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アラケルへ 1

 旅立ちの朝が来た。

「ジュアラ、それじゃあ、行ってくるね」

「うん。元気でね」

 ジュアラと別れて、待ち合わせの場所へ行く。

 門の前まで行くと、何人か待っている人がいた。けど、馬車はまだない。

 どうやらジュージもデミングルも、まだ来ていないようだ。

 しばらく待つと、ジュージが来た。私はすぐ声をかける。

「おはよう、ジュージ」

「ああ、おはよう。早いな。気合いが空回りするなよ」

「そうね。デミングルはまだ来ないわよね?」

「みたいだな。まあ、もう少ししたら来るだろう」

 私達は他愛無い話をする。

「ジュージはアラケルまで行ったことがあるの?」

「ああ。一応な。少しはモンスター狩りもやった。まあ詳しくは知らないがな」

「アラケルってどんなところ?」

「あー、ここより人が少ない感じだな。広々としてる。畑が多いんだ。あそこの野菜は大きいし、とれる麦は多い。土地が肥沃なんだな」

「そう。良いところなのね」

「どうかな。皆生活は豊かだが、あそこは地主と労働者で貧富の差が激しい。豊かさでいえば、ここの方が上だな」

「ここは、良いところすぎたわ。生きるのも大変だったけど、いろんなものがあった。そういうのを考えたら、ここより良いところは滅多にないかもね」

「二リハは本当に田舎者だなあ。一番物があふれている場所といったら、王都だ。あそこには全ての物が集まる。ヨツヘインなんて比べものにならないくらいだぞ」

「へえ。ジュージは王都に行ったんだ」

「まあな」

「それでどうしてヨツヘインに?」

「まあ、王都の高ランク依頼は、早いもの勝ちでな。よく奪いあいになるんだ。そのくせ危険が多くて、用心はいくらしてもし足りない。指名依頼を受けられるようになれば安定はするが、お抱え冒険者みたいになって雇い主の派閥に組み込まれるようになる。それもまた危険でな。別派閥の冒険者と険悪な空気にもなったりするから、金は稼げても、良いところではなかったな。モンスターでなく人間を相手にするのはもうごめんだ」

 ジュージは肩をすくめる。

「まあ、ここでも幸運の風と一悶着あったがな」

「それは、運が悪かったわね」

「まあ、やつらはすぐ捕まるだろうがな。どう背伸びしても4ランクだ。犯罪ギルドに逃げ込まない限り、逃げ道なんてない」

「あるんだ、犯罪ギルド」

「ああ。ここも大きいからな。それに、兵団と裏でつながってるから、根絶やしにもできない。流石に一介の冒険者、それも賞金首を助けることはないだろうが、一応気をつけないとな」

「だからジュージは離れるのね、ヨツヘインを」

「まあ、仕事でケチがついたってのが一番の理由だがな。それでもここが全てじゃない。また適当な町を探して冒険者を続けるさ」

「ここが全てじゃない、か」

「ああ。そこだけは似てるな。俺達」

「そうかもしれないわね」

「にゃー」

(お前とニリハ、全然似てない)

 ジュージと話をしていると、やがて、馬車が3台やって来た。


 あれがデミングルの馬車だろうか。そう思って近づくと、もう1パーティも近づいてきた。

 馬車にはやはり、デミングルが乗っていた。手を軽く上げて挨拶してくる。

「おはよう、諸君。揃ってるね」

「おはようございます」

 私だけそう言った。

「で、すぐに出発するんだな」

 ジュージがそう言う。

「ああ。ジュージ達には右を、青の風刃達には左と後方を護衛してもらいたい。前方で何かあればすぐに呼ぶ」

「わかりました」

 もう1パーティの、青髪の男が返事をした。彼らが青の風刃か。

「では出発」

 デミングルはすぐにまた馬車を動かした。私達が歩いてついていけるスピードだが、少し急ぎ気味だ。

「右だってよ」

「わかってる」

 私達はすぐに馬車の右側につく。その際にジュージが手を上げて青の風刃達に声をかけた。

「それじゃあ、アラケルまでよろしく」

「ああ。よろしく」

「よろしくお願いします」

 私もそう言って、ちょっと四人の容姿を見た。

 装備は、剣士、槍使い、魔法使い、回復魔法使いのようだ。魔法使いは基本白以外の外套、杖装備をしていて、回復魔法使いは決まって白色の服を着ている。見ればわかりやすいためだ。

 回復が使えるなら、頼もしいかもしれない。何かあった時は頼ろう。

 魔法使いは基本、攻撃魔法の専門職だ。うちのモエルのように、いざとなったら頼りになるはず。

 剣士と槍使いも、3ランクだから私と同じか、それ以上に強いはず。むしろここは、私が足手まといにならないべきだ。

 ひとまず、警戒では役に立とう。後は、強いモンスターと出会いませんように。


 門を出て、道沿いに進む。

 出発してすぐに、何度か笛の音が鳴った。先頭をゆくデミングルが、私達を呼んだのだ。

 馬車の前に現れたのは、スライムやワンドッグ等。それらはすぐに倒せた。この程度なら楽勝だ。

 ただ、青の風刃と連携するのが少し気を使った。笛の音で両方呼ばれるから、連携に少し気を使う。相手は1ランクとはいえ、青の風刃に全て任せるのはどうかと思うし、逆に私達が率先して倒すのもやりすぎかもしれない。丁度いい塩梅を短い時間で相談し合うのに、ちょっと気を使った。

 更に、道の真ん中に倒れたモンスターをどかすのが面倒だった。馬車はすぐに動き出すので、討伐証明部位をはぎとる時間もない。まあ、護衛の報酬があるのだから、別にはぎとらなくてもいいんだけど、ちょっともったいない。

 それから、右側から数回、左側から数回モンスターが近づいてきて、その度に馬車が止まった。まあ、あったことといえばそれくらいで、それ以上のことは何もなかった。

 つまり、出だしは順調。危険は何もなかった。

 夕方になるまで進み続けると、道の途中に建物がぽつりとあった。馬車はそこで停止する。

「今日はここまでだ。冒険者達は外で荷馬車の警護を頼む」

 デミングルはそう言って、他の御者達と共に、荷馬車をおいて、建物の中に入っていった。私はジュージに訊く。

「ねえ、ジュージ。ここは?」

「ここは宿屋だ。まあ、素泊まりだけどな。中には何もないぞ。いや、台所はあるが、ベッドなんかはない。ただ屋根があるだけの場所だ」

「屋根があるだけって、それで商売になるの?」

「ただ行商人や冒険者が一夜をしのぐだけの場所だからな。そのくせ人通りは不定期だし、予約されてもないから、商売らしいことは何もしてないんだ。ただあると便利だから、ええと、どっかのギルドが管理してる。モンスターに壊されないように、交代制で戦えるやつが店番も兼ねて常駐してるんだ」

「ふうん。あ、井戸がある。ちょっと水もらってくるわね」

「ああ。水が切れないのも、この宿屋の利点だな」

「ああ、水をくむのか。それだったら、俺がくむから、ついでにどうぞ」

 井戸へと歩いていると、青の風刃の1人が話しかけてきた。青髪の男だ。

「ええ、ありがとう。私は二リハ」

「にゃー」

(お前、それ以上ニリハに近づくな)

「この子はモエル。あっちはジュージ。あなたは?」

「俺はダズエル。青の風刃のリーダーだ」

「一応のな!」

 後ろから槍使いがやって来た。

「俺はセンラ。未来の青の風刃のリーダーだ」

「そう。よろしくセンラ」

「にゃー」

(お前も、二リハに近づくな)

「おいおい、なんで素直に相槌打ってるのかね、二リハは」

「つまり、ダズエルは皆をまとめきれてないってことね」

「うぐ」

「そうだぜニリハ。わかってるじゃねえか。俺は何時かダズエルに勝つ。そしてその時リーダーになる!」

「つまり、センラはダズエルに負けっぱなしなの?」

「負けてない。ただずっと引き分けてるだけだ!」

「それは煮えきらないわね」

「だろ、でもきっと、もうすぐ俺が勝てるはずなんだ!」

 私は彼ら青の風刃とも話をした。

 そうして、旅の最初の夜を過ごした。



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