小屋が多かった。
それでも私の故郷よりは広くて活気があった。まあ、故郷はどこかの町の通り道にあるわけでもなく、領地の隅の方にあったから、仕方ないか。
今日はここで宿をとることにする。デミングルと同じ宿だ。
「お一人様一晩百シクルになります」
「あの、この村にはレストランもありますか?」
「はい。ございますよ。半分酒場のようになっていますが。では、お食事はいりませんか?」
「え、ごはんももらえるんですか?」
「はい。一階で朝と晩に2回ご用意できます」
「じゃあ、お願いします。この子の分も」
「にゃあ」
(肉を食わせろ)
「ああ、ペットですか?」
「いいえ、テイムモンスターです」
「ああ、なるほど。じゃあ、えっと。ええ、同じものをご用意できますよ。ですが、そのサイズだと子供用のお食事ですね。朝と晩の食事で20シクルになります」
「はい。あと、体を拭く布とお湯をください」
「お客様。それでしたら、村に銭湯もありますよ」
「え、あるんですか?」
「はい。この村は旅人を癒やすための村ですので、できるだけ快適に過ごせるよう設備が整っているんです」
「なるほど。ではそちらを利用します」
「はい。お客様のお荷物は、部屋にある鍵付きのアイテムボックスにお入れください」
「はい」
良いことを聞いた。早速入ってこよう。
ひょっとしたら、ジレト村にも銭湯はあったのかな?
モエルと共に銭湯に入った。
「モエルは、先に体洗おうね」
「にゃあー!」
(ニリハ、何をするー!)
モエルは散々飛び跳ねたりして抵抗したが、私も容赦しない。折角の機会に、きれいになってもらわなければ。
モエルと散々戦った末、結局一緒に湯船に浸かる。ふう、温かいお湯が気持ち良い。
「はあ、生き返る」
「にゃあああ」
(思ったより気持ち良い)
「モエルもお風呂、気に入ってくれた?」
「にゃー」
(うん。まあ、たまには、いいんじゃない?)
良かった。今度からはもっとスムーズに入れられそうだ。
「二リハのお風呂は、にぎやかね」
「あ、ナーラもお風呂ね」
「うん。ジレトでは入ってなかったみたいだけど」
「あ、やっぱりあったんだ。あの時は、ちょっといろいろあって。ナーラは知ってたのね」
「うん。前に一回、護衛の依頼で通ったことがあって。次のアラク村にも銭湯はあるわよ。村って閑散としてるけど、こういう場所はちゃんとあるのね」
「私の故郷にはなかったわよ」
「え?」
「私の故郷には銭湯なんてなかったわ。やって井戸の水を浴びたり、お湯にして使うくらいよ」
「あはは。それは、もったいないね」
「うん。もったいない。けど、銭湯って広いし、ずっと温かいし、お湯を張るのも大変じゃない?」
「そうね。でも、だからこそ良いんじゃない。この場所が少しお金払えば使えるんだからさ、良いわよね」
「たしかに」
「にゃー」
(ナーラ、ニリハより胸小さい)
モエルの言葉が通じなくて良かった。
「この村って、結構宿があるのよ。5件くらい?」
「へえ、そんなにあったんだ」
「そう。でも、前回泊まった宿を避けたらね、なんとびっくり、宿泊料金が同じ百シクルだったの!」
「へえ、それは、普通なんじゃない?」
「どこがよ、普通なら70シクル、ちょっと高くても80シクルが狙い目じゃない!」
「へ、へえ」
そうなんだ。
「ごめん。私、宿に泊まるの初めてだから。ちょっとそこのところはわからない」
「へえ、そうなんだ。てっきりニリハもこういうの慣れてるんだと思った。でも、どうもこの村、意図的に皆宿が同じ百シクルみたい」
「ふうん。でも、いいんじゃないの?」
「良いのは宿側だけよ。こっちは魔力ポーションや装備のお金でずっとカツカツだっていうのに、宿で贅沢するなんてとんでもないわ。まあ、良い宿だけど。ごはんも美味しかったし、量多いし」
「じゃあ良いじゃない」
「いや、そこは割り切れない。ううーん。二リハはお金の苦労がわからないかなあー。ひょっとして金持ち?」
「ううん。ただ、料金に見合う仕事をしているなら、それに応じて払う気持ちはあるってだけ。私もレストランで一生懸命働いてた時があったから、少しでも多くお客からお金を取りたいって気持ちはわかるの」
「やっぱり二リハはお金持ちだ。お金持ちの思考だ!」
「だから、そういうわけじゃないって」
「いい、二リハ。お金っていうのはね。あればあるほど嬉しくて、出せば出す程寂しくなるの。すなわち、幸せそのものよ!」
「そんな極論な。ほら、ナーラ。肩までお湯につかって。雑念は捨てて、今は身も心もきれいになりましょう」
「そうね。すー、はー。気持ち良いー」
「気持ち良いー」
「にゃー」
(ニリハ、もう出たくなってきた)
「モエル、もうちょっと待って」
こうして私達は銭湯を堪能した。
身も心もポカポカになった後、ちょっと湯冷ましして、夕方になったので宿に戻る。
そこで夕食をもらって、ちょうどジュージがいたからジュージと一緒に食べた。
「ジュージ、一緒に食べよう」
「お、ああ。なんだ、二リハか」
「誰かと思ったの?」
「俺に話しかけるやつなんて大抵ろくなやつじゃないからな。からまれたのかと思った」
「別にからんではないけど、ひょっとしてジュージ、私のやつろくなやつじゃないって思ってる?」
「ああ、まあ、お前は、うーん。ろくでもなくは、ややないな」
「ややないって何」
「いいから飯食えよ。お前」
「うん。はい、これモエルの分ね」
「にゃー」
(良い匂いする。ジュージは臭いけど)
「そういえばジュージ、お風呂入ったの?」
「いいや、お湯で体を拭いただけだ」
「ダメよ、もったいない。銭湯に行けばいいじゃない。気持ち良いわよ」
「少しの間でも武器を手放したくないんだよ。わからないか?」
「わからないわ。だってここ村の中だし」
「にゃー」
(やっぱり美味しい)
「お前はもっと緊張感を持て」
「村の中で緊張感持つのは違うと思うわ。もぐもぐ。あ、本当に美味しい」
久しぶりに暖かくて美味しい食事だ。気を緩めたら涙を流してしまうかもしれない。
「なあ、お前さあ」
「二リハって呼んで」
「二リハは、ドラゴンに一目惚れしたから探しに行くんだろ?」
「ええ、そうね」
「別にそこまでする程のことか?」
「私にとってはね」
「そうかもしれないけど、例えば、町でそれなりの金持ちとか、かっこいいやつ見つけて、一緒になって、幸せに暮らした方が、楽なんじゃないのか?」
「それがジュージの恋なの?」
「あ?」
「それはなんだか、つまらないわね」
「そうか」
「あ、悪い意味じゃなくて。私の恋はもう、彼、シイドにもう一度会うこと。なの」
自然にそう思う。それが私の、やりたいことなんだって。それは今も、変わらない。
「生まれ育った故郷で、やって来た町で、自然に出会って、自然に惹かれ合って、自然に付き合って、幸せを見つける。それも良いと思うわ。思うけど、それは私の幸せじゃなかったから。だから、私の恋はこの旅そのもので、これは私だけの恋なの」
ジュージは私の顔を見つめた。
照れはしないけど、なんだろう。
「二リハ、お前さ」
「うん」
「変わってんな」
「余計なお世話」
私はもう一口ごはんを食べた。
うん。美味しい。




