今、旅が始まる 4
「じゃあ、行ってくるね、二リハ」
「うん。いってらっしゃい」
早朝、2人してパン屋でパンを買った後、ジュアラだけ冒険者ギルドに向かった。
私は今日は掲示板を見ないから、家に戻ることにする。お店はまだ、閉まってるし。
「おうちに行こう、モエル。何もないけど」
「にゃあ」
(うん)
冒険者ギルドには、もう寄らないかな。いろいろお世話になったけど。
あ、でも、モンスターの情報とか、もっと見ておいた方がいいかも。
アラケルから先の町も、憶えていた方が楽かもしれないし。
よし。お店が開いてない今、そっちを優先すべきだ。
そうと決まれば、早速踵を返した。
「モエル、やっぱり予定変更。まずは冒険者ギルドの図書室で調べよう。行くよ」
「にゃー」
(としょしつって、暇なんだよなあ)
「じゃあモエルだけ家でお留守番?」
「にゃー!」
(やだ、俺はニリハを守る!)
「ふふ、ありがとうモエル。今日も良い子にしててね」
というわけで、私とモエルは冒険者ギルドのバースペースでパンをかじってから、図書室で調べ物をした。
まずはアラケルの先の町を調べる。そうしたら今度は、4ランクのモンスターの情報。
ジュージから教えてもらったブデリンやアングリーモンキーの情報もあった。
言葉だけじゃいまいち強さが思い浮かばないけど、3ランクより強いということだけはわかる。
見つかったら真っ先に逃げてもいいだろう。ただジュージがいるまでの間は、できるだけ観察して戦いを学ばせてもらおう。
それに、私が勝てそうな相手なら、倒したい。
図書室をすぐに出る。今日の私の用事は、あくまで旅の準備だ。調べ物はこのくらいにしておく。
まずは大分冒険者がいなくなった受付に並び、服屋の場所を聞いた。そしたらジュナイが、オススメの店を教えてくれた。
そこで雨具と、新しい下着なんかを買う。今着ているものを一新して、気持ちよく旅に出よう。雨への対策は、念のためだ。
ジュナイに教えてもらった店、カスタードシルク。そこで、まずは雨具を見た。
「いらっしゃいませ」
「あの、まずは雨具を見たいんですけど。冒険者用の」
「冒険者用の雨具でございますね。それでは、こちらなどはいかがでしょう?」
店員さんについていくと、紹介されたのは灰色っぽい青の外套。
「こちらはフリーズエレファントの皮で作った外套でございます。防具としても使えますよ」
「へえ。便利ですね。お値段は?」
「3万シクルになります」
さらっと言われたけど、かなり衝撃的な値段だ。流石に手は出せない。
「それはちょっと。別なのをください」
「そうですか。当店自慢の品なのですが」
高性能そうではあるが、私が欲しいのはただの雨よけの外套だ。何かあればまた買い直せるくらいの物でいい。
結局お高い商品を順々に見せてもらった後、下から2番目くらいのやつに落ち着いた。
一番安いものより軽くて丈夫らしい。更に丈夫なのもあるみたいだけど、ここから値段が危険な感じになってきたので、ここらへんのにしておいた。
あとは鎧の下に着る服を買っておく。今までのは古着屋に売って、明日から心機一転だ。
明日から食べる黒パンを買いだめする前に、もう1つ背負い袋が欲しいと思った。
冒険者用の袋と生活用の袋とを分けておいた方が良いと思ったのだ。それに入るだけの荷物にしておけば、次の旅もすぐに行けるだろう。荷物が簡単にまとめられてあれば、いつでも身軽に動ける。
というわけで、道具屋で新しい背負い袋を買った。最初のと同じやつだ。
あと念のため、薬屋で薬を買っておく。解熱剤と吐き気止めを購入。
なんでも、万病に効く薬なんてものはあんまりないらしい。ひとまず一般的な症状を抑える薬を買った。
解毒薬や傷薬は、ポーション類が速攻で効いて良いらしい。というわけで、魔法薬店にも行く。そこで3百シクルのポーションと解毒ポーションを買っておく。
ここで初めて知ったけど、ポーションは80シクルから数倍の値段まで、いろいろあるらしい。道具屋のポーションは普通より高めの効果のポーションを置いていたようだ。でも、魔法薬店にはそれ以上のものがあった。
もし私やモエルが重症になった場合、すぐに治したい。なので3百シクルのポーションに手を出した。この質になると一度切り離した指もきれいにくっつくらしい。
けれど、これより高いとハイポーションになり、値段が800シクルからになる。まだ収入が高くない今、手は出しづらかった。
まあ、護衛中はジュージがいるからなんとかなるだろう。これで旅の準備は大方終了。最後に黒パンを大量購入しておく。
「さて、これで明日の準備は終わりね。後はジュアラと一緒にプラムローナーに行くだけ」
ふとそこで、思った。プラムローナーは夜になったら忙しくなる。その時では、サーナやマスターに挨拶できないのでは?
時間はちょうど、午後になってそれなりに時間が経った後。今なら2人と話せる。
よし、会おう。そして夕方になったらジュアラをつれてこよう。
プラムローナーに来た。
「いらっしゃいませ、あ、二リハ!」
「久しぶり、サーナ」
良かった。サーナは元気そうだ。
「久しぶりー、あ、その猫は?」
「にゃー」
(美味しそうな匂いがする)
「私の仲間、モエルよ。カジーニャだけど、大人しくて良い子だから、この子も店に入れてあげて」
「へー。君、モエルって言うんだ。かわいいね?」
「にゃー!」
(人間、美味しいものを出せ!)
「サーナ、ひとまず私にオレンジ、モエルにミルクをください」
「ええ、わかったわ」
私はお金を払い、サーナとマスターも呼んでから、今まで私が何をやっていたかを話した。そして、これからのことも。
「にゃー」
(ニリハ、おかわり)
「ダメ、飲み過ぎよ。今日はこれだけ。というわけで、サーナ。私、明日から町を出るわ」
「そっか。とうとう行っちゃうんだね。でも、ここも二リハが帰ってこれる場所だから、それは憶えておいて」
「勝手に帰れる場所にするな」
マスターはそんなこと言ってるが、きっとツンデレである。
「ありがとうサーナ。マスターも、雇ってくれた恩は忘れません」
「普通に忘れていいぞ」
そんなこと言うが、やっぱりマスターはツンデレである。
「もう、マスター。二リハ、いつでも帰ってきていいからね!」
「うん。きっと、旅が終わったら、また来るわ」
「それじゃあ、何か食わせてやる。俺は料理人だからな。人に美味いって言わせるのが仕事だ。旅の門出を祝うのにちょうどいいだろう」
ほら、やっぱりツンデレだった。
「ありがとうございますマスター。それじゃあ、夜、友達と一緒に来るので、その時二人分お願いします」
「ああ、わかった」
「出た、マスターのスペシャルメニュー。二リハ、本当にラッキーね!」
「そうなんだ」
「そうだぞ」
「ニャー」
(もっとミルク飲みたい)
その夜、私はいっぱいお金を取られたけど、ジュアラと一緒に見たこともないごちそうを食べた。
やっぱりマスターは、ツンデレじゃないのかもしれない。
「うわ、二リハ、ここすごい美味しい!」
「そうね。私も初めて知った。マスターってすごいのね」
「にゃー」
(美味しい!)
モエルには折角だからチキンレッグを食べさせてあげた。前からどんなのか気になっていたのだ。これもかなり美味しそうだった。
改めて、マスターには感謝だ。私は幸せな夜を過ごした。




