今、旅が始まる 3
途中でモエルに串焼きを買ってあげてから、デミングル商店におじゃました。
すると、入る時に中から出てくるジュージと鉢合わせする。どうやらジュージは先に来ていたようだ。
「おお、二リハか。俺は先に顔見せ終えたぜ」
「うん。私はこれから。依頼は受けられそう?」
「ああ。予定通り明後日には出るそうだ。まあ感じは悪くなかったな」
「そう。それは良かったわ」
「ああ。それと、俺達以外にももう1パーティいるらしい。今回は何も起きなければいいが」
「そこは大丈夫よ。あんまり心配しすぎても仕方ないわ」
「それもそうだな。じゃあ、明後日の朝、門前でな」
「うん」
ジュージはすぐに行ってしまった。私達も顔見せをすませよう。
「モエル、これからお仕事の相手と会うから、お行儀よくしててね」
「にゃー」
(敵じゃないならなんでもいい)
私はモエルと共に、デミングル商店に入った。
店番の人に奥へと通される。そこの応接室で、デミングルと会った。
ちなみにこの応接室、借り長屋くらいの広さはある。
「よくいらしてくださいました。私が依頼人のデミングルです」
デミングルはよく太った、口ひげが特徴的な男性だった。非常にニコニコしている。
「ジュージと共に依頼を受けた、二リハです。こっちがテイムモンスターのモエル」
「にゃあ」
(お前、美味そう)
モエルと相手の意思疎通ができなくて、幸いである。
「おお、テイムモンスターですか。すごいですね!」
「ええ、運が良かったんです」
「なに、運も実力の内ですよ。それにお若いしきれいだ。冒険者にしておくのがもったいない!」
「どうも」
事実冒険者なのだから、なんともいえない。
「それでは、早速依頼についてご説明させていただきます。護衛はアラケルまで。移動予定時間は8日。それまでの間、昼夜を問わず私と荷物の護衛をお願いします」
「はい」
「荷馬車は3台。御者は私を合わせて3人いるので、私達や荷馬車、積荷がモンスターの被害にあった場合、状況に応じて成功報酬は減額させていただきます。ただ、予想以上に手強いモンスターが出た場合、それを倒してもらったら追加報酬を出します」
「はい」
なるほど、被害にあった時の報酬の減額か。まあ、護衛依頼だから、その点はいい。手強いモンスターは、たぶん出てこないと思う。
「食料やキャンプ道具等は、できるだけ自分たちで調達してください。私共でも用意はしておきますが、そちらは有料とさせていただきます」
「はい」
「万が一事故等で移動が困難になった場合、私共はその部分を切り捨てて進みます。その際の損失は報酬で減額されません。ですが、荷馬車全てが動けなくなってしまった場合は、その場で一度立ち止まる可能性があります。その時、余計にかかった日数分、追加報酬を出します。金額は一日につき1人700シクルです」
多いような、少ないような。3ランクなら、この程度なのかな?
「今回の依頼は、もう1つのパーティ、青の風刃とも協力していただきます。ランクは3。4人パーティです」
「はい」
「大方の説明は以上です。ニリハ、他に聞きたいことはありませんか?」
「いえ、ありません」
護衛が私とジュージだけじゃないというのは、少し安心だ。私達だけじゃ、少し人数が少ないように思えるから。
「そうですか。では、これから報酬の件についてお話させていただきますが」
はて?
「報酬は依頼書に書いてあったと思いますけど」
「そうです。1人4800シクルと提示してありました。ですが、二リハはモンスターテイマーですので。そのモエルの報酬について、相談したいのですが」
ああ、そういうことか。
一瞬、モエルの報酬はサービス、とも思ったけど、それではモエルだけ働き損だ。そう考え直し、ここは強気に出る。
「モエルは立派な私の仲間です。1人分と考えていいのではないでしょうか?」
「うーん。ええ、私もそのようには考えたいのですが。でも、カジーニャでしょう。ランクとしては1ランクのモンスターです。そこに3ランク分の報酬を出すというのは、どうしても」
デミングルがそう申し訳無さそうに言ってくる。でも値切る気はありありと見える。
私は少し考えた末、先手を打つことにした。
「モエルは優秀です。私のピンチを何度も救ってきました。他の冒険者のもです。更にモエルは3ランクのモンスターを倒す時に大きく活躍してくれました」
「ううーむ、なるほどお」
「ですので、こういうのはどうでしょうか。モエルの報酬は、半額で良いです。それで手を打ちます」
「ううーむ」
デミングルがうなった。もう少しだ。
「そんなに私の言葉が信用できないのですか?」
「いいえ、そういうわけではないのですよ。わかりました。いいでしょう。彼、モエルには成功報酬2400シクルを出します。それで合意ということで」
「ええ、ありがとうございます。デミングル」
これで、報酬の話も決まった。
「では明後日の早朝、門の前で待っています」
「はい。旅の準備をしておきます」
こうしてデミングルとの顔合わせは終わった。
実質、私だけ成功報酬が1、5倍だ。
この額は大きい。モエルのありがたみが更に増したというもの。
モエルの食費もあるけど、2400シクルもあれば当分串焼きをあげられる。
二人分の報酬はもらえなかったが、まあ実際にモエルは1ランクのモンスターなのだから仕方ない。
さて、後は帰るだけだ。旅の準備は明日やろう。
いや待て、私にはもう1つやることがあった。
手紙を書くことだ。
私も近況を手紙に書いておこう。
そう思い、商人ギルドに寄った。
商人ギルドで手紙を書いてもらった。
思ったより長くなってしまった。けど、紙は1枚まで。ただ無事な報告という意味があればいいので、そこまで紙は余計に買わない。
それを手紙にしてもらって、自分で所持しておく。少なくともケルーミ領までつくまでは、私がこの手で運ぼう。
後はヨツヘインの町を、適当に歩いた。この町の風景を、思い出として頭の隅に残しておきたかったからだ。
町には人が大勢いて、活気がある。青果店で店主が大声をあげて客を呼び込み、大通りでは華やかな格好をした若い男女がちらほら歩いている。
この町は、私が生まれた村とは違う。いろんなものがあり、いろんな人達がいて、いろんなことをしている。
それはきっと、羨ましいことだ。村には無い可能性が溢れている。この町に住んでいる人たちは多くが、幸せだろう。
でも、私の幸せは、別にあるから。
だから自分から進んで、この町を出ていく。
その先に幸せが待っているかなんてわからないけど、あるき出さずにはいられない。
とうとう、私の旅が始まる。
この町にいられる残りの時間を、私はちゃんと楽しもう。
夜遅くに、ジュアラが帰ってきた。
「おかえり、ジュアラ」
「ただいま、二リハ。手紙、書いてきたよ」
「良かった。私も」
「まさか私達が、手紙を書くことになるなんて、思わなかったね」
「そうね」
「ふふふ」
「ふふふふ」
私はジュアラから手紙を預かる。
「私が次に止まる家も、もう決まったの。ギルドの人が、力を貸してくれた」
「そっか。良かったね」
「うん。だから、二リハと会えるのも、もうすぐ最後」
「にゃー」
(最後なの?)
「あはは、モエルもいたね。もうちょっとだけ、一緒にいてね」
「モエル。ジュアラにいっぱい、さよならの気持ちを送ってあげて」
「にゃー」
(じゃあ、ちょっと背中触ってもいいよ)
「ジュアラ、モエルが背中触らせてくれるって」
「いいの、ありがとう」
ジュアラがモエルの背中をなでる。
「明後日の朝、私はこの町を出ていく」
「うん。いよいよだね。二リハの旅が」
「うん。明日ゼズさんには、私が家賃を払っておくから」
「そっか。ありがとう。正直、次の住まいの家賃を考えると、少し憂鬱だったの」
「これくらいしかできないけど。ああ、あと、明日の夜ご飯は、私がお世話になったレストランで食べたいの。一緒に行きたいんだけど、いい?」
「うん。わかった。楽しみにしてる。なんていうお店だったっけ?」
「プラムローナー。良いところよ。混んでるけどね」
「きっと、混んでるくらいがいいよ。じゃあ明日、つきあってあげる」
「うん。お願い」
私とジュアラは、今夜もモエルを抱きしめ合って寝た。
こんな夜もあと、明日だけだ。




