ダンジョンに挑んだ後 5
戦いは終わった。けど、ホッと一息つくのはまだ早い。
「ダマン、大丈夫!」
「大丈夫だ。が、動けん。ポーションをくれ」
「わかったわ!」
背負い袋をおろした場所まで走ろうとした時、その方向にクオックが立っているのが見えた。
「クオック、ポーションをお願い!」
「あ、ああ」
クオックは素直に走って、荷物からポーションをとってくる。
私はダマンの傷が防具で若干隠れてるのを確認してから、彼の肩に手をおいた。
「今クオックがポーションを持ってきてくれるわ。飲める?」
「あ、ああ」
ポーションを持ったクオックがやってきて、ダマンに飲ませる。
「く、まだ動けん。若干楽にはなったが」
「もっとポーションが必要ね」
「ほら、持ってきた。一応、2本」
血まみれのリッシが、更にポーションをダマンに与えた。
「ああ。確かに、3つくらい必要だな。わりい」
「本当だな。今回は散々だ」
リッシがそう言って笑った。
「でも、無事生き残った。助かったぜ、ニリハ」
「ええ。モエルのおかげで助かったわ」
「にゃー」
(ニリハ。俺、上手く当てた)
「うん。偉いね。ありがとう、モエル」
私はモエルの頭をなでる。モエルは嬉しそうにする。
「クオックも、ありがとう」
私はクオックも見て、そう言った。
「何が、だよ」
「ポーションを持ってきてくれたじゃない。助かったわ」
少なくともそれで、ダマンは少しでも早く楽になれた。
「なんで、だよ」
しかしなぜかクオックは、怒っていた。
「俺は、お前らを置いて、逃げようとしたんだぞ」
クオックは自分の胸に手をあてて訴える。
「俺は、お前らを見捨てようとしたんだ!」
「でも、あなたは今ここにいるじゃない」
一瞬静かになった。だからこそ、私は続ける。
「あなたは逃げなかった。それだけで、私は嬉しいわ。私達のことを、仲間だって思ってくれたんでしょ。私はそんなあなたを、快く迎えるわ。一緒に生き延びれて、良かった」
そう、本当に良かった。
たぶん、今回全員が生き延びれたのは、奇跡に近い幸運だ。
「違う、違う、違う!」
クオックは首を横にふる。
「俺は何もしなかった。お前らの背中に隠れて、真っ先に逃げ出した! アースカッターを倒したのは二リハ、お前だ。それで俺に何が言える。何ができる。どうせ俺のこと荷物だとか思ってるんだろう!」
「クオック。それでもあなたはここに残ったんでしょ。何かができると思ったんでしょ。それを私は、うれしく思うわ。あなたは荷物なんかじゃない。大切な仲間よ」
「大切な、仲間」
クオックは地面に両膝をついて、泣いた。
「うう、うううっ、ぐすっ」
しばらく私達は、その場で静かにしていた。
ソウピッグと焼けたアースカッターをリアカーに積んだ。
リッシとダマンはポーションを飲んだとはいえ全快とまではいかなかったから、私とクオックで力を合わせて積んだ。
警戒はモエルだけに任せて、皆でリアカーを動かす。そして今日は、暗くなってから町に戻った。
「アースカッターは二リハが倒したということにしてくれ。実際そうだし、俺は助けられた側だからな」
「わかったわ、ダマン。ありがとう」
素材センターで運んだ物を引き渡したら、私はソウピッグ一体とアースカッターの代金をもらえることになった。まあ、相変わらずソウピッグの分20%は取られるけど、そこは仕方ない。今回の戦いでリッシとダマンは、どちらもポーションを使い切ったらしい。手痛い出費だ。
けど、後は買取額を待つだけ。となったところで、リッシとダマンにまた声をかけられた。
「なあ、二リハ、クオック。今日は飲まないか。話したい気分なんだ」
「え、ええ。いいわ」
「ああ、わかった」
私とクオックは逡巡しつつも、誘いに応じておいた。
「にゃー」
(うま、うま)
モエルは床で肉料理をもらっている。今日はご褒美だ。
ここは冒険者ギルドのバースペース。
そこで私は、ぶどうジュースを飲みながらリッシ達の話を聞いていた。リッシ達は普通にビールを飲んでいる。けど私はそんな気分にはなれなかった。酔って借り長屋に帰りたくなかったし。
「俺達は、新ダンジョンに挑戦して、その結果パーティがほぼ壊滅したんだ。クオックのところもな」
リッシが言った。どうやらこれが話したいことだったらしい。
「こっちは仲間が2人死んで、俺とリッシは途方に暮れた。4人と2人じゃできることが違う。特にダンジョンに入る前に、2ランクのサンドスネークに心を折られた後だ。幸いリアカーはあったからソウピッグ狩りにまた戻れたが、正直俺はもう、このまま一生ソウピッグを狩って人生終わるんだと思った」
「けどまさか、ソウピッグ狩りでもやられそうになるとはな。なんか、死んだ仲間の元へのお迎えが、もう来たのかって思ったね。アースカッターに首斬られたくらいでよ。終わってみりゃ、運が良かったというか、二リハのおかげだ。今回のことは、本当に感謝してる。ありがとう」
「いえ、別に」
「でも、心が揺れてるのはクオックもだろ。どうする、これから。こんなことがあっても、まだソウピッグ狩り、続けられるか?」
2人の視線がクオックへと向けられる。私もクオックを見た。
クオックはビールを一気に飲んでから、言った。
「俺のパーティ光の息吹は、サンドスネーク一体に俺以外の全員殺された。運良く最後に残された俺だけ、無様に逃げ延びて、1人だけ町に戻ってきた。今回も、同じだ。俺は逃げた。次もまた逃げるだろう。もうお前達の期待には応えられない。まあ、大して期待なんてしてなかったかもしれないが」
どうやら、クオックは自分でそう思っているようだ。
だからこそ私は、こう言った。
「でも、クオックはアースカッターの元へ戻ってきた。私達の元に戻ってきた。だったら次はもう、逃げないかもしれないじゃない? 私はクオックを、信じられるよ。期待もできる」
一瞬場が静まり返った後。
「そうだな。俺も信じられるぜ。お前を」
「ああ。というか、次はもう遅れをとらん!」
リッシとダマンがそう言って笑った。
やっぱり私達は、いつの間にか信頼し合えるようになっていたようだ。
後は、クオックがうなずくだけ。
私達がそれを待っていると、クオックはうつむいて言った。
「俺は、仲間を守れるやつに、なりたかった」
クオックはまた肩を震わせて、泣いた。
「もうなってるよ。これからは、今ここにいる仲間を守ろう」
きっと今、クオックには温かい言葉が必要だ。
いや、誰にだって必要だ。
だから私は、それをかける。
「やっぱり、二リハを誘って良かったよ」
リッシがそう言って、ダマンがうなずいた。
「ああ。ああ。惚れそうだ。ていうか惚れていいか?」
「ダメ。私には好きな人がいるの」
「そうかー。それは残念だ」
「にゃー」
(ニリハのそばには俺が近づかせない)
その後はそのままずっと、しんみりしながら飲み続けて。
「リッシ、ダマン。俺を、お前らの仲間に加えてくれ。今度こそ俺は、仲間を守るから」
「ああ、喜んで」
「これからよろしくな。クオック」
やがて三人がそう結論を出して、その場はそこでお開きになった。
きっとこの絆は、もっと強くなるだろう。




