アラケルへ 3
「ニリハ、交代だ。起きろ」
「にゃー!」
(ニリハに触るなー!)
「ううーん」
ふと気づくと、近くで騒がしい声がした。
「うお、なんだこいつ。やめろ、引っかくな!」
「にゃー!」
(ニリハは俺が守るー!)
重いまぶたを開けてみると、モエルがジュージにおそいかかっていて、ジュージはそれを、盾でたやすくしのいでいた。
ああ、そうか。もう見張り交代の時間か。
「ありがとう、ジュージ。モエル、おいで」
「にゃー!」
(こいつ、二リハに近づいた!)
「うん。私は起こしてもらったの。大丈夫よ、ジュージも怖くないでしょ?」
「にゃーっ」
(うーっ)
モエルは少しの間ジュージを睨むと、不意に私の方へきた。
私はモエルを抱きしめてあげる。
「ありがとう、モエル。私を守ってくれたんだね」
「にゃーあ」
(ニリハ、俺が守る)
「おいおい二リハ、飼い猫のしつけはちゃんとしておけ」
「努力はするわ」
「それじゃあ見張り交代だ。後は任せたぞ」
「うん」
青の風刃の方はもう、交代を終えていた。ナーラと合流する。
「それでは二リハ、私達は月が近月星から離れるまで動くまで見張りましょう」
「ええ」
近月星は3つ縦に並んでいる。そのすぐ近くを月達が通りすぎてから、朝が来る。
月の位置を確かめておくと、今は夜の中頃という感じだ。交代のタイミングとしてはベストだろう。
「モエルも見張り、お願いね」
「にゃー」
(任せて)
「ナーラ、時間が過ぎるまで、何かお話してましょうか」
「ええ、そうね。じゃあ、私から話す?」
「うん。お願い」
「そうね。じゃあ、一番最初から話そうかな」
私が冒険者になろうと思ったのは、ダズエルとセンラがいたからなの。
私の回復魔法は、すぐに才能が開花したの。私は足も速くなかったし、歌も得意じゃなかったから、すぐに自慢になったわ。
近所の子供たちに得意げに見せびらかして、自分が偉くなったつもりになってた。
そしたらすぐにダズエルが私に、ナーラが皆の傷を治すんだったら、俺は皆を守る剣士になるって言い出して。薪を一本持ち出して、振り回し始めた。ダズエルは最初から強かったわ。年上の子ともケンカして勝ってたから。そして、ケンカが終わったら言いに来るの。相手が怪我したから治してって。私はお姉さんぶって、仕方ないわね。って言って、魔法を使ってた。
その後すぐかな。ダズエルを倒すために、センラが壊れた箒を持って戦いに来たの。
「お前は俺が倒す!」
だって。センラの方が棒が長いから有利だったんだけどね。なかなか決着がつかなくて、良い勝負が続いたの。そしたら皆も私も、ハラハラしながらそれを見続けてね。最後は結局、お互いに棒が当たって引き分け。
それからダズエルは、誰にも負けないくらい強くなるって言い出して、センラの方は、絶対ダズエルよりも強くなるって言い出して、どっちももっと無茶するようになったわ。私はそんな2人を見て、ああ、2人共私がいないとすぐ傷だらけになっちゃうなって。思って。それからずっと一緒にいるの。それが青の風刃の結成秘話。
「なんか、良いわね。幼い頃からの仲間、っていうことでしょ?」
「にゃー」
(話長い)
「仲間っていうか、腐れ縁っていうか。でも、2人といて悪い気はしないわ。まあ、たまに、いや、しょっちゅうハラハラさせられるけど」
「わかるわ。私が生まれた村の同い年の男達も、いつも無茶して、大したことないくせに偉ぶってて、元気に遊びまくってた。まあ、それにつきあわされるこっちはちょっとうんざり気味だったけどね」
「そうだよね。あっ、クワッシングは、仲間を求めてパーティ結成の時に知り合ったって感じかな。魔法使いには、研究派と実戦派がいるんだって。で、クワッシングは実戦派。研究するお金もないけど、魔法を実用的に使いたいんだって、言ってた。最初は魔法一辺倒だったけど、今はちょっと棒術もできるよ。魔法を使うここぞという時を待つだけじゃ、案山子も同然だって、今すっごい努力してる」
「へえ。確かにジュージと戦ったりもしたわね。なるほど」
「まだランクは3だけど、実力的には4はあると思うの、私達。3ランクのモンスターには余裕で勝ってるし。でも、6ランクのジュージさんと比べたら、私達はまだまだね。この一晩で十分思い知ったわ」
「そんなことないわ。と言いたいけど、確かにジュージは強い。けれどだからこそ、いつでも慎重になれると思うの。思い上がるよりは良いと思うわ。私自身、そう思う」
「そういえば、二リハも結構やるね。男たちと違ってジュージさんに一歩もひるまない気迫、凄かったよ」
「ありがとう」
「実力はたぶん、もうちょっとだけどね」
「そこももっと努力するわ」
「ねえ、二リハの話も、そろそろ聞かせて。というか、二リハってジュージさんのこと、狙ってるの?」
「へ? なんで?」
「一緒にパーティ組んでるじゃない。ひょっとしたらって」
「ないない。ありえない。そもそも私は、初恋を見つける、いいえ、続けるために冒険者になったの」
私はシイドとの出会いを、なるべく簡潔に話した。
「へえ。ステキ。二リハ、旅頑張ってね!」
「ええ、頑張るわ」
「そっかあ。まさかドラゴンと会って恋できるなんてねえ。ねえ、そのシイドって、イケメン?」
「ええ。イケメン」
「うちの男どもやジュージさんなんて目じゃない?」
「うん。目じゃない」
「にゃー?」
(俺は?)
「モエルもとっても大切よ。ジュージと同じくらい」
「にゃーっ」
(なんだとーっ。どんなやつだそいつはー)
「そっか。そんな旅ができるなんて、良いわね。二リハは」
「うーん、暮らし的には、そんなに良くはないわね。冒険者って、大変だし」
「それはそうだけど、でもそれを言ったら、私だってそうだし。何より、恋に生きるって最高の生き方じゃない!」
「そうね。私もそう思う」
「二リハって情熱的なのね」
「確かに情熱が無かったら、今頃まだヨツヘインにいたでしょうね」
心のどこかではその方が正解だとも思うけど、でも、結局私は、初恋を捨てられなかったから。
だから、どんな終わり方が待っているにしろ、最後まで旅は続けたい。
シイド、今どこにいるのかな。
きっと私のことなんて考えないで、眠ってるんでしょうね。
ふと、その時。
「にゃー!」
(ニリハ、敵が来る!)
「ナーラ、敵が来るみたい。モエルが見つけた」
「え、どこ?」
「にゃー!」
(そっち!)
私はモエルが見る方向を一緒に見る。
「グウウーッ」
そこには、ワンドッグが一体。
「ワンドッグ、一体だけよね」
「にゃー!」
(うん!)
「このくらいなら私達だけでいけるか。やれる、二リハ?」
「オーケー。任せて」
私は剣を抜き、盾を構えて歩いてワンドッグに近づいた。
「ワン!」
ワンドッグは私に近づき、正面から襲いかかってくる。
私はタイミングを合わせて剣を振り、ワンドッグを倒すべく最初の一撃を与えた。




