ダンジョンに挑戦 5
休憩している最中に、サンドスネークが三回現れた。
怪我なくそれらを倒し、モンスターの焼けた後が冷めたのを確かめてから、シラーとビッホが持ち上げて運ぶ。
ちなみに、また緑色のモンスターが現れた場合は、全力で逃げるつもりだった。
「高く売れればいいが」
ビッホが言う。
「これを持っていって売れなかったら、流石にきついな」
ラッシが言う。まったくだが、これとサンドスネークしか倒せなかったのだ。そしてポーションを使いまくった彼らは、それでも価値があると期待するしかない。
「私も警戒するわ」
帰り道に会ったのは、パラライズバタフライ2匹と、スライム2体。ブラッドバタフライが1体。
それらも倒して、私達は夜遅くに門まで帰ってきた。
「門、開かないな」
「もう夜遅いから、仕方ないだろ」
私達は門の前で座り込んだ。門の前にも、1人2人寝ている人がいた。
「見張りを交代しながら眠ろう」
「二リハはそのまま寝ててくれ」
「わかったわ」
私はお言葉に甘えて、モエルをなでながら横になった。
「今日はお疲れ様、モエル」
「にゃー」
(敵が来たら、俺が起こすから)
「うん。ありがとう。よろしくね」
でも、外でなんて、寝られるだろうか?
空を見上げたら、星がキラキラと光っていた。
大月の回りに、赤月と青月が並んでいる。白月と緑月は出ていない。
旅を始めたら、私はきっと、何度もこの夜空を眺めることになるだろう。
今の内に、寝られる習慣を身につけておくべきかもしれない。私は、頑張って眠った。
朝、日が昇りきる前に目が覚めた。
まだ門は開いていない。私が起き上がると、モエルも立ち上がった。
「にゃー」
(おはよう)
「おはよう。モエル」
ひとまず、朝のごはんを渡しておく。私も食べておこう。
「はい。朝ごはん」
「にゃー」
(俺それ嫌い。固くて美味しくない)
「ごめんね。今はこれで我慢して」
「にゃー?」
(いつまた肉食える?)
「そうね。それじゃあ、門が開いたら、また串焼きを買いに行きましょう」
「にゃー!」
(それじゃあ、それまで待ってる!)
「あ、モエル」
モエルは黒パンを食べなかった。まあ、いいか。モエルには今回、何度も助けてもらった。ご褒美に串焼きをあげよう。
2本あげたら食べ過ぎかもしれないから、夜もう1本あげようかな。
シラー達も、起き上がり始めた。私は黒パンを食べてから、ラッシに話しかける。
「ねえ。門が開くまで、稽古につきあってくれない?」
「ああ、いいよ。それまで暇だからな」
「槍で相手してもらうのは初めてなのよ。よろしくね」
私はラッシと向かい合った。
「にゃー?」
(ニリハ、あいつも敵?)
「違うわ、モエル。これから戦いの練習につきあってもらうから、モエルは離れて見てて。危なくないから)
「にゃー」
(わかった)
「じゃあ、始めよう」
「ええ」
私はラッシと戦った。
私は盾を構えて前に出る。すると、ラッシは槍で突いてくる。
見ている方としては、槍が突然伸びてきたように見える。狙いもわかりづらい。
それでも、なんとか盾で防ぎ、時には剣ではらう。
「よ、はっ」
ラッシは槍での攻撃を続け、こっちは防戦一方だ。ダメージは受けていないが、ギリギリである。
私はひたすら、攻撃に耐え続けた。攻めるのは、相手の攻撃を見きってからだと考えたためだ。余裕もないし、ここは防御の技術を学ばせてもらおう。
ひたすら相手の攻撃を防御していると、だんだん相手の攻撃に慣れてきた。
槍での攻撃は相変わらず対処しにくかったが、ラッシの呼吸というか、癖のようなものに気付いてきたのだ。そして、やれる。と思った瞬間、一気に前に出た。攻撃の時は攻撃に集中する私の癖は、ここでも遺憾なく発揮され、剣が当たるようになるまで一気に近づく。
ラッシは後ずさりながらも槍で攻撃し続けた。けれど後退する分、槍の勢いが削がれていた。私は恐れず近づき、剣を振る。
最初の攻撃は槍で防がれたが、私もそれは承知の上だった。むしろ2回目、3回目の連続攻撃に力を入れる。
すると、ラッシは私の剣をまともに受けた。
「く!」
ラッシは焦り、更に私から離れようとした。けれど私はそこにチャンスを見出し、槍を盾で弾きながら剣を突き出す。
その刃のすぐ横に、ラッシの顔があった。
「稽古は一度、ここまでにしましょう」
「あ、ああ」
「ありがとう。参考になったわ」
「ああ。強いな、二リハは」
「ええ。強くなりたいから」
「にゃー」
(おつかれ、二リハ)
私達が稽古をしている間に、門が開いた。
私達はすぐに素材センターに行き、素材を買い取ってもらった。
まずは、シラー達の素材からだ。
「これはまた、大きなものを持ってきたな。モリンモか」
「モリンモって言うんですか?」
「ああ。3ランクモンスターでな。武器が効きづらかっただろう。倒したのも、燃えたのが原因みたいだしな」
「あの、それ、お金になります?」
「ああ。燃えてるから買取額は半減だけどな。特に、こいつの心臓部である石が傷ついていたら、値打ちは大きく下がる。まあひとまず、解体してみるよ。お前らも、今度からはモリンモの石だけ持って帰るようにしろよ。まあ体は体で売れるんだが、まず燃えたモリンモに需要はない」
「そうですか」
シラー達はがっかりした。けど、解体センターの職員の言葉にはまだ続きがあった。
「あと、これを倒したのはお前たちじゃないな?」
「い、いえ、私です。というか、このモエルです」
「にゃー」
「だろうな。この中で火魔法を使えそうなのはそのモンスターだけだろうからな。だがそのモンスターは、この赤の刃のメンバーじゃないだろう」
ああ、シラー達、そんなパーティ名だったっけ。
「はい。私とモエルは、今回だけの臨時で加入してました」
「こちらで買い取った素材のランクによって、冒険者にポイントを加算してるんだ。だから、こういう他の冒険者に素材をゆずるような真似は、冒険者ランクを上げる詐欺紛いの手口になる。だからこのモリンモの代金は、お前にもらって欲しいんだが」
そう言われると、シラー達は私を見た。私は迷わず答える。
「彼らとは、1ランクの素材を私がもらえるという条件で一緒になりました。だから、3ランクのモリンモの素材は彼ら持ちでかまわないです。ですが、ポイントだけ私にください。それでいいわよね?」
「あ、ああ」
「そうだな」
シラー達はうなずいてくれる。
「わかった。モリンモのポイントはお前につけておこう。後は査定だな。ちょっとまっててくれ」
職員はそう言って、数人がかりで今回の獲物を持って奥へ引っ込んだ。
買取額を待つ間、私達は顔を見合わせる。
「二リハ。今回は助かった。本当にありがとう」
すると突然、ラッシがそう言った。
「うん。私も、良かった。誰も死なないで」
「いいや、俺達は甘く考えていた。ニリハとモエルがいなかったら、俺達は死んでいた。モリンモと戦った時、いや、最初のサンドスネークと戦った時も、ニリハは俺を救ってくれた。そのことは忘れない。しばらくは、ダンジョンには行かないことにする」
「おい、それでいいのか?」
シラーが言うが、ラッシは首を横に振る。
「どのみち、ダンジョンにはもう高ランクの冒険者が向かってる。少なくとも宝は皆持っていっただろう。残ってるのは、モンスターだけだ。そして俺達だけでは、おそらくダンジョンから出てきたモンスター、モリンモには勝てない。だから、ダンジョンまで行けても大した稼ぎにはならない。まだ依頼を地道にこなしている方が手堅い」
「そう、だけど、よ」
「俺もラッシと同じ意見だ。とにかく、今回は助かった。また一緒に戦うことがあったら、よろしく。その時には、もっと強くなっているよ」
ガッツォもそう言ってくれた。ビッホもうなずく。シラーは頭をかいた。
どうやら、もう危ない真似はやめてくれるらしい。私は今回のダンジョン挑戦が、失敗ながらも上手くいったことに少し満足した。
「ええ。次もよろしくね」




